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それでもJALとANAが飛ぶ海外の都市はどこ?【2:欧州】見せつけられたEUの統合

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
(写真:アフロ)

前回【1】はアメリカの状況を説明した。

今回は欧州の状況である。

悲惨といえる欧州の状況

目もあてられないのが、ヨーロッパ線である。

ANAがフランクフルト(ドイツ)とロンドン(英国)に週3本、JALがロンドンにほぼ通常運航しているだけである。

ロンドンに飛ぶのは理解できる。国際金融都市で、日本企業が最も多い都市で、英語圏で、しかも島である。

問題は欧州大陸である。ほぼ壊滅状態である。

イタリアのミラノやローマは言うにおよばず、パリも、デュッセルドルフ(日系企業が大変多い)も、ヘルシンキも、ミュンヘンも、ウイーンも、ブリュッセルも、モスクワも(ウラジオストックも)全部運休である。

そんななか、フランクフルトだけが残った。

なぜフランクフルトなのだろうか。

もちろん、ユーロ通貨を管理する「欧州中央銀行」がそびえる、欧州連合(EU)の経済の中心だからだろう。

首都ベルリンは、東にありすぎて西欧から遠すぎる。そもそもJALもANAも、元々直行便がない。

こうして、日本に帰りたい多くの欧州大陸の日本人は、フランクフルトを目指すことになる。

見捨てられたのだろうか

3月27日、外務省から「【緊急】ドイツ経由でご帰国等を予定している方への留意事項」というメールが届いた。

このようなメールが届いたということは、欧州から日本に帰りたがっているたくさんの日本人が、ドイツを目指してなだれこんでいるという意味ではないだろうか・・・。駐在員(と家族)や学生の数だけでも、かなりの数になるのに違いない。

彼らにとっては、あっという間に在住国から、自国の飛行機が1本も飛ばなくなってしまったのだ。準備の時間など、ほとんどなかったのだ。

その前から封鎖されている都市で仕事をしていたとしても、自国の飛行機が飛んでいると「まだ大丈夫そうだ。いつでも帰れる」という判断になるのは、自然だと思う。

彼らの取り残された感、見捨てられた感は大きかったのではないか。日本政府、これでいいのか。

フライト中止まで、たった数日

どういう状況だったかというと――。

3月23日くらいから、日本では「オリンピックがいよいよ中止になるのか」という報道が一気に増えた。

(在住国では、この報道が日本のように多くなかった可能性は高い。日本は開催国だから情報が溢れていたのだ)。

でも当時は「4週間以内に中止かどうか決める」と言っていた。それなのに、同じ日の23日、外務省が欧州への「渡航中止勧告(レベル3)」を発表した。これは最高危険レベル4の「退避勧告」の一歩前だ。

このニュースが現地在住の人たち――日本大使館に在留届を出している人や、外務省の「たびレジ」(ゴルゴ13推奨)に登録している人――にメールが届いたのは、同日夜だった。彼らがメールに気づいたのは、翌日の24日でも不思議はない。

24日にはオリンピックの中止が正式に決定、そして25日は、JALの多くの欧州線が最後の便となってしまった。ANAの場合は27−28日が多かった。

なんて目まぐるしい、こんな短期間で最終便に乗れるわけないでしょう!――と思う。

それでは、「取り残された」欧州大陸の日本人はどうやってフランクフルトに着くのだろうか。

外務省メールが言っていること

ドイツに到着するには、空路と陸路がある。

外務省メールいわく、空路でドイツに入り、ドイツではトランジット(空港内の乗り換え)だけならば、日本に帰国が可能だそうだ。ただし、陸路は問題があるという。

駐在員や学生は首都にばかりいるわけではない。工場や関連する研究所、大学は地方にも多い。その場合、陸路のほうが便利な場合がある。

以下に引用してみたい(太字は筆者)。

オーストリア、スイス、フランス、ルクセンブルク、デンマークとのシェンゲン協定域内国境では,3月16日以降,国境管理が開始されており,ドイツ連邦内務省は「十分に合理的な理由のない者」については,ドイツへの入国を拒否するとしています。

