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ゴーン氏の逮捕・拘留は「論理的ではなく思うままだった」と国連の専門家が報告、賠償支払いを要請。

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
レバノンのHoly Spirit大学で9月に行われたゴーン氏講演会での一コマ。(写真:ロイター/アフロ)

国連の作業部会は、「カルロス・ゴーン氏が日本で4回にわたって逮捕・勾留された過程は、根本的に不当なものだった」との見解を示した。

作業部会の専門家たちは、ゴーン氏に賠償するように求めている。AFP通信のニュースをEurope1が伝えた

「恣意的に」とはどういう意味?

ゴーン氏に対する日本での「自由の剥奪」は「恣意的(しいてき)」だったという。この「恣意的」という言葉が何度も報告書に出てくるのだが、一体どういう意味なのか。

しかもこの作業部会は「恣意的拘留に関する作業部会」という名前であり、いかに「恣意的」が重要ワードかがわかる。

しい‐てき【恣意的】

気ままで自分勝手なさま。論理的な必然性がなく、思うままにふるまうさま。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

つまり日本の司法は、論理的な必然性がなく、自分の思うがままにゴーン氏を逮捕・拘留したという意味だろう。

ちなみに逮捕状とは、検察官(および検察事務官)か、一定の階級(警部)以上の警察官が裁判所に請求し、裁判官が逮捕状を出す、という手続きを踏むという。このような段階を踏むのは、それぞれの段階でチェック機能を働かせるためだとのこと。

ということはゴーン事件では、日本の関係する検察官と裁判官(や警察官)の全部が全段階で、「論理的な必然性がないのに、自分たちの思うがままにゴーン氏を逮捕・拘留した」と、この部会は言っていることになる。つまり、人権侵害があったということだろう。

この部会は、独立した専門家たちが集まっている。彼らは国連の人権理事会に報告はするが、国連を代表して発言しているわけではない。日本政府はこの意見を「まったく受け入れられない」とし、「法的拘束力はない」と強調したという。

「推定無罪」に反している

この意見書は、11月20日に投稿され、23日にメディアに公開された。専門家たちは「カルロス・ゴーンを4回にわたって逮捕・拘留したプロセスは、根本的に不当である。なぜなら、彼が自由を取り戻し、他の公正な裁判の権利を享受することを妨げたからである。特に、弁護士と自由にコミュニケーションをとる権利を妨げた」と結論づけた。さらに「公正な裁判を受ける権利の侵害は、ゴーン氏の拘留を恣意的なものにするほど深刻だった」とした。

さらに、「カルロス・ゴーンは、自分が関係しているという発言を強要するような状況で拘留されていた。これは推定無罪ーー証拠に基づいて有罪を宣告されるまで、被告人は無罪と推定されるべきであるという法の原則ーーという彼の権利に違反している」と指摘している。

この点について、国連の作業部会は、「2018年11月19日から2019年3月5日まで、および2019年4月4日から25日までのカルロス・ゴーンの自由の剥奪は、世界人権宣言の第9条、10条、11条、そして市民的及び政治的権利に関する国際規約の第9条、10条、14条に違反しており、恣意的であった」との見解を示した。

「例外的に厳しい」保釈条件

特に、カルロス・ゴーンに課せられた保釈条件は「例外的に厳しいものであったように思われ、特に第2回の保釈期間中は、裁判所の事前承認がない妻との接触を、弁護士を介する以外に無期限で禁止している」と指摘している。

「事件のすべての状況を考慮した結果、適切な救済措置は、国際法に基づいてゴーン氏が補償やその他の賠償を受けるという、強制執行が可能な権利を与えることであろう」という。

ただし専門家たちは、この意見は日本でカルロス・ゴーン氏に対して起こされた告発に関連するものではなく、手続きが行われた状況に関連するものであると強調している。

ゴーン氏の弁護士、フランソワ・ジメレーとジェシカ・フィネルは、この意見は「決定的なターニングポイントとなる勇気ある決定」であり、「カルロス・ゴーンの逮捕の瞬間から私たちが糾弾してきたこと、すなわち、恣意的な拘留、公平な司法の権利の否定、不名誉で劣悪な扱いを、明白に確立してくれた」ものであるという。

作業部会は、日本政府に対し、「カルロス・ゴーン氏の恣意的な拘留を取り巻く状況について、完全かつ独立した調査を行い、彼の権利を侵害した責任者たちに対して適切な措置を講じること」を確実に行うよう求めている。

部会の専門家たちは名前が書かれていない「情報源」から提供された資料をもとに仕事をしたが、情報源と日本政府に対し、賠償を含めどのような措置をとるかに関する情報を、半年以内に提供するよう要請している。

以上、フランスAFPの報道を翻訳し、難しい言葉をわかりやすくした。

いくら法的拘束力がないとは言っても、国連の人権理事会のための作業部会による報告である。無視するわけにはいかないのではないか。

日本政府と検察や警察、司法の今後の対応が注目される。

◎参考記事

郷原信郎氏(Yahooオーサー):検察は、ゴーン氏の身柄拘束をいつまで続けるべきと考えていたのか。

文春オンライン:ゴーン逮捕・逃亡 「失敗は絶対許されない」伝説の特捜検事が教える、捜査の3つのポイント

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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