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アメリカ大使館が自国民に避難要請、カナダとドイツが「グリーン水素同盟」:ウクライナ戦争開始から半年

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
ロンドンの首相官邸の入口。ウクライナの独立記念日のための花飾りのアーチ(写真:ロイター/アフロ)

8月24日、ロシアがウクライナに対して戦争を始めてから、半年が経つ。この日は、ウクライナのソ連からの独立記念日でもある。

米国国務省は22日(月)、ロシアが今後数日のうちに、ウクライナの民間インフラや政府施設に対する攻撃を開始しようとする動きを強めていると警告した。

在キーウの米国大使館は、ウクライナに滞在している米国市民に対し、直ちに国外に出るよう促した。

また、カナダとドイツは23日(火)、「水素同盟」の設立を発表した。欧州がロシアの化石燃料への依存を減らすために、「大西洋横断サプライチェーン」への道を開くものだ。

ショルツ首相は、ビジネスフォーラムも訪問した。写真はモントリオール科学センターの外の記者会見の様子。8月22日
ショルツ首相は、ビジネスフォーラムも訪問した。写真はモントリオール科学センターの外の記者会見の様子。8月22日写真:ロイター/アフロ

カナダのトルドー首相は、ドイツのショルツ首相との記者会見で、「これはクリーン・エネルギーのリーダーであるカナダへの信任投票である」と述べた。

ロシアが欧州に対してエネルギー恐喝を行っていることに対して、トルドー首相は「世界は、エネルギー政策を操作するロシアのような権威主義的な国に依存し続けることはできない」と言った。

「短期的な制約や液化天然ガス(LNG)の話も必要だが、長期的には大西洋岸地方のグリーン水素に真の可能性がある」とショルツ首相は述べた。

このパートナーシップにより、カナダは「水素と関連するクリーンなテクノロジーの主要輸出国」になることを目指している。これは、「産業の脱炭素化のために再生可能な水素を大量に輸入」し、ロシアのエネルギーからの解放を目指すドイツにとって、特に関心のあることである。

3日間滞在しているショルツ氏とトルドー氏がスティーブン・ビル(ニューファンドランド・ラブラドル州)で署名した共同宣言によると、最初の水素供給は2025年に予定されている。

カナダの大西洋岸にあるこの街に、アメリカのワールドエナジーGH2 社が、164ギガワットの風力発電機を動力源とする水素製造施設の建設をめざしているのだ。

グリーン水素は、再生可能エネルギーである電力を使って、水から酸素と水素を分離する「電気分解」によってつくられる。

この提携の中で、オタワの政府は、州や準州との協力を強化することにより、「国内使用、ドイツやより広いヨーロッパ市場やアジアへの輸出」のために、カナダでのグリーン水素の生産と輸出を発展させたいと考えていると、文書には書かれている。

ちなみに、筆者が識者から得た情報によれば、ショルツ首相は4月下旬に日本に来ているが、その時の主要なテーマはこのグリーン水素だったのではないかということだった(同時期のアフリカ訪問も、同じ目的だったのではと言われる)。

日本は、世界一と誇っても良いほどの、水素の技術をもっているのだ(他国に追い抜かれるリスクも指摘されているが)。

しかし、ドイツ首相来日に関して、日本政府側からは特に公式発表はなく、メディア側も、筆者が把握している範囲では、このことに焦点を当てたものはなかったと思う。

世界に誇れる技術はもっていても、政治のまずさのせいで低迷に苦しむという情けない事態が、また起こるのだろうか。

スターバックス社のロシア撤退に伴いオープンした「Stars Coffee」。レストラン経営者のAnton Pinskiyが共同経営者のラッパーTimatiと8月18日モスクワでの立ち上げ式に出席
スターバックス社のロシア撤退に伴いオープンした「Stars Coffee」。レストラン経営者のAnton Pinskiyが共同経営者のラッパーTimatiと8月18日モスクワでの立ち上げ式に出席写真:ロイター/アフロ

戦争が始まってから半年経った。双方の国内の様子はどうだろうか。

仏ル・モンド紙によると、ロシア国内では、最も貧しいロシア人たち、プーチンのクレムリンに忠実な労働者階級は貧しいままであるという。彼らは、裕福なエリートに対する制裁を歓迎し、憎きオリガルヒを追ってくれた西側に感謝をしている。

結局のところ政権に依存している富裕層は金持ちのままで、すでに身辺整理や対策も済んでいる。その間で、中間層が苦しんでいる。制裁で一番苦しむことになるのは、中間層なのだ、という意見があるという。

一方で、ウクライナのほうでは、世論調査によると、2019年に大統領になった素人の政治家で、元コメディアンのゼレンスキー大統領が、引き続き国民の間で大きな支持を得ている。

しかし、ロシアのミサイルが降り注ぐ中、2022年2月に大統領の背後で結ばれた政治的結束に亀裂が入りつつあるように見え、最初の大統領批判が起こっている状況だという。

最も大きな危機と言われる核の危機についてはどうか。

欧州最大規模と言われるザポリージャ原発は、国連安保理でロシアとウクライナのにらみ合いが続いている。半年を迎えた今日、ワシントン、パリ、ロンドンなどの要請により、侵攻6ヶ月を記念して、午前中にも安保理が開かれる予定である。

このような状況の中にも、朗報はある。米国高官が23日(火)に報告した数字によると、ウクライナは8月には、ロシア侵攻前とほぼ同量の穀物を輸出する予定である。

アメリカに次いで、ドイツ政府報道官は23日、ドイツがウクライナに約5億ユーロの追加軍事支援を行い、その一部は2023年に行われると発表した。

報道官はAFP通信に対し、納入品の中に3台のIRIS-T防空システム、「12台の回収戦車、20台のピックアップ搭載ロケットランチャー」、さらに「精密弾薬と対ドローン装置」が含まれると述べた。

気がかりなのは、赤十字の警告である。

ウクライナ戦争が世界の人道主義体制に重荷になっているという。

この紛争は、世界の人道的システムを圧迫しており、世界中の緊急事態に対応する組織の能力に、永続的な影響を及ぼす可能性があると、赤十字社は23日に警告を発した。

国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)のロッカ会長は声明の中で、水曜日に7カ月目に突入した戦争は、人々を「決定的な限界点」まで追い込んでいる、と述べた。「紛争が続くと、食糧やエネルギー価格が上昇し、食糧危機が深刻化するなど、壊滅的な衝撃の影響は増すばかりだ」と説明した。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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