アフガニスタンの首都カブール陥落前夜の8月14日。

住民たちは資産を引き出すために銀行やATMに殺到した。銀行の前には、すべてのお金を引き出そうと延々と長い行列ができた。

しかし、お金をおろすことはできなかった。銀行は閉鎖されてしまい、今も閉鎖されている。そして絶望した人たちは、国外に亡命しようとしている。

また、外国に住んでいる家族や事業仲間からの送金に頼っている人にとって、重要な送金事業者であるWestern Unionも機能していない。

アフガニスタンの経済は、全体から見れば主に現金払いで成り立っているので(現物支給もある)、人々の日常生活に今のところは大きな支障は出ていない。

しかし、国の運営資金は別である。

アフガニスタンでは、国際的な資金が次々と枯渇している。

米国当局はドル送金を停止、国際通貨基金(IMF)は支払いを凍結し、国内総生産(GDP)の42%を占める国際援助はほぼ停止している。フランスの『ル・モンド』紙が伝えた。

いわば三重苦に陥っていると言える。ほぼ完全に外貨が凍結された状態で、この国はどれだけ持ちこたえることができるだろうか。

アメリカにあるお金の送付が停止

三重苦の一つ目は、アフガニスタン政府がアメリカに保有していた外貨準備の送金停止である。

日本の外貨準備は、日本銀行が保有している。しかし、同国の外貨準備は、大半が海外の口座、特にアメリカに預託されている。

今までは、アフガニスタン中央銀行(以下、アフガン中銀)は、保有するお金を、毎週アメリカからドルで送られて受け取っていた。

カブール陥落の直前、アメリカ政府は、封印された米ドルの札束の、最後の出荷を止めた。

カブールが陥落した8月15日(日)、アフガン中銀の総裁代理のアジュマル・アフマディ氏は、軍用機で国外に脱出した。

彼は「日曜日にドルの輸送が予定されていたにもかかわらず、金曜日にはもう輸送はないという連絡を受け取っていた」と言った。

それでは、アフガニスタン政府は、どのくらいのお金をアメリカに持っていたのだろうか。

『ル・モンド』紙によれば、最新の年次バランスシートによると、アフガン中銀はニューヨークに12億5000万ドル(約1375億円)を保有し、外国の銀行に30億ドル(約3300億円)以上の預金、さらに40億ドル(約4400億円)以上の米国財務省の証券を保有していた。

95億ドル(約1兆450億円)にも上るアフガン中銀の外貨準備のお金は、ほとんどは外国の預金となっていて、特にニューヨーク連邦準備銀行、世界銀行、国際決済銀行(BIS)にある、と報じた。

別の報道で、ロイター通信によれば、アフガン中銀の外貨準備は約90億ドル(9900億円)。このうち約70億ドル(7700億円)は現金、金、米国債などの証券の形で米連邦準備理事会(FRB)の口座に預託されており、あとは国際決済銀行などの海外の口座にある、と報じた。

逃亡したアフマディ氏は、「(アメリカにある)外貨準備が不正に利用された事実は一切ない」とし「準備口座からは一銭も盗まれていない」と断言した。「ただ、米財務省外国資産管理室が、タリバンに外貨準備へのアクセスを認めるとは思えない」と述べた。

2002年から2015年まで、アフガン中銀の顧問を務めたアメリカ人のウォーレン・コーツ氏は「これらのドルは、アフガニスタンの経済を機能させるのに不可欠なものです」と説明する。

アフガン中銀は毎週、現地通貨であるアフガニに対してドルのオークションを開催している。全国から外国為替の従事者が買い付けにやってくる。

このように米国の通貨は地方に送られ、近隣諸国との貿易の資金を調達し、最も裕福な住民たちの貯蓄のために使用されるのだ。

通貨アフガニ。内戦中は一国内で複数の異なる通貨が発行されたことも。2002年以降、親米政府の設立後に安定。唯一の通貨が軍閥ではなく中央銀行の管理下に置かれたのは久しぶりだった。Wikipediaより。
通貨アフガニ。内戦中は一国内で複数の異なる通貨が発行されたことも。2002年以降、親米政府の設立後に安定。唯一の通貨が軍閥ではなく中央銀行の管理下に置かれたのは久しぶりだった。Wikipediaより。

