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極右を抑えたのは若者だ。親EU世代で緑の党が躍進。ドイツでYouTuber大活躍:欧州議会選挙の総評

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
フランスの若者による「未来のための金曜日」デモ。環境省前で。(写真:ロイター/アフロ)

フランスで、ドイツで、フィンランドで。

緑の党系が躍進して、上位の議席数を獲得した。そして、彼らを支持したのは、多くが若者だった。

フランスでは、「ヨーロッパ・エコロジー緑の党」は、大躍進した。

18歳から24歳までの25%の票をあつめ第1党、25歳から34歳までは約14%集めて第2党だった(1党はルペン氏の「国民連合」)。

全体では13.42%を獲得して3位につけた。

ドイツでは、選挙前には極右の「ドイツのための選択肢」が票を伸ばすと言われていたが、蓋をあけてみたらそれほどでもなかった。

かわりに伸びたのは、「同盟90/緑の党」。全体では20.7%獲得して、2位につけた。30歳未満では、投票の34%を占めている。

そして、伝統的な2大政党の一つ、メルケル首相のキリスト教民主同盟(CDU)は1位を保ったものの議席数を減らし、社会民主党(SPD)も同じく3位に転落した。

フィンランドでは、「緑の党」が16%獲得して、2位につけた。

ベルギーでも、フランドル地方(オランダ語圏)の極右は伸びたものの、ワロニー(フランス語圏)やブリュッセルでは、環境政党が善戦した。

欧州で若者中心のデモ「未来のための金曜日」

ドイツでは、若者が環境政党に対して魅力を感じるのは、新しくはない。でも今回は、これまで以上に圧倒的だったようだ。

有権者の間では、若者による緑の党への支持は、新しい能力をもったと言われている。

例えば、気候変動問題に対して毎週金曜日に行われるデモ「未来のための金曜日」のイニシアチブがある。

これはドイツのみならず、フランスなど他の国にも波及しているデモである。欧州選挙前だから行われたのではなく、かなり長く続いているもので、参加者は若者が中心になっている(筆者が属している国連ソルボンヌ環境グループも、始終参加している)。

選挙の数日前に発表されたYouGovの調査によると、ドイツは特に環境意識が強く、18〜24歳のドイツの有権者の51%が、環境保護を最優先テーマとして考えているそうだ。イタリア、スウェーデン、スペインの2倍である。

「与党をぶっつぶせ」ドイツの26歳ユーチューバー

そして、今回ドイツで大スターとなったのが、ユーチューバー(YouTuber)の「Rezo」である。

彼は情報処理を学んだ26歳で、欧州議会選挙の1週間くらい前に「(メルケル首相の与党:キリスト教民主同盟)CDUをぶっつぶす」という1時間弱のビデオをアップした。

彼に言わせると「与党CDUの人々は嘘をつき、専門家の意見に反する政策を立て、そして私たちの生活と未来を破壊している」。

政府が行ってきた気候変動政策は、統計から見て、温室効果ガス排出量削減の目標を達成するのに失敗してきた。また、それは富裕層を支持する決定のためだと言って、与党CDUを攻撃している。

さらに彼は、著作権や麻薬をテーマにした「露骨な無能」を指摘している。

そして彼は、「投票に行け! じゃないと、退職者が君たちの未来を決めてしまうぞ!」とはっぱをかけた。

日本人に聞かせたいセリフである。日本と似ているドイツでは少子高齢化が進み、60歳以上が36%を占めているのだ。

与党CDUは、当然黙ってはいなかった。抗議の声明を出したり、同党の若者の書記長(Paul Ziemiak、33歳)や代議士(Philipp Amthor、26歳)が、彼と会合を行ったりした。

でも、書記長はSNSを使って若者を政治参加させたことは「進歩だ」と認めた。

こんな騒動はもちろん、大衆紙「Bild」(日本の夕刊スポーツお色気紙に似ている)の格好のネタになった。

そのせいもあって、Rezoのビデオ「CDUをぶっつぶせ」の再生回数は、今や1400万回に迫る勢いだ。

若者は圧倒的にEU支持

欧州議会の発表によると、若者は「ヨーロッパの建設」に愛着をもっているという数字が出ている。

平均では18〜24歳の65%、25〜39歳では62%だという。フランスは特に強く、18〜24歳では69%にのぼる。

彼らは、欧州連合(EU)があるのが当たり前の世代だ。無いのが当たり前のところに、EUができたりユーロ通貨が導入された世代とは、基本が違うのだ。

若者の投票率は、どの国でもどの選挙でも低いというのは、相場が決まっている。社会学でも証明されている。

でも、若者が投票しないと、ダメなのだ。

若者には、新しい政党、新しい思想の潮流が必要なのだ。それはもちろん、若者だけが必要としているのではないけれども。

なぜ日本にはないのだろう。一時「大阪維新の会」が国政レベルで力を伸ばしたが、大阪の人間ではない筆者からみると、あれはスコットランド民族党とかプライド・カムリ(ウエールズ党)のような、地域政党に見える。

ヨーロッパを見ていると、日本の状況が悲しくなってしまう。1国で孤独で、近くに「新しい潮流」を分かち合う仲間の国がないから難しいのだろうか。筆者はヨーロッパ人が本当に羨ましい。

なぜ環境政党がのびるのか

もちろん、環境問題は、私達人間だけではなく、すべての動植物、地球にとって大問題だからである。

でも、EUの環境重視策は、ほとんど手段になっている。国籍を問わないし、新しいテーマだから新しいことができるジャンルだ。EUは、28(27?)カ国の集合で、国家としての駆け引きができず、規範(規制づくり)の力で攻めていくしかできない。そんなEUにとって、環境はまとまるための絶好のテーマである。

