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ウクライナで「原発事故を防ぐ必要性は日増しに高まっている」IAEA事務局長が発表

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
2021年3月25日チェルノブイリ原発の4号炉のコントロールセンターを歩く従業員(写真:ロイター/アフロ)

ロシア軍の検問所砲撃

ロシア軍が、ウクライナのスラブチチの町で検問所を砲撃している。

スラブチチは、1986年のチェルノブイリ原発事故の後、原発の周囲に設けられた立ち入り禁止区域の外側に位置している。同原発で働く人たちが多く住んでいる。

このためチェルノブイリ原発の作業員の家と家族を危険にさらしていると、ウクライナは、国際原子力機関(IAEA)に報告した。

グロッシIAEA事務局長は、侵攻開始以来初めて労働者を交代させた数日後に起きたこの事態に「懸念を表明した」という。

原発近辺の山火事

また、チェルノブイリ原発の近辺で、山火事が起きている。36年前の事故後に設定された、立ち入り禁止区域の中である。

23日に、ウクライナの規制当局が、ウクライナの消防士が消火しようとしていると発表した。

翌24日には、この山火事が重大な放射線懸念を引き起こすことはないと考えていると通知している。

現在、チェルノブイリ原発の立ち入り禁止区域では、放射線測定は行われていない。しかし、毎年、立ち入り禁止区域で自然火災が発生しており、火災の長年の経験や、1986年の事故後の土壌中の残留放射能汚染の場所と量に関する詳細なデータに基づいて、放射線リスクは低いと評価している。

首都キエフ(キーウ)とチェルノブイリ西部の原子力発電所2カ所で、セシウムの空気濃度がわずかに上昇したが、放射線学上の懸念はないと、規制当局は説明した。

グロッシ事務局長は、IAEAの専門家もウクライナ側の評価に同意していると述べた。

ただ、この区域の消防署は、まだ電力網にアクセスできず、代わりにディーゼル発電機に頼っている。

放射性廃棄物管理施設がある原発敷地内のほうでは、引き続きオフサイト電力(遠くからの電気供給)が利用可能である。

深刻な憂慮を訴える事務局長のビデオ

IAEA23日、グロッシ事務局長がビデオ声明を発表した(以下ビデオ:3分9秒)。氏は事態を深刻に憂慮している。

とにかく、一刻も早く協定を結ばないと、安全のための介入ができないのだという。

ウクライナのすべての原子力施設の安全・安心な運用のためには、技術支援の提供が必要である。これには、チェルノブイリ原発のほか、15の原子炉を含んでいる。

IAEAの専門家がウクライナの各施設への立ち会いを行うことや、重要な安全装置の提供をするなど、実質的な支援とサポート措置が含まれる。

このことが、人々と環境を脅かす深刻な事故のリスクを防ぐために、必要不可欠なのである。

「私は直ちにウクライナに赴き、このような協定を結ぶ用意があることを個人的に表明した」とグロッシ事務局長は述べた。

しかし、国連事務局や、最高レベルからの多くの政府の支援もあり、何日も前から集中的に協議してきたにもかかわらず、「前向きな成果はまだ得られていない」という。

「原発事故を防ぐ必要性は日を追うごとに高まっている」と付け加えた。

さらに「これ以上遅れることなく、合意された枠組みを締結できるよう希望する。これ以上時間を失うわけにはいかない。今すぐ行動する必要がある」という。

稼働の現状は

ウクライナの4つのサイトにある15基の原子炉のうち、ロシア支配下のザポリジャー原発の2基、リブネの3基、フメルニツキィの1基、南ウクライナの2基など、合計8基が運転を継続していると、規制当局が発表した。

これら4つのサイトの職員は、8時間交代制で勤務している。

チェルノブイリ原発に設置された監視システムからの遠隔データ送信はまだ行われていないが、他の原発からは、IAEA本部にデータが送信されている。

【情報源】

IAEA 3月24日プレスリリース

同3月23日プレスリリース

参考:原子力情報資料室

※余談だが、今回、IAEAの「チェルノブイリ Chernobyl」の英語が、ウクライナ語の「チョルノブイリ Chornobyl」になっているのに気づいた。前に見たときもそうだったかどうか、思い出せない。検索エンジンを見ると、だいぶ前からそうだったようだが、データは一括変換もできる訳だし、よくわからない。ご存知の方いますか。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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