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ところで、カルロス・ゴーンは今どうしている?:スキー焼けしてイギリスの新聞で沈黙を破っていた

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

コロナ疲れの毎日である。

こんなにコロナ一色になる前は、メディアはどうだったんだっけ?――で思い出したのが、カルロス・ゴーンである。

彼は今、どうしているのだろう。

彼はレバノンの首都、ベイルートにある高級でクラシックなブティックホテルの最上階に滞在している。そしてスキーを楽しんでいるという。

そして沈黙を破って、ロングインタビューに答えていた。

インタビューが掲載された『The Australian』
インタビューが掲載された『The Australian』

日本脱出後は、それほど大豪邸とも見えない妻の友人の家で、ささやかなクリスマスを楽しんでいたが、すっかり豪華な暮らしに戻ったようだ。

3月27日に『The Australian』に掲載された、インタビューの一部を紹介する。「この内容、見たことがある」と思ったら、イギリスの『The Times』が13日に報じた記事と同じであった。著者はTim Bouquet氏。

インタビューは、3月3日にベイルートで行われた。

9月に本の出版

ホテルの最上階から、アール・ヌーヴォー式のエレベータで降りてきたゴーン氏。

インタビューに現れた彼の顔は、赤かった。「昨日スキーをしていたんだ。天気がこんなふうに美しい日は、簡単に日焼けするんだ」と語った。

雪で覆われた岩の多い山々は、ベイルートから1時間ほどの距離にある。

彼のジェットコースターのような人生について、「9月に本が出ます。別のものは沖合いにあります(もうすぐ港に入ってくるという意味)」。「その後には、ドキュメンタリー、TVシリーズ、そしておそらく映画があります」。

誰が彼を演じるのか。興行が見込まれるほど大きいが、十分小さい俳優でないといけない。彼は身長170センチだからだ。

「わかりませんね、でも気にしませんよ」と笑う。「最も重要なことは、真実を伝えることです」

安倍首相は何も知らない

インタビューの中でゴーン氏は、自分は日産と日本政府が彼の信用を傷つけるためにこしらえた陰謀の犠牲者であると主張している。

共謀の疑いはどれほど高いレベルのものなのか、という質問には「私は国家間の関係を傷つけたくないので、決して名前を言わないと約束したんです」と答えた。

「でも、そのことについて何も知らなかったのは安倍晋三首相だけだったと思います。私に起こったことは、首相には既成事実と見られました。安倍サンは、このことはすべて社内で解決されるべきだったと言いました」。

検察庁は、政府と日産が共謀という主張を「断固として虚偽」であると説明している。

「自由への賭けが失敗するのではと恐くありませんでしたか」という質問には、「私は思考回路が麻痺していました。人権を尊重しない強力な国家に人質にされているほうが、もっと恐かったんです」と答えた。

「私はテロリストのように扱われました。日本と日本人を尊敬してはいますが、そこには大きなブラックホール――法制度――があるんです」

契約更新は人生の失敗

勾留された2日目のこと、フランスとレバノン、ブラジルの国籍をもっている彼は、フランスの日本大使、ローラン・ピック氏の訪問を受けた。

ピック大使が彼に「日産はあなたに背を向けた」と言ったと主張している。そのときに彼は、自分に対する陰謀があるかもしれないと気づいたというのである。

たった数ヶ月の間に、英雄からゼロになってしまった。

「私は気が動転して、ショックを受け、怒りました。2018年6月に、私の任期は終了する予定でした。私は更新には熱心ではなかったんです。私は64歳で、会社のすべてを統率して20年経っていて、十分に仕事を終えたと感じていたのです」

「ルノーの理事会メンバーは、私に去ってほしくないと言いました。ルノーの筆頭株主であるフランス政府は、私に更新を促して、両社はさらに統合されるだろうと発表しました」

「その発表は役に立ちませんでしたが、それでも私は契約更新しました」

「このことは、私の大きな後悔の一つです。もし引退していたら、このようなことは起きなかったのですから」

インタビュー掲載の大元『The Times』
インタビュー掲載の大元『The Times』

義家副法務大臣がベイルートに

3月2日、ゴーン氏がレバノンのスキー場で日光を浴びすぎている間、日本の法務副大臣である義家弘介氏がベイルートにやってきて、逃亡者を引き渡すよう、レバノン大統領のミシェル・アウン氏にロビー活動を行った。

「ゴーンは明らかに日本で裁判にかけられるべきだ」と義家副大臣は主張したが、アウン大統領は、協力していなかった。

ゴーン氏は、フランスのパスポートとレバノンのIDカードを合法的に使用してレバノンに入国したと、彼は言った。ゴーン氏は今でもレバノンの司法手中にある。

ゴーン氏が身柄を拘束された当初、レバノンの内務大臣ノハド・マクヌーク氏は雷のように叫んだ。「カルロス・ゴーンが窮地に立たされている。レバノンの不死鳥が日本の太陽に焼き尽くされることはないだろう」。

そしてベイルートの市民は、ゴーン氏の顔のモザイクが描かれた大きなデジタル看板を見ることになった。「私たちはみな、カルロス・ゴーンだ」とのスローガンが書かれていたという。

国際逮捕状のもとで

現実には、ゴーン氏には、インターポール(国際刑事警察機構)から逮捕状が出ている。

地元のゲレンデで楽しむのは自由だけれども、自由ではない。

日本との引き渡し協定がないレバノンからつま先が出れば、彼は逮捕され裁判にかけられる可能性が高いのだ。

日本政府はゴーン氏が容疑と向き合うように要求している。しかし彼は、そんなことは決して起こらないのは確かだという、多くの良い理由があるのだと言う。

「私は世界中のどこにいても、そこ以外なら正義に直面します(正当な裁判を受けます)」

ゴーンのような地球市民にとっては、自分の国でしか身動きがとれないことはイライラしているに違いない。

彼は肩をすくめた。「129日間の拘留で、うち46日は私の弁護士への完全なアクセス権がなく、残りは事実上の自宅軟禁下にあり、妻との面会が禁止されていました。自由はとても貴重です」。

日産は2月、ゴーン氏に9000万ドル(約100億円)の損害賠償請求の訴訟を起こした。そしてフランス側は、オマーンの販売代理店を通した注ぎ込まれた資金を調査している。

ハリウッドの大物が興味?

最後に『アラビアン・ビジネス・インダストリーズ』が伝えたBloombergの報道を伝えよう。

ゴーン氏は、ウォルトディズニー社の前社長で、「クリエイティブ・アーティスト・エージェンシー」の創設者である、マイケル・オービッツ氏とに、映画やテレビの計画を働きかけているという。

ゴーン氏の広報官は、オーヴィッツ氏は計画を支援し、受け取った提案を審査するが、いかなる議論もまだ予備的なものであると断った。

ちなみに、この記事は4月1日公開だが、エイプリル・フールではないことを、付け加えておこう。

【インタビューのリンク】

The Australian : Hero to zero: Carlos Ghosn breaks his silence

The Times: Carlos Ghosn interview: the Nissan boss’s great escape from Japan

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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