敵をつくってまとめるのがネガティブな団結策なら、環境問題を訴えてまとまろうとするのはポジティブな団結策と言えるかもしれない。ただ、極右への対抗も、移民の支援も、極右に対抗するための現政権への応援・あるいは批判と反対も、格差問題も、すべて環境問題を前面に出して繰り広げられている感じはする。

極右だ何だと、何だか暗い様相になってきたヨーロッパで、そんな話はもうしたくないし、微妙な問題すぎて語りたくないという気持ちは、すごくわかる(ただ、前述の記事で述べたように、この「環境正義」には、筆者はちょっと不安を覚えている)。

参考記事(記事の後半):いよいよEUの欧州議会選挙の投票。新しい傾向とは。イギリスではメイ首相の辞任

今回の選挙をふりかえって

欧州全体をあくまで大ざっぱに見て、今回の選挙に関して筆者の観察を述べてみたい(28カ国もあるので難しいのは承知の上である)。

参考記事:【速報】欧州議会選挙の結果表。ほっと一安心の内容:前回との比較議席数とコメント:次の委員長はだれ?

◎スペインやポルトガル、ギリシャなど南では、左派政党が伸びて第1党となった。この地域では、まだ緑の党の活躍や存在は見られない。

◎極右は票を伸ばしたが、前評判ほどではなかった。

◎極右を抑制したヨーロッパの(どちらかというと)北の地域に見られるのは、緑の党系の躍進だった。これらの地域では、伝統的な中道左派が没落傾向にある。

◎そして欧州全体で、極左が伸び悩んだ。これは極左のロジックの破綻が、だんだんあらわになってきたからではないか。

左派の堅調

左派というのは「人間としての連帯」「人間はみんな平等」という思想を捨ててはいけないのだ。「弱者の味方」だけでは、左派になれない。極右と同じになりかねない。

「自分さえよければいい」と思い、心の中で思っているだけではなくて、言動や投票行動で表したとき、人は極右になる。

(「自分」というのは、自分一人だけ、家族だけ、職場の仲間だけ、自分の住む地域だけ、自分の国だけ・・・と色々ある)。

参考記事:イタリア。五つ星運動と同盟の極右連立政権にみる欧州の苦悩 移民問題であなたは人権を語る資格があるか

あの移民の大群を前にして、極右が台頭して、欧州の左派はその根本がぶれてしまったところが多い。無理もないとは思う。

たくさんいた中道左派の支持者は、極左にいくか、極右にいくか、棄権になってしまった。フランスのように、新しい中道党(マクロン大統領の「共和国前進」党)ができたところは、むしろ例外である。

でも、今は落ち着いてきた。大量移民の流入は止まった。

極左は、極右と変わりなくて見えて、違いがあまりわからないような感じになっている所が多い。極左の論理の破綻は、国政レベルではなくEUレベルではよく見えてしまうものだ(選挙戦では、国政の与党批判ではなく、欧州や国際問題を話さなくてはならないので)。

実際に台頭したあちこちの極右やブレグジットを見て、やっぱりああはなりたくないと思い、極右に入れるのも躊躇するようになった人も多い。また伝統的左派への失望感はまだ残り・・・それを吸収したのが、緑の党系なのだろう。

ただし、欧州は広い。EUは28(27?)カ国ある。北のほうでは緑の党は躍進しているが、南では躍進どころか存在しないこともある。そういうところでは、伝統的な左派政党が盛り返した。それから当然、西欧と東欧の違いは大きい。

まだまだ極右に対して油断はできないとはいえ、ヨーロッパ人の底力というのは、大したものだと思う。さすが人権思想・平等思想のふるさとだ(アメリカは自由思想のふるさとだと思う)。

そしてイギリス。

このような大きな欧州の潮流にあって、イギリスを見ると、本当にイギリスの若者がかわいそうになる。

新しい未来をみつめたい、環境問題に大いに関心がある、古い政党や頑固な年寄りや、世代の違う中年にはうんざりしているーーこれらはイギリスの若者だって同じでしょうに。

参考記事:イギリスの「第2の国民投票」の結果はどうなった?:ブレグジット問題:欧州議会選挙で

過去の栄光にとらわれた年寄りや、世代が異なり根本的に意識が違う中年が、散々無責任に「EU崩壊」と叫んでいた。当時から筆者は「崩壊するのは自分のほうでは。EUという相手が巨大になりすぎて崩壊してくれたらいいのに、という願望を叫んでも仕方ないでしょうに」と言ってきた。

別に、一国で何かをやりたければ、やればいい。日本はやっているし、欧州以外の国は全部やっている。でも、イギリスは欧州の国である。

意地悪な人々が大幅に増えたブリュッセルで、メイ首相のように理解と協調の姿勢ではなく、「EUは俺の要求を聞くに決まっている。イギリスは大事なんだから」と叫ぶバカどもの中から首相が出たら、もう悲惨である。そんな事を言っている暇があったらスコットランドをよく見ろ、足元から崩れかけていますよ、である。筆者はイギリスが好きなので、見ていてイライラする。

こんなふうになってしまい、もう身動きがとれない。たった数時間で渡れる海の存在が、欧州大陸とイギリスを分け隔てているのだろうか。

(追伸:おそらくRezoの「与党CDUをぶっつぶせ」は、イタリアのレンツィ・元フィレンチェ市長(後に首相)の「年寄りどもをぶっつぶせ」から来ているのではないかと思う。そして筆者は、レンツィ元首相の「ぶっつぶせ」キャンペーンは、小泉元首相を真似したと思っている)。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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