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オスカー前夜。大接戦の作品部門ほか主要部門を、L.A.在住映画ジャーナリストが予測

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
明日のオスカー授賞式に向けて、着々と準備が進められている(写真:ロイター/アフロ)

アカデミー賞が、いよいよ明日に迫った。ハリウッドのドルビー・シアター近辺の一角は今週初めから交通が遮断され、ビバリーヒルズやウエストハリウッドの一流ホテルは業界関係者でいっぱいだ。投票は、現地時間火曜日午後5時に締め切られている。

「レヴェナント/蘇えりし者」「スポットライト 世紀のスクープ」「マネー・ショート 華麗なる大逆転」のうち、どれが作品賞を取るのかは、ぎりぎりのこの段階になっても、予測が非常に難しいところだ。オスカー予測の鍵となるのは、プロデューサー組合(PGA)賞、映画俳優組合(SAG)賞、監督組合(DGA)賞の結果だが、今年は、「マネー・ショート」がPGA、「スポットライト」がSAG、「レヴェナント」がDGAを受賞している。3つの団体の意見が完全に分かれたのは、2005年以来、初めてのことだ(この年、オスカーの結果はDGAと一致し、『サイドウェイ』『アビエイター』を押しのけて、『ミリオンダラー・ベイビー』が受賞している。)

この3つの賞の中で、とりわけ重視されるのは、PGA。PGAの結果は、過去8年連続でオスカー作品賞と一致している。さらに、PGAは、オスカーと同じ投票システムを使っているhttp://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160209-00054252/)。とすると、「マネー・ショート」が有利に見える。

だが、「レヴェナント」は、この3つの賞の最後に発表されたDGAを受賞し、その後の英国アカデミー(BAFTA)も受賞して、勢いを増している。BAFTAは、昨年こそオスカーと意見が食い違ったが(昨年BAFTAは『6才のボクが、大人になるまで。』を選んだ、)基本的にはオスカーと一致することが多い。また、アカデミー会員でBAFTAにも所属する人は500人と、アカデミーの8%を占める。BAFTA の発表はオスカーの投票期間の真っ最中で、DGA勝利は投票開始の直前だった。この勢いを見せつけられて、アカデミー会員が影響を受けた可能性は考えられる。

一方で、「レヴェナント」は、作品賞受賞に欠かせないとされる脚本/脚色部門へのノミネーションを逃しているという事実がある。脚本/脚色部門に候補入りしない映画が作品賞を取ったことは、この半世紀に「タイタニック」しか例がない。だが、「レヴェナント」の監督アレハンドロ・G・イニャリトゥは、昨年、編集部門に候補入りしていなかった「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」で作品賞を受賞し、編集部門候補に食い込まない映画は作品賞を取りづらいという通説を覆している。

「マネー・ショート」は脚色部門、「スポットライト」は脚本部門を総なめしてきており、これらの部門の受賞は、オスカーでも確実だ。この2作品は、演技、監督、編集など、作品部門受賞の鍵となるほかの分野でも候補入りしているが、これらの部門での受賞は、「マネー・ショート」の編集部門を除けば、かなり低いと思われる。とすると、いずれかが作品賞を取った場合、作品部門と脚本/脚色部門の2部門でしか取らないことになる。たった2部門でしか受賞しなかった映画が作品賞を取ったケースは、「地上最大のショウ」(1952年)以来、一度もない。

ということで、やはり「レヴェナント」が微妙にリードしていると、筆者は見る。とはいえ、2年連続で同じ監督の映画が作品賞を取ったことは過去に一度もなく、脚本/脚色部門にもノミネートされていないこの作品が受賞すれば、いくつもの常識を破ることになる。

以上を踏まえて、予測をしてみよう。

作品部門

(候補作)

「マネー・ショート」

「ブリッジ・オブ・スパイ」

「ブルックリン」

「マッドマックス 怒りのデス・ロード」

「オデッセイ」

「レヴェナント」*受賞

「ルーム」

「スポットライト」

コメント:アカデミーの投票システムと同じシステムを使うPGAを取った「マネー・ショート」の受賞の可能性も十分あり、本当に予測が難しいのだが、ここはあえて、今の“勢い”を取ることにする。

監督部門

(候補者)

