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フランスで、医療従事者のワクチン義務化を準備中。医師の署名活動が始まる。国民全員の義務化も課題に

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
ナントの予防接種センターでワクチン接種を待つ人々。6月。(写真:ロイター/アフロ)

フランス政府は、医療従事者にコロナウイルスの予防接種を義務付ける法案を、現在準備中である。

政府関係者が7月1日にフランス公共放送Franceinfoに語った

政府は数日前から、特に「今から9月までに」接種率80%の目標を達成できない場合に、要介護高齢者居住施設(EHPAD)や病院のスタッフに、ワクチンを義務化することを検討してきた。

フランスでは感染の流行は減少しているが、デルタ株が急速に拡大していることで、保険当局は第4波の発生を心配している。

フランス病院連盟(La Fédération hospitalière de France)は6月30日に、「医療従事者および患者と接触するすべての人へのワクチン接種の義務化」に、もしそれが「法制化を検討する」ことを意味する場合でも、賛成すると述べた。

医師の署名活動

このような状況のなかで、7月4日、日曜発行の週間紙『ジャーナル・ドゥ・ディマンシュ』は、96人の医療従事者が、同紙に医療従事者へのワクチン接種義務化を求める寄稿記事(Tribune)を掲載、署名活動を始めたことを報じた。

中では、感染症だけではなく、産科医や糖尿病専門家医など、フランスでは有名な医者が名前を連ねている。

以下が、掲載された請願書の内容である

パンデミックをできるだけ早く終息させ、人的、社会的、経済的に影響を及ぼす第4波を避けるために、禁忌のないすべての国民が、コヴィド19のワクチンを接種する必要があります。

なぜなら脆弱な人々を保護するための倫理的義務だからです。医療従事者は、自分たちが責任をもつ人々のために、ワクチン接種を受けなければなりません。

だからこそ、私たち署名者である医療関係者は、「公的または民間で、予防または治療や介護で、あるいは高齢者を収容する施設で、自分、または自分のケアを受ける人々が汚染のリスクにさらされる職業活動を行う者」全員に、ワクチン接種を義務化することを、政府が今すぐ決断することを求めます。

この決定の適用が9月初旬までに有効となるよう、必要な措置を講じていただくよう求めます。

医療関係者の署名のために、日曜日にこの請願書をオンラインで公開します。

96名の署名

だいたい1日経った7月5日午前11時15分ごろ(日本時間)において、egora.frというサイトで行われている署名活動では、711人のプロの医療従事者が署名している。

国民全員への義務化も課題に

同じころ、カステックス首相は、Franceinfoが入手した国会議員への書簡の中で、パンデミックに対抗するために「ワクチン接種の義務化について、議論を提起することを望んでいます」と説明していた。

「また、この接種義務は、より広く適用されるのに値すると考えるかどうかも示してください」とも書いている。

つまり、国民全員にワクチン義務化をするべきかどうかの議論を立ち上げてほしいということだろう。

上院では、60歳未満の成人にワクチン接種を義務付けるという案を審議しようとしている。

パスツール研究所による最新のモデリングによると、疫病の動態には、60歳未満の人々が重要な役割を果たしていることが示されたという。Franceinfoが報じた。

同研究所の感染症数理モデルユニットの研究者であるSimon Cauchemez氏は、「18歳から60歳の人は、感染しても入院するリスクは少ないですが、逆に接触が多く、ウイルスに感染する機会も感染させる機会も多くなります」と説明している。

そのような努力をした上で、専門家たちは、入院患者数の増加を避けるためには、60歳以上の高齢者に対するワクチン接種をさらに改善することが不可欠であると述べている。

医療従事者の接種義務の議論のほうが一歩進んでいるが、これから国民に義務化するかどうかの議論も、加速していくだろう。

欧州連合(EU)では、7月1日からデジタルワクチン証明書の使用が始まった。いくつかの例外をのぞいて、ワクチンを2回接種していれば、今は自由にEU域内を旅行できる(QRコードなので、携帯でなくても紙を持ち歩いてもいい)。

今まで都市の閉鎖や外出制限といった苦しい時期を過ごしてきたのだから、この休息と自由は必要なものだと、誰もが思っている。でも心のどこかで「この調子だと、秋になったら、また厳しい制限が始まるのではないか」と感じていると思う。

そのようなことが起きないようにするにはどうしたらいいか、政府も医療関係者も、必死に考えて働いているのである。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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