新たなタリバン政府は、これらの資金なくしていつまでもつのだろうか。

コーツ氏は「予測したくはないですがね・・・」とためらいながら、「確実に数週間でしょう」と答えたという。

ドルがなくても、ほとんどが非公式な経済の大部分は、継続されるだろう。「しかしそれは歯車に砂を入れるようなもので、次第に詰まっていくでしょう」と言う。

IMFの資金源にもアクセスできない

二つ目の資金源は、国際通貨基金(IMF)からのものである。

IMFは、対外的な外貨支払いの準備不足に備える特別引き出し権(SDR)を含む資金支援を、アフガニスタンに4億5000万ドル(約495億円)配分することを承認していた。

移送は8月23日に行われる予定だった。しかし、ここでもすべてが凍結されている。

IMFは声明の中で、「現在、アフガニスタン政府の承認について、国際社会では明確になっていません。その結果、同国は特別引き出し権やその他のIMF資源にアクセスすることができなくなるでしょう」と述べている。

米メディアによると、米財務省が停止を働きかけていたという。米議会でテロリストを支援したタリバンへの反発が根強く、多数の議員が支援停止をイエレン財務長官に求める連名書簡を送っていた、との報道がある。

止まるかもしれない国際援助

三つ目は、国際援助である。

前述したように、国際援助は、同国の国内総生産の42%を占めている。

これは停止はしているが、まだ中止と決まったわけではない。援助している欧米諸国の立場は、曖昧になっている。今年4億3000万ユーロ(約553億円)を支払う予定だったドイツは、援助の停止を発表した。

どのみち、タリバンにとっては、枯渇しそうな大きな資金源である。

シンクタンク、Chatham Houseのアナリスト、ファルザナ・シェイク氏は「国際援助は、国際社会がタリバンに対抗できる最後の手段です」と言う。このお金が、タリバンの強要を制限しようとする圧力の手段になるのは、明らかである。

アメリカのブリンケン国務長官は、8月15日(日)に早くも「アフガニスタン国民の基本的な権利を尊重しなかったり、再びテロリストの支援や受け入れをするようになったら、制裁は解除されず、(タリバンは)渡航することができなくなるだろう」と述べた。

では、国家の財源はあるのか

それでは、新しい政権を担うタリバンが、独自に入手できる国家の財源はあるのだろうか。

まずは、国民からとる税金である。

アフガニスタンには、収穫物の10分の1の税である「oshr」というものが、何世紀も前からある。

また、可処分所得の2.5%が、宗教税である「zakat」として、貧しい人々のために徴収される。ただ、徴収は低迷したままであることが多い。

次に、資源への課税である。

『フィナンシャル・タイムズ』の報道によると、違法な採掘や輸入燃料への課税も、資金源となっている。Alcis consultancyの調査によると、イランから輸入した燃料に対するタリバンの収入は、昨年は3000万ドル(約33億円)にも上った。

加えて、ロンドンのシンクタンク・ODIの調査によると、パキスタンとイランの国境に接する南西部のニムローズ州では、自動車やタバコなどの輸送物資に対する課税が、タリバンの収入の80%を占めている。

そして、麻薬の取引である。

2001年の米国主導の侵攻以降、麻薬対策に約90億ドル(約9900億円)が投入されたにもかかわらず、依然としてアフガニスタンは世界最大のアヘン生産国である。

2012年4月、アフガニスタン南部カンダハル州ジャライ地区のケシ畑。
2012年4月、アフガニスタン南部カンダハル州ジャライ地区のケシ畑。写真:ロイター/アフロ

2009年4月26日、カブールで火にかけられた違法な麻薬を見るアフガニスタン人と外国人の関係者。アフガン麻薬対策省は、アヘンやハシッシュを含む6トン以上の麻薬を焼却した。
2009年4月26日、カブールで火にかけられた違法な麻薬を見るアフガニスタン人と外国人の関係者。アフガン麻薬対策省は、アヘンやハシッシュを含む6トン以上の麻薬を焼却した。写真:ロイター/アフロ

国連のアヘン調査によると、この20年間でケシの栽培量は増加しており、2020年には前年比37%増となっている(ただし、アヘンの価格は下落しているとも言われている)。

需要が高いと言われる強力な麻薬であるメタンフェタミン(覚せい剤の一つ)の生産による収入も近年増加しており、今では国内のアヘンの生産量に匹敵するとも言われている。

アフガニスタンの中央高地に自生するエフェドラ(麻黄)という植物が、覚せい剤の生産に使われるケースが増えていると、昨年末に欧州麻薬・薬物中毒監視センターが発表した。

