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緊急請願:菅首相、今日中に五輪ショーディレクター小林賢太郎氏の処分を。東京五輪が永遠の汚名となる前に

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
1945年アウシュビッツ死の収容所を生き延びた人達。ソ連軍による解放直後の写真(写真:ロイター/アフロ)

いよいよ23日、明日は五輪の開会式だ。

でも、びっくりするニュースが入ってきた。

東京五輪開会式・閉会式のショーディレクターを務める小林賢太郎氏が、かつてお笑いコンビ「ラーメンズ」で活躍していた時代に、ナチスによるユダヤ人大虐殺をお笑いのネタにしていたことがわかったのだという。筆者はこのビデオを見た。

このニュースを知ったのは欧州時間で昨日21日のことで、私が見た範囲では、ツイッターはまだそれほどでもなかった。日本人名のアカウントの人たちが、英語でこの情報を発信していた。なかには「#」をつけて、海外のメディアやユダヤ関連施設に伝えていた人たちもいた。

日本時間で22日未明には、ヤフーオーサーの人が記事にしていた(ここに内容の文字起こしがあります)。

ところがなんと早いことか、21日(日本時間22日)には、アメリカの「サイモン・ウィーゼンタール・センター(SWC)」がもう公式ホームページに声明を出していた。

びっくりだ・・・さすが世界的に力のある国際団体は、感度も行動力も違う。

SWCは東京オリンピック開会式のディレクターによる反ユダヤ発言を非難する

2021年7月21日

サイモン・ウィーゼンタール・センターは、東京オリンピック開会式のショー・ディレクターを務めるコメディアンの小林賢太郎氏が過去に行った反ユダヤ的なジョークや、障がい者へのいじめなどを非難します。

報道によると、小林氏は1998年に、彼のコント(コメディ)のために、ナチスによる600万人のユダヤ人大虐殺をネタにしました。その際、"Let's play Holocaust "など、悪意に満ちた反ユダヤの冗談を言っていました。小林氏は、障がい者に対しても不快な冗談を言ったと報告されています。

「どんな人でも、どんなにクリエイティブでも、ナチスの大虐殺の犠牲者をあざ笑う権利はありません。ナチス政権は、障がいのあるドイツ人もガス室で虐殺しました。

この人物がどんな形でも東京オリンピックに関わることは、600万人のユダヤ人の記憶を侮辱し、パラリンピックを残酷に嘲笑することになるでしょう」とSWC副学部長兼グローバル・ソーシャル・アクション・ディレクターのラビであるアブラハム・クーパー氏は述べています(太字は原文のもの)

詳細については、malkin@wiesenthal.com のグローバル・コミュニケーション・ディレクターであるミッシェル・アルキンにメールでお問い合わせいただくか、フェイスブックでセンターにご参加いただくか、@simonwiesenthalをフォローしていただければ、最新のニュースをツイッターで直接お届けします。

サイモン・ウィーゼンタール・センターは、40万人以上の会員を擁するユダヤ系の国際人権団体です。国連、ユネスコ、欧州安全保障協力機構(OSCE)、欧州評議会、OAS(The Organization of American States)、ラテンアメリカ議会(PARLATINO)の協議資格を有しています。

一刻も早い首相の決断を

このセンターは、1977年にラビ(ユダヤ教指導者)のマービン・ヒアーによって設立された、ユダヤ人の人権団体である。

このセンターが行った日本関連の抗議としては、古くは1995年1月、文藝春秋の雑誌『マルコポーロ』が「ホロコーストを否認する記事を掲載した」と非難したものがある。

文藝春秋社は同誌を廃刊とした。

筆者はこのことを覚えている。「ガス室はなかった」というタイトルだったように記憶している。花田紀凱氏が編集長の時代である。確か同センターは「廃刊までは求めていなかったのに」と述べていたと思う。でも、いま欧州の事情をよく知った筆者は、廃刊は英断だったかもしれないと思っている。

最近では2018年11月、「防弾少年団がナチスドイツ風衣装を着ていた」として謝罪を要求した。

筆者は一介の物書きであるが、今回は黙っていられない。首相に請願する気持ちで、この原稿を書いている。

世界中でニュースになるには、まだ数日かかるかもしれない。このままでは、東京オリンピックの開会式が明日開かれ、開かれた後に「この大会のディレクターはユダヤ人大虐殺を嘲笑した男」と、世界中でニュースになってしまう。五輪の歴史に刻まれてしまう。そんなことになっては、取り返しがつかない。

小山田氏のことも海外のメディアは報じたが、注目度と世界への広がり度は、まったく比較にならないほど、こちらのほうが高いだろう。小山田氏の件は、欧米はしばらくしたら忘れるかもしれないが、こちらのほうは永遠に刻まれることになるだろう。文字通り世界の規模、欧州、北米、中南米等の規模で。開催後にそうなったら、新聞1面のトップニュースで扱う媒体が現れても、筆者は驚かない。