その上で、例外的に入国を許可するかどうかについては、入国審査を行う係官によって個別具体的な事情を踏まえて判断されますが、一般的に、日本人が、日本または長期滞在資格が与えられた国へ帰国する際に、ドイツを経由することは可能とされています。

さらにメールは、注意を促している。

○入国審査を行う係官が「速やかに、かつ、確実にドイツを出国することについての疑義がある」と認めれば,入国は拒否される。このような疑義を生じさせないため、旅券等のほか、少なくとも日本までのチケットの提示が必要となる。

○より合理的な旅行経路が他に存在する場合など、ドイツへの入国が不可欠ではないと判断された場合、入国は拒否される。

筆者の経験でいうと、ドイツのコントロールは、欧州の中では割と厳しいほうだ(厳しいというより、きっちり規則どおりという意味。ラテンの国のように、交渉によって大目に見てもらえたり、人によって違ったりということが少ない)。

どうか日本に帰りたいと願っている人たちが、無事に戻れるようにと祈るばかりである。

国家とEU、そして日本

欧州は、他と異なる特徴のある地域である。

さほど大きくない面積の所に、たくさんの先進国が詰まっている。そしてEUがある。

EUの政策のおかげで、県境をまたぐがごとく、車や列車で隣国に簡単に行けてしまう。飛行機も手続きが少ない。「国境なき欧州をつくる」というのが、EUの理想だった。

でも、今は国境管理が復活して、EUは大きな困難にぶつかっている。そのかわりに「国家」が大きく前面に現れている。

3月27日、エールフランスが4月の運行を発表した。

たった1本だけ、毎日ではなく週数便であるが、パリと東京間を運行する予定とある。これで欧州大陸の日本人は、フランクフルト1点になだれこまなくても良くなったと思った。ほっとした。

しかも片道の特別料金の切符も、引き続き売っている。筆者が調べてみた時点では、片道5−6万円だった。とても安い。自国民、そしてEU市民の保護のためなのだろう。

危機になると、結局頼るのは「国家」なのだろうか。

そうならば、あれほど慌ただしく自国の飛行機をとめてしまった日本政府の対応は、批判されるべきではないか。

コロナ危機は戦争ほどではないから、「欧州はEUがあるんだから大丈夫だ」「他の国のエアーが飛んでいれば、いいではないか」という話なのだろうか。

でも、日本のエアーが運行停止を決断した時点では、エールフランスの4月の運行は、決まっていなかったはずだ。もっぱらANAと同じグループ「スター・アライアンス」に属し、フランクフルトをハブ空港とする、ドイツの「ルフトハンザ」に頼るつもりだった? コロナ危機でEUの概念が揺らいでいるというのに?

それでは、ルフトハンザの運航状況は、どうなっているのだろうか。

驚きのルフトハンザ

検索をかけてみて、ものすごく驚いた。

なんと・・・ルフトハンザは、フランクフルトと西欧の主要都市の間には、今でも1日2便飛ばしているのだ! ミラノにすら1日2本、ローマにすら1日1本飛んでいる。

EU加盟国の首都の空港を全部調べてみた。

◎1日2本:パリ、ブリュッセル、ミラノ、アムステルダム、ウイーン、コペンハーゲン、(ロンドン、チューリッヒ)。

◎1日1本:マドリード、リスボン、ローマ、ダブリン、ストックホルム、ヘルシンキ、ブカレスト。

◎週5便:ストックホルム

◎週2−3便程度:エストニア、ラトビア。

◎直行便はなく1回乗り継ぎなのが、ギリシャとクロアチア。

◎直行便がポーランド航空で1日3便なのが、ポーランド。

等々。

上記の都市からならどこからでもフランクフルトに行けて、そこからANAに乗って東京に戻れるのである。しかも料金は、どこも「通常でも、こんなものだろう」という価格だった。

・・・言葉を失ってしまった。私は一体今までEUの何を知っていたのだろう、と。

自分では「EU崩壊」とあり得ないことを煽って騒ぐ人たちに、反論してきたつもりだった。それでもこの危機にあって、私の頭の中は100%「国家」に戻ってしまっていたのだ。