アダム・マッケイ「マネー・ショート」

ジョージ・ミラー「マッドマックス」

アレハンドロ・G・イニャリトゥ「レヴェナント」*受賞

レニー・アブラハムソン「ルーム」

トム・マッカーシー「スポットライト」

コメント:イニャリトゥはDGAを受賞している。60年以上の歴史の中で、DGAを取った監督がオスカー監督賞を取らなかったことは、7回しかない。昨年も、イニャリトゥは、「バードマン」でDGAとオスカー監督賞をダブル受賞している。同じ監督が、2年連続でオスカー監督賞を取るのは、ジョセフ・マンキウィッツが「三人の妻への手紙」(1949年)「イヴの総て」(1950年)で達成して以来、初めてとなる。

主演男優部門

(候補者)

ブライアン・クランストン「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」

マット・デイモン「オデッセイ」

レオナルド・ディカプリオ「レヴェナント」*受賞

マイケル・ファスベンダー「スティーブ・ジョブス」

エディ・レッドメイン「リリーのすべて」

コメント:ディカプリオは、今年、ほぼすべての主演男優賞をかっさらっている。キャリア5度目のノミネーションでもあり、「そろそろあげるべきだ」という空気もあって、オスカーも受賞は確実だ。

主演女優部門

(候補者)

ケイト・ブランシェット「キャロル」

ブリー・ラーソン「ルーム」*受賞

ジェニファー・ローレンス「Joy」

シャーロット・ランプリング「さざなみ」

シアーシャ・ローナン「ブルックリン」

コメント:SAG受賞者であるラーソンは、オスカーでもフロントランナーだ。小規模で親密な母子のドラマを最初から最後まで引っ張った演技力は、評価に価する。

助演男優部門

(候補者)

クリスチャン・ベール「マネー・ショート」

トム・ハーディ「レヴェナント」

マーク・ラファロ「スポットライト」

マーク・ライランス「ブリッジ・オブ・スパイ」

シルベスタ・スタローン「クリード チャンプを継ぐ男」*受賞

コメント:SAGでは「Beasts of No Nation」のイドリス・エルバがこの部門を受賞したが、エルバはオスカーにはノミネートされていない。スタローンのオスカーノミネーションは、「ロッキー」(1976年)1作目以来、初めてのこと。彼が生み出したキャラクターで、40年ぶりに授賞式に戻り、初受賞につながるというのは、アカデミー会員が好みそうなドラマである。

助演女優部門

(候補者)

ジェニファー・ジェイソン・リー「ヘイトフル・エイト」

ルーニー・マーラ「キャロル」

レイチェル・マクアダムス「スポットライト」

アリシア・ヴィキャンデル「リリーのすべて」*受賞

ケイト・ウィンスレット「スティーブ・ジョブス」

コメント:ヴィキャンデルはSAGを受賞しており、BAFTAには、今作と「Ex Machina」でダブルノミネートされている。昨年北米で出演作が4作品も公開されているヴィキャンデルは、それらも含めて評価されると思われる。

脚本部門

(候補作)

「ブリッジ・オブ・スパイ」

「Ex Machina」

「インサイド・ヘッド」

「スポットライト」*受賞

「ストレイト・アウタ・コンプトン」

コメント:「スポットライト」はBAFTA、脚本家組合(WGA)賞など多数をこの部門で受賞している。オスカーでも、この部門のフロントランナーだ。

脚色部門

(候補作)

「マネー・ショート」*受賞

「ブルックリン」

「キャロル」

「オデッセイ」

「ルーム」

コメント:「マネー・ショート」はBAFTA、WGAほか多数の賞をこの部門で受賞しており、脚本賞は「スポットライト、」脚色賞は「マネー・ショート」でほぼ決まりと思われる。映画化しにくい、金融界についてのノンフィクション本を、娯楽性があり、緊迫感のある映画の脚本にしてみせた力量は、受賞にふさわしい。

撮影は「レヴェナント、」長編アニメは「インサイド・ヘッド、」長編ドキュメンタリーは「Amy、」編集は「マネー・ショート」が受賞すると予測するが、編集は「マッドマックス」が取る可能性も十分ある。もし編集を「マッドマックス」が取ったとし、今の筆者の予測どおりになれば、「マネー・ショート」と「スポットライト」は結局それぞれ1部門でしか受賞せず、「レヴェナント」は4部門で受賞するということになる。いずれにしても、結果は、まもなく明らかになる。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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