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住所で嫌がらせ? 在ロシア米国大使館の住所が「ドネツク人民共和国広場1番地」次は英国がターゲット

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
在露米国大使館の前に立てられた「ドネツク人民共和国広場」の案内板。(写真:ロイター/アフロ)

モスクワ市役所は7月4日(月)、モスクワにある英国大使館の近くの地域に、自称「ルハンスク人民共和国」の親ロシア派の分離主義者の名前にちなんだ名称をつけると発表した。

ウクライナも西側も、「ルハンスク人民共和国」は独立国ではなくウクライナの領土である、と主張しているのを知りすぎるほど知っていて、この措置である。

10万人以上が参加したオンライン投票の結果、選ばれたという。この決定は、ロシアがウクライナ東部のルハンスク州全域を掌握したと発表した翌日に行われた。

ロシアから見たら「やっとルハンスクが、本来の姿であるロシアの領土(あるいは独立国)に戻った」祝賀記念ということになるのだろうか。

英国大使館が存在する、モスクワの中心的な水辺の一つであるノヴィ・アルバト通り付近の地域は、今まで名前がなかった。

モスクワの英国大使館。以前の大使館はクラシックな外観だったが、現在の大使館は近代的な建築である。
モスクワの英国大使館。以前の大使館はクラシックな外観だったが、現在の大使館は近代的な建築である。写真:ロイター/アフロ

そっくりな話を前にも聞いたことがある、確か米国大使館だった、と思って調べたら、案の定そのとおりだった。

6月、モスクワ市は首都の米国大使館の公式住所を変更していた。

正式住所は「ドネツク人民共和国広場1番地」である。

それまでは「ボリショイ・デビャチンスキー・ペレウロク通り8番地」であった。

この名前は、大使館に隣接する、それまで名前のなかった交差点に付けられたものであるという記事がもあったが、「大使館の正面玄関前にある、これまで名前のなかった空き地に命名」と書いてある記事もみつけた。

どちらが正しいのかと思って、グーグルのストリート・ヴューを見てみた。米国大使館は超広大で、大規模な大学のキャンパスくらいあり、塀に囲まれているということが見て取れた。広すぎて、確認したくてもよくわからなかったが。

大使館を囲む通りの名前は変わっていないという。

米国大使館の極めて外交的な対処法

ロシア側が正式に住所の名称を変更したとなると、大使館はその住所を使わないわけにはいかないのだろうか、実際どうしているのだろう、と思い、米国大使館の公式サイトを見てみた。

公式サイトの下に書かれた住所欄には、緯度と経度が書かれていた。誰がこの対処法を考えたのだろうか・・・。

在露米国大使館の正面らしい。「ボリショイ・デビャチンスキー・ペレウロク通り」を検索すると出てくるが、8にポイント出来なかった。壁に囲まれた超巨大な一画である。Google Street View。
在露米国大使館の正面らしい。「ボリショイ・デビャチンスキー・ペレウロク通り」を検索すると出てくるが、8にポイント出来なかった。壁に囲まれた超巨大な一画である。Google Street View。

在露米国大使館の公式サイト。下の住所欄には、通りの名前ではなく、緯度経度が書かれているのが見える。
在露米国大使館の公式サイト。下の住所欄には、通りの名前ではなく、緯度経度が書かれているのが見える。

右側の「Contact Us」の個所には、前からの住所が書かれていた(パソコンのスクショ)。
右側の「Contact Us」の個所には、前からの住所が書かれていた(パソコンのスクショ)。

ただし、上記写真にあるように、「Contact Us」の個所には、前からの住所が書かれていた。巧妙な使い分けなのだろう。

この米国大使館の新しい住所は、モスクワ当局が主催し、28万人近くが参加したオンライン投票の結果、決定されたものだったという。今回の英国大使館と同じパターンである。

これらの住所の命名合戦はというと、アメリカから始まっていると言えるだろう。

2018年、首都ワシントンのロシア大使館に沿った通りの一部が、「ボリス・ネムツォフ広場」と命名されたのだ。2015年にクレムリン近くで射殺され暗殺された、プーチン大統領の反対派である野党政治家の名前であった。

モスクワ市役所は、英国大使館の公式住所が変わるかどうかは、まだ明言していない。

もし変わるのなら、英国も米国にならって、公式住所には緯度と経度を掲載するようになるのだろうか・・・。

2020年2月29日、モスクワで、ロシアの野党政治家ボリス・ネムツォフ殺害の5周年を記念し、国の憲法改正案に抗議する集会が行われた。ロシアとウクライナの旗が舞っている。
2020年2月29日、モスクワで、ロシアの野党政治家ボリス・ネムツォフ殺害の5周年を記念し、国の憲法改正案に抗議する集会が行われた。ロシアとウクライナの旗が舞っている。写真:ロイター/アフロ

在ロシア英国大使館の住所が書かれているページ。住所のかわりに緯度経度が書かれる日は近い??
在ロシア英国大使館の住所が書かれているページ。住所のかわりに緯度経度が書かれる日は近い??

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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