そもそも、反ユダヤ人の言動は、例えばフランスでは法律違反である。ドイツはもっと厳しい法律が存在するだろうし、他の欧州の国も同じような感じだと思う。小林賢太郎氏は欧州ならば犯罪者で、「600万人のガス室の犠牲者をからかった男」「人道に対する罪を嘲笑した男」とみなされ、逮捕される可能性が高い。

開会式は明日である。菅首相が決断するしかない。もしたまたまこの原稿が関係者の目に入ったとして、私が大げさだと思うなら、バッハ会長に聞いてみてほしい。IOCの人たちに聞いてみてほしい。人間がひとつの民族を根こそぎ虐殺しようとした。人間が犯した最も重い罪。それがどれほど深刻なことか。

もし目の前に菅首相がいたら、あまりの焦りと強い嘆願の気持ちのために、礼儀を忘れてしまって、首相の肩をつかんで揺さぶって「総理、一刻も早い決断を!!」と、泣きながら叫んでしまうかもしれないほどだ。

(追記:記事を読んでくれた方の指摘で気づきましたが、スポンサーの問題もあります。日本企業だけじゃありません。世界の五輪スポンサーたちの反応です。)

サイモン・ウィーゼンタール・センターについて

ウィキペディアの引用で申し訳ないが、英語版日本語版によると、以下の通りである。

アメリカ合衆国カリフォルニア州のロサンゼルスに本部を置き、エルサレム・ニューヨーク・トロント・マイアミ・シカゴ・パリ・ブエノスアイレスなどで事務所を運営。民間の寄付で運営される、国際的に影響力をもつ非政府組織である。

センターは、ホロコースト(ユダヤ人虐殺)の研究と追悼、ナチスの戦犯探し、反ユダヤ主義との監視と戦い、寛容教育、イスラエル擁護、そして寛容博物館で知られている。

センターは公的機関や民間企業と密接な関係を持ち、米国や外国政府の選出された役員や、外交官や国家元首と定期的に会合を開いている。また、国連、ユネスコ、欧州評議会から非政府組織(NGO)として認定されている。

センターの名前は、ナチス生き残りの追求に尽力したサイモン・ヴィーゼンタールにちなんで付けられた。彼はオーストリア=ハンガリー帝国出身で、ナチスの時代には複数の強制収容所に送られたが、生き延びた。

ヴィーゼンタールは、名前を付けた以外は、その運営や活動に何の関係もない。しかし、このセンターを支持し続けていた。

かつてヴィーゼンタールは、「私はこれまでに多くの栄誉を受けてきたが、私が死ぬときには、これらの栄誉は私とともに死ぬだろう。しかし、サイモン・ウィーゼンタール・センターは私の遺産として生き続けるだろう」と語っている。

最後に一つ付け加えておきたい。

日本にはしばしば帰国するが、テレビの「いじり」のお笑いを見て、心底不快になることがよくあった。人にもネタにもよるのだが、私から見ると、いじめや差別、侮辱に思えて、不快どころか、胸が悪くなるようなものが散見した(だからお笑いは見なくなった)。

世の中が「正しい」と主張するものやタブーを、笑いのネタにしていけないことはない(テーマには限度があるが)。でも、それには風刺のスピリットと、卓越した技が必要となる。そんなものは微塵も感じられない下卑たものについて、ここで言っているのだ。

そのように常日頃から、五輪の掲げる理念「多様性と共生」、そして現代社会が追い求める「一人ひとりが差別なく自分らしく生きられる社会」とは程遠い日本の現状があるからこそ、小山田氏と小林氏の事件は起きたと思っている。

総理に一刻も早い決断をお願いします。開会式が始まってからでは、遅すぎます。あちこちに小林氏の名前が書かれているかもしれないが、その痕跡の処理も必要になるだろう。自分の国が汚名にさらされて非難されるのは嫌です。今日中に、1時間でも10分でも早く決断をしてくださるよう、お願い申し上げたい。

【追記】毎日新聞の報道によると、小林氏は解任されました。辞任ではないようです。ただ、彼が携わった開会式・閉会式の内容で行われるのかは、よくわかりません。IOCの人たちと会議をして決めるのでしょうか、それとも、日本の判断に任せられるのでしょうか。

また、この件には中山泰秀・防衛副大臣が関係しています。これは21日19時17分のツイートで、そのあとSWCの声明はツイートでは20時56分だから、時間軸はあっている印象です。

それでこの原稿は22日8時44分。一連の経緯に影響したのか否かは不明ですが、午前11時過ぎには解任が確認されました。なんという速さ・・・どっと疲れました・・・。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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