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米欧が機器をかき集めて「パッチワーク」のような防空網をウクライナに構築する

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
冬小麦畑の近くで砲撃を受ける。ドネツク州バフムトの町付近。6月18日。(写真:ロイター/アフロ)

10月11日のG7緊急会合で、ゼレンスキー大統領は、ロシアのミサイルや無人機の攻撃からウクライナ国民を守るための「防空網(エアシールド)」を、緊急要請した。

欧州最大級の原発のあるザポリージャや、西の中心都市リヴィウなど、エネルギーインフラを標的としたロシアの爆撃が、1日中ウクライナの都市を襲ったからである。これはクリミア橋攻撃の報復である。

ウクライナの情報機関によると、特にモスクワがテヘランに発注した約2400機のイラン製ドローンShahed-136による攻撃に対処するために、防空網が必要なのだという。

緊急会合に先立ち、バイデン大統領は10日のゼレンスキー大統領との電話会談で、対空防衛の「先進システムを含む自衛に必要なものを、ウクライナに提供し続ける」ことを約束したと、ホワイトハウスの声明は伝えている。

また、米国防総省は、低空飛行の航空機(ドローン等)を撃墜する効果の高いスティンガー・携帯型ミサイルを1400発以上をキエフに納入したとも発表している。

ドイツは11日、夏の初めに約束した4基のアイリス-Tシステムのうち、1基の納入を完了した。

ランブレヒト独国防相はG7会議の前日、「キーウやその他の多くの都市に対する新たな一連のミサイル攻撃は、防空システムを迅速に提供することがいかに重要であるかを示している」と述べた。

左はランブレヒト独国防相、右はリトアニアのアヌサウスカス国防相。リトアニアのルクラ近辺で、ドイツ軍主導のNATO強化前方駐留の戦闘群軍事演習に出席。10月8)
左はランブレヒト独国防相、右はリトアニアのアヌサウスカス国防相。リトアニアのルクラ近辺で、ドイツ軍主導のNATO強化前方駐留の戦闘群軍事演習に出席。10月8)写真:ロイター/アフロ

アイリス-Tシステムは射程距離40kmで、高度2万mまでで活動するミサイルや航空機を破壊することができる。在ウクライナ・ドイツ大使によると、2つ目のバッテリーは年内に納品される予定だという。

ゼレンスキー大統領は、G7でこの2カ国に「個人的に」お礼を述べたという。

G7では、エアシールド計画を明確には引き受けなかったようだが、このアイデアは西側諸国に浸透しつつあるものの、実現が難しいことが判明しているという調が欧州メディアにはあった。

西欧の場合はたいていそうなのだが、すぐにも供給しないのは、不足しているのが最大の理由である。

ミリー米将軍の提案

ところが、G7会合の翌日の12日、この問題が引き続きブリュッセルで話し合われたときのことだ。

NATO本部で行われたNATO国防相会合と、ウクライナに武器を供給する50カ国ほどで構成される、通称「ラムシュタイン・グループ」の会合の場である。

「今日会議に参加した様々なすべての国がここで行う必要があるのは、統合された航空・ミサイル防衛システムを再構築して、維持し支援をすることだ」と、米国の制服組トップの将軍、マーク・ミリー統合参謀本部議長が、会議後の記者会見で述べた。

CNNの報道によると、ミリー将軍は、複数の国がそれぞれが持っていて運用している様々なシステムを送れば、ウクライナはそれらを組み合わせて「コマンド&コントロールとコミュニケーション・システム」で「リンク」させることができると提案した。

つまり、NATO標準で互換性のある機器で「パッチワーク(つぎはぎ)」の防空システムをウクライナに早急に構築するよう、圧力をかけているのである。

ちなみに「ラムシュタイン・グループ」とは、オースティン米国防長官が主催するもので、「ウクライナ国防コンタクト・グループ」のことである。

今回は4月以来6回目の会合で、50カ国もの国から閣僚や国防長官が参加、ウクライナ側からは、レズニコフ国防相と、ウクライナ統合軍司令官のモスカリョフ少将が出席したという

10月12日、ベルギーのブリュッセルで記者会見するマーク・A・ミリー将軍。やはりアメリカがいないと欧州はダメかもしれない。
10月12日、ベルギーのブリュッセルで記者会見するマーク・A・ミリー将軍。やはりアメリカがいないと欧州はダメかもしれない。写真:ロイター/アフロ

さて、米国はナサムス防空システムを約束し、その最初の2台はまもなくウクライナに到着する予定であるという。さらにレイセオン社に6台を発注したが、これらの短距離から中距離、中高度のシステムの納入は、2〜3年先になる可能性がある。

ドイツは、最新世代のアイリス-Tシステムの1基目をキーウに引き渡したが、約束した他の3つについては、来年まで待たなければならないだろう。中距離だが高高度のシステムで、小さな都市を守るために設計されている。

フランスのマクロン大統領は12日、キーウに「(ウクライナ人を)攻撃、特にドローン攻撃から守るためのレーダー、システム、ミサイル」を提供すると発表した。

機種は明らかにしなかったが、米軍関係者は、米国のパトリオットの対抗馬、欧州メーカー・仏タレス社製の「マンバ」と呼ばれる高高度地対空防衛システム「SAMP/T」に言及した。既にフランス、イタリア、シンガポールで運用されている。

