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なぜ「スーパーリーグ」が創設されるのか。2つの理由:欧州サッカー界に激震

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
新リーグの会長となるペレス氏。2019年マルカ・レジェンダ賞受賞のロナウド氏と。(写真:REX/アフロ)

突然公表された「スーパーリーグ」創設は、欧州サッカー界に激震を走らせた。

この創設には、12のクラブが関わっているという。英国6大クラブ、スペイン3大クラブ、そしてイタリアの3大クラブである。

レアル・マドリードのボス、フロレンティーノ・ペレス氏が会長を務める新組織の声明によると、さらに3チームが加わり、合計15の「創立クラブ」からなるインナーサークルが形成されることになるという。

これまで欧州のクラブは、国内リーグでの順位を基準に、チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグへの出場権を得ていた。スーパーリーグでは、設立したクラブは毎シーズン自動的に予選を通過することになるという。

しかし、なぜこの創設が発表され、実現しようとしているのだろうか。

理由は主に二つある。

一つは、資金である。

各クラブは、アメリカの銀行JPモルガンから、大会資金の援助を受けることになる。35億ユーロ(約4550億円)が、15の設立クラブに分配されるという。

Observatoire du sport businessの共同創設者、ヴァンサン・ショーデル氏は語る

「創設のニュースを知るのに、日曜日まで待たなければならなかったことに驚きました。これまでクラブは水面下で活動してきて、経営を回復させるチャンスを掴もうとしていたのです」

「スーパーリーグでは、最低でも3億5千万ユーロ(455億円)の保証を受けることができます(原文ママ)。バルセロナのように10億ユーロ(約1300億円)もの負債を抱えているクラブは、すぐさま興味を示しました」。

もう一つは、現行モデルへの対抗だ。

テレビ放映権による収益が増しているが、現行のシステムだと、まず欧州サッカー連盟(UEFA)が収益を受け取る。この連盟は、55の連盟の集合体だ。55とは、各国(英国は地域)の連盟となる(例:ドイツサッカー連盟、スペインサッカー連盟、トルコサッカー連盟、イングランドサッカー連盟 など55ある)。

欧州サッカー連盟は、受け取った収益を、各クラブにではなく、各連盟に分配している。

スーパーリーグ創設者たちは、今のピラミッドのようなモデルは古いと考えている。このシステムだと、各クラブやリーグがどんなに投資などの努力をしても、努力に直接リンクした収益が上がりにくいというのだ。

ビッグクラブは、「自分たちが観客をひきつけているのだ。それなのに、投資はどんどん増えても、得るものが少ない」と不平をもっていたのである。

彼らの不満と、新しいリーグを創ろうとする動きに、すでに欧州サッカー連盟は二つのやり方で取り組んでいた。

まず、「ファイナンシャル・フェアプレー」を導入して、クラブを抑制しようとした。しかし「これは中くらいのクラブにしか効果がなく、ビッグなクラブにはそれほど効果がありませんでした」と前述のショーデル氏は言う。

さらに、新しいテレビ放映権の獲得で、収益を増やそうとした。増収は成功し、分配するお金は増えたものの、結局は上記のように、直接クラブにお金が払われるわけではない。

つまり、スーパーリーグは、現行のチャンピオンズリーグが、スポーツ的にも金銭的にも魅力がなくなってきたと考えたビッグなクラブが集まって、各クラブが受け取るテレビ放映権料のパイをより大きくするために創られた、と言ったら、皮肉すぎるだろうか。

動きを加速させたのは、コロナ禍である。もともと負債を抱えるクラブにとって、コロナ禍はさらなる致命傷とも言える痛手となったのだ。

何と言っても、アメリカの巨大銀行が資金を出すというのが、意味深長である。

これは、アメリカ風の自由か、ヨーロッパ風の平等かの対立だと思う。

アメリカ風の自由とは、より資本主義的。強者に圧倒的に有利で、弱者に圧倒的に不利である。しかし、新たなものを産みやすく、新しいものがシステムや時代を大きく、根本から変える可能性がある。

ヨーロッパ風の平等とは、より社会主義的。強者は多少(かなり?)我慢して、中小と一緒に繁栄できるように分配する。より穏やかだが、ダイナミズムにはやや欠けるのだ。

各選手のレベルで、議論が沸騰しているのが面白い。所属チーム等の影響で言いたいことは言えないかもしれない。それでも各選手のものの考え方がよく見える事態となっているようだ。単純に「自分の所属しているチームがビックだから」「中小だから」だけでは、はかれないものがある。

アメリカ流か、ヨーロッパ流か。コロナ禍は、こんなところにまで、自由と平等の戦いをもたらし、対立を先鋭化させているのだろうか。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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