一般に誤解があるが、「都市の◯◯が封鎖」といっても、電車やバス等は動いているものだ。パリもベルリンもロンドンも、減便しているが動いている。そのことを筆者は知っていたのに、国際線の飛行機は止まっているような気分になっていたのだ。なんて大きな勘違いだったのだろう。

ヨーロッパ人にとっては、欧州の首都に飛行機を飛ばすのは、日本が東京ー大阪を始め、主要都市のアクセスを絶対にゼロにしないのと同じなのだ。断ち切ったら、経済が壊滅的な立ち直れない打撃を受けてしまう。あらゆる方面で必要な仕事ができなくなってしまう。

彼らにとって、EU域内は、国際線ではなくて国内線と同じようなもの。1日たった1本か2本、たとえガラガラでも、大赤字でも、移動が必要な人は絶対にいるから飛ばす。なぜなら欧州は既に「一つ」として創られ、機能しているのだから。

これでも通常から見たら、泣きたくなるほどの減便なのだ。通常、欧州の主要都市間は、全部のエアーを合わせると、まるで電車のような間隔で飛んでいるのである。

ただし、国に体力がなければ出来ないことだ。ドイツには、それだけの力があるのだろう。

ヨーロッパ人のためだけではない。母国に帰りたい日本人の帰国も背負っているのだ。

エールフランス・KLMも健闘

パリが封鎖されて、オルリー空港も完全に閉鎖されているフランス。今はシャルル・ド・ゴール空港の一部が動いている。

東京とパリの間にエールフランスは飛んでいるが、欧州内はどうなのだろうか。

かなり制約があるが、それでも飛んでいる。

◎1日1本:フランクフルト、アムステルダム、ストックホルム、ロンドン

◎週に2ー4本:マドリード、リスボン、ダブリン、アテネ、(チューリッヒ、オスロ)

◎エアー・バルティック(ラトビアのエアー)の直行便乗り入れで1日1本:リガ(ラトビアの首都)、タリン(エストニアの首都・リガで1回乗り換え)

◎アムステルダム経由でタロム航空(ルーマニアのエアー)利用で1日1本:ブカレスト(ルーマニア)

◎アムステルダム経由ブルガリアエアー利用で1日1本:ソフィア(ブルガリア)

◎マルタ・キプロスへは、アムステルダム経由

等々。

チケットの価格は、全体的に安めに抑えられている。利用者の、経済的状況への配慮だと思う。

また、上記の中にEUの首都ブリュッセルがないが、パリから飛行機で行く人はまずいない。列車「タリス」で1時間半弱だし、車でも渋滞がなければ3時間半ほどで着く。

どうやらアムステルダムのスキポール空港も、欧州の重要なハブの一つとして健闘しているようだ。

エールフランスとKLMオランダ航空は一つの会社になっている(フランス政府とオランダ政府が大株主)。フランスが苦しい分をオランダが助ける構図ができているようだ。

それに、KLMオランダ航空は、今も毎日ではないが東京、そして関空にも飛んでいるのだ!  西日本に帰ろうとする欧州在住の日本人にとっては、とても心強い存在となっていることだろう。

筆者は今でも、邦人救出を他者に任せていいのだろうか、という思いはある。欧州はパンデミックの中心などと言われて、日本よりも大変な状況なのに。

でも、日本政府は、母国に帰りたいと切に願う日本人の救出を、EUに託した。EUを信頼した。その判断が間違っているとは思わない。EUもヨーロッパ人も、実際に信用に足る相手だと思うからだ。

もしヨーロッパが大昔のように、それぞれが独立した「国民国家」としてのみ機能していたら、パンデミックの渦中で、このような状況にはならなかっただろう。大きな苦難に直面してはいるが、EUが存在して機能しているからこそ、欧州内の飛行機は飛ぶ。そして日本人は、母国への帰国をEUに頼っているのだ。

日本人は、この恩を決して忘れていはいけないと思う。

※情報は執筆時のものです。最新情報は、各公式サイトでご確認ください。

参考記事:3月25日、日本が封鎖する運命(?)の日:コロナウイルス疲労困憊の物語

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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