タリバンは麻薬の収穫量に課税しているが、取引にどのくらい積極的に関与しているかの度合いについては、アナリストの間でも議論がある。

アナリストのシェイク氏は、「確かに麻薬は、彼らの戦争活動の主な資金源でした。でも、一つの国家を運営するには、全然十分な額ではありません」と言う。

ケシ農家から主にタリバンが得ている収益は、2019年には1450万ドル(約16億円)とみられると、国連薬物犯罪事務所(UNODC)は6月、国連安全保障理事会でと報告した。

アヘンの製造や密売から得る収益を含めると、アフガニスタンの国内総生産の11%になると推計したという

17日、タリバンの広報官であるザビフラ・ムジャヒッド氏は、記者会見で、麻薬を排除して「経済を復興させたい」と主張した。

「アフガニスタンは今後、麻薬のない国になりますが、国際的な支援が必要です。国際社会は、我々が代替作物を持てるように支援すべきです」と語った。

金塊はどこに?

アフマディ氏によると、タリバンはアフガン中銀の従業員に、国の貯蔵金の場所を教えてくれと言っていた。

しかし、カブールにあるアフガン中銀の金庫に残っているのは、わずかな通貨や金の在庫だけだという。

「タリバンが利用できる資金は、準備金の0.1%か0.2%程度でしょう。あまり多くはありません」と氏は言う。

さらに興味深いことを、アフガン中銀の顧問を務めたコーツ氏は言った。「大統領官邸の金庫にも金塊があります」。

毎日新聞の報道によると、逃亡したガニ大統領は、4台の車に現金を大量に積み込んで空港に逃れたと、ロシア通信が報じたという。

ヘリコプターに積み替えたがすべては入りきらず、一部は滑走路に残したまま飛び立ったそうだ。積み込んだ中に、金塊はあったのだろうか。

人道援助の今後

アナリストのシェイク氏は、開発援助と、人道支援とは切り離すべきだと考えている。

明らかに人々は、緊急の人道支援を必要とするだろう。「寄付の問題と混同しないよう、国連が人道的な道筋を設けることができるのではないでしょうか」。

それに、タリバンは完全に孤立しているわけではない。中国やロシアは、欧米が撤退したところに喜んで介入し、資金をつぎこむことができるだろう。

特に中国は、汚職と人権無視は自分の国でも当たり前だから、違和感なくアフガニスタンに投資や援助ができることだろう。アフガニスタンの人々にとっては、今までと変わりなく汚職がはびこるだけかもしれない。

ただし今度は、外国人が率先して行う搾取が混ざる汚職となるだろう。少なくともこの点が、米欧先進国の人道援助金とは、まったく異なる点に違いない。

破綻国家

現在の財政状況では、アフガニスタンは破綻国家になるために必要な条件はすべて揃っている。

アフガン中銀の元顧問コーツ氏は、前述したように「外貨準備なくしては、もつのは数週間」と述べている。

アフガン中銀の総裁代理アフマディ氏は、「治安状況が悪化し、物流が停止しているため、中銀に現金はほとんどない」と指摘した。

さらに、アフガン中銀に十分なドルを供給できないため、通貨アフガニが下落すると予想。それに伴い食品などが値上がりし、市民が打撃を受けることになる、と述べた。

中国やロシアがタリバン政権を国家承認したところで、タリバン政権はアメリカに存在する資金には手をつけられない。バイデン政権は、元栓はアメリカが握っていると承知で、自国がもち続けることができる影響力のすべてを計算した上で、撤退を決断したのだろうか。

ただ、アフガニスタンは、結果的に、ソ連もアメリカも制御を断念して、撤退した国だ。今回のアメリカの最終的な目標や落とし所はどこなのか、よくわからない。

住民が安全に平和に暮らせて、イスラム過激派に支援せず、女性の権利が守られ、麻薬を撲滅し、そしてアメリカが一定の影響力を保持できれば、それで良しなのだろうか。それでも、格段の進歩には違いないが・・・。

人道援助をするのなら、そのお金が、もう決して汚職や不正の継続や誘発にならないようにしてほしい。本当にアフガニスタンの人々を助けるために使われる仕組みをつくった上で、援助を行ってほしい。

もしそれを国連で行うのなら、世界でアメリカ・中国に次いで3番目に国連分担金を払っている日本の政府は、何かできることがあるはずだ。

参考記事:タリバンはなぜ首都を奪還できたのか。なぜ多くのアフガニスタン人の支持を受けたのか。