ゼレンスキー大統領も、フランスに対して「SAMP/T(マンバ)システムの納入を心待ちにしています。できれば今後数ヶ月以内に」と、G7会合で述べていた。

ポーランドで開催された国際軍事博覧会で紹介された仏・タレス社の対ミサイルシステムSAMP/T・マンバ。2014年9月2日。
ポーランドで開催された国際軍事博覧会で紹介された仏・タレス社の対ミサイルシステムSAMP/T・マンバ。2014年9月2日。写真:ロイター/アフロ

しかし、フランスが所有している8基のうち6基は、核抑止力の空中部門を担う戦略空軍・宇宙軍に使用されているのだ。

他の2基は、G7やG20、オリンピックなどの重要イベントのために使われているが、そのうち1基は、すでにルーマニアのコンスタンタにあるNATO基地に配備されて、ロシアの攻撃の可能性から守っているのである。

戦車もそうだが、冷戦終了後に軍事費をきりつめてきた西欧の国々にとっては、援助はそう簡単ではない。自国防衛との兼ね合いをどうつけるかという問題になってくるのだ。

欧州の防衛なくして自国の防衛はないとはいえ、様々な葛藤がうまれるが、今のところ欧州は、ごく一部の国やケースをのぞいて、NATOやEUは団結している。

西欧とアメリカの微妙な駆け引き

とにかく、大急ぎでこのシステムを構築するために、米国は12日に同盟国に対して、たとえ古いものであってもNATOの基準に合致していれば、利用可能な対空装置を提供するように求めた。『ル・モンド』が報じた。

スペインは13日、一番に前向きな反応を見せて、ウクライナに中距離地対空システム「ホーク」を4台を送ることを発表した。

オースティン米国防長官は、この「非常に迅速な対応」を歓迎した・・・というのだが。

このシステムは冷戦時代に作られたものだ。長年にわたって近代化されてきた。スペインは、その一部を改修して延命させている。

そんなスペインに対し、ワシントンは、「マンバ」と同様にヨーロッパのメーカーでつくられた、MBDA社製のスペインの「スパダ 2000」システムにも関心を持っていると、匿名希望のアメリカの当局者は説明した。

新しい機種を渋りがちな西欧の国々にプレッシャーをかけて、出させようと努力するワシントンーーという構図が見てとれる。

英国は12日、米国が供給するナサムス・システムを対象とした、アムラーム・ミサイルを送ることを発表した。

弾道ミサイルに対する防衛力を確保するため、ワシントンはウクライナに長距離バッテリーのパトリオットを装備することを計画しているという。備蓄に限りがある米軍は、購入した他の国にも参加するよう働きかけている。

また、ワシントンはイスラエルに、同国製の優れた対空システム「アイアンドーム」のエレメントを提供するよう説得しようとしている。

ウクライナ当局は、イスラエルがこの分野で自分たちを助けようとしないことを非常に不満に思っているのだという。

アイアンドームが迎撃ミサイルを発射。8月7日、イスラエルとガザの国境近くの空で。
アイアンドームが迎撃ミサイルを発射。8月7日、イスラエルとガザの国境近くの空で。写真:ロイター/アフロ

これらのシステムがすべて納入されたら、「指揮と通信のシステムで相互にリンクできるようにし、相互に通信できるレーダーを搭載していることを確かにして、接近飛行のターゲットを発見できるようにする」ことが必要だと、ミリー将軍は説明した。

「技術的に複雑で、少し時間がかかりそうだ」という

こうやって少しずつNATOとロシアの闘いになっていくのだろうか。「対空ミサイル」であり、防御のためのシステムだから、まだ一線は越えていないのだろうか。

しかし、はるか遠くのアメリカはともかく、同じ大陸に住むヨーロッパ人は、そのような事態を望むだろうか。

ここでまた、東にあるソ連の支配を受けた国々やロシアに近い国々と、西欧の国々との違いがあらわになってくるだろう。

EUは平和を推進するのに大いに貢献できても、いざ軍事・戦争となると、アメリカがいないと、NATOでないと、欧州はまとまることができないようだ。

二つの大戦、そして冷戦を経て、ヨーロッパ人はあれほど平和を望んだのに、こうなってしまった。歴史の必然として必ず民主主義の先進国が勝つ20年後、30年後を見据えて、今を耐えるしかないのだろう。

その希望がもてるだけ、東アジアより欧州はずっとマシに思える。うらやましい。

青森県鯵ヶ沢。日本海の日没
青森県鯵ヶ沢。日本海の日没写真:イメージマート

※余談だが、日本の領土の上空を飛ぶ、北朝鮮のミサイルはどうなっているのだろう。

日本は平和国家だから、攻撃はしないが、相手が攻撃してきたら迎撃して国土を守るのではなかったのか。

ウクライナのような目にあわないと、同盟国は本気になって日本を守ってくれないのだろうか(ヨーロッパ人と同じで、守られるのに慣れきっている感情だとは思うが・・・)。

でも、もともと日本は同盟国で、ウクライナはそうではなかったはずだが・・・。

日本政府は、相変わらず国交のない国相手に、中国を通して抗議するだけなのだろうか。それだけなのか。それで平和は本当に保てるのか。

頭が混乱している。戦争が始まってからずっとそうだ。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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