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2度目の示唆的投票。切羽つまり明確になってゆく各党議員の投票傾向:イギリスEU離脱ブレグジットで

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
4月2日、疲れる2度目の示唆的投票の翌日に英首相官邸前にいるラリー・ザ・キャット(写真:ロイター/アフロ)

またしても、4月1日夜に示唆的投票が行われた。2回目である。結果は既に出て報道されている。

誰もが「またやるの?」と思ったことだろう。しかも内容は4つのうち3つが同じ。

「関税同盟」と「共同市場2.0」「批准前に公の投票(再国民投票)は前回と同じである。一つだけやや新しかった。

スコットランド国民(民族)党のある議員が中心となって出したもので「欧州連合(EU)に延長を申し出るが、もしダメだったら、合意なき離脱かEU残留のどちらかを選ぶ。実質的に二者択一」というものだ。

ただ、前回の記事でも書いたように、議員たちは「いつもメイ首相&内閣に反対してばかりいたけれど、内心わかってはいたが、自分たちは議会で何も決められないダメダメ状態だ」とあからさまに自覚した。そこには、もはや笑うしかない、という和やかさえあった。

参照記事:8つの示唆的投票で、各党の投票結果と特筆すべきこと。なぜか明るい議場

だから、もう一度やれば、何か展開があるかもしれないと思わせた。4月12日の締切はもう目の前なのだ。

ただ、もういい加減うんざりしていたのか、前回と違って、下院議長が結果を発表するとき、保守党席が半分以上空席だった。前回はある種の期待と熱狂があったのに、今回はより暗くて疲れと憮然とした様子が目立っていた印象だった。

結果は全部否決となってしまったが、とても面白い展開になったと思う。

筆者は「こういう国家分裂の危機には、議員内閣制は向かない。制度の限界だ」「フランスなら最後は大統領が決めるだろうに」と書いてきたが、議会でもここまで出来るのだと、感嘆した。さすが議会制民主主義発祥の地だ。

1回目の示唆的投票の参照記事:EUに残りたい地域政党と労働党が合意案を葬った。英国解体の覚悟は?

揺れ動く議員たち

まずは以下の表を見て頂きたい。

For は「賛成」、Againstは「反対」である。

青:保守党、赤:労働党、レモン色:スコットランド国民(民族)党、グレー:独立グループ党、えんじ色:DUP(民主統一党/北アイルランドの英国派)、山吹色:自由民主党、濃い緑:プライド・カムリ(ウエールズ党)、薄い緑:緑の党、紫:無所属

僅差の関税同盟

★今回の結果

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※前回の結果

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◎前回は6票差だったのに、今回は3票差となった。これが最も実現が可能そうに見える。

◎棄権の数が13票減った。今回の得票数549,前回は536だった。

どの党の議員にもゆらぎが見える。

◎保守党は3票賛成が増え、反対が2票増えた。労働党は、賛成が4票増え、反対が2票減った。

◎親EUの自由民主党は、前回は賛成と反対が1票ずつだったのに、今回は賛成は変わらず1票、反対は5票となった。

◎はっきりと親EUの独立グループ党、緑の党は、相変わらず「EU離脱につながる案には反対」と考え、反対票を投じている。

◎DUP(民主統一党/北アイルランドの英国派)は、反対を投じている。

共同市場2.0

英語ではcommon market2.0である。内容は、欧州自由貿易協定(EFTA)&欧州経済領域(EEA)に、EUと包括的な協定が決まるまで留まるというもの。つまりノルウェー型で、単一市場には入るが、関税同盟には入らないということである。単一市場(single market)という言葉を使わない所に、配慮を感じる(苦笑)。

★今回の結果

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※前回の結果

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◎前回は94票差で否決されたのに、今回はたったの21票差になった。まさかこれほど接近するとは、びっくりである。

◎スコットランド国民党が、賛成にまわった。前回は棄権だったのだ。今回の投票で、個人的にはこれが一番驚いた。プライド・カムリ(ウエールズ党)は前回も今回も賛成なので、これで2地域政党が賛成にまわったことになる。しかし、前回棄権だったDUPが反対にまわった。

前回筆者はこう書いた。「地域政党の観点から見た場合、最も妥協して成立する可能性があるのは<共同市場2.0>ではないか。プライド・カムリが賛成していて、スコットランド国民党とDUPが棄権しているからだ。棄権とは、少なくとも反対はしていないと捉えられる」。

しかし、棄権の2党は今回、片方が賛成、片方が反対にまわるという結果となった。

どういう議論があって賛成/反対にまわったのか。特にスコットランド国民党は「独立も辞さない」姿勢の上で、「EUに残留したい。だからどんな条件だろうと、離脱案には反対」という立場だったのに、ここで妥協を見せたことになる。

◎棄権の数が71票も減った。今回の得票数543,前回は472だった。

◎前回よりも、保守党はやや反対色が強くなり、労働党はかなり賛成色が強くなった。

◎相変わらず、独立グループ党、緑の党は「EU残留」の立場から反対を投じている。

◎親EUの立場から、前回は棄権が多かった自由民主党だが、今回は賛成2,反対4と割れた。

公の投票(再国民投票)

★今回の結果

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※前回の結果

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◎前回は27票差だったが、今回は12票差になった。

◎前回も今回も、親EU派の党はこぞって賛成にまわっている。スコットランド国民党、プライド・カムリ、独立グループ党、緑の党である(ただ、正確にはスコットランド国民党で一人今回は棄権している。なぜ?)

◎労働党から5人、保守党から7人、無所属で1人、前回より賛成が増えている。気が変わったのか、棄権した人が投票したのか。

◎反対が微減している。保守党で1人、労働で3人減っている。でもDUPは相変わらず反対である。

二者択一(反対と賛成が上下逆なことに注意)

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圧倒的に保守党に不評である。それでも保守党から10人、賛成が出ている。

これから何が起きるのか

全体から見ると、棄権が減った。いよいよ切羽つまって覚悟を迫られたのだろう。

英ガーディアン紙の総評を見ながら、短くまとめてみた。

◎内閣は4月2日(火)の朝に会談する予定。英国は合意なき離脱のシナリオに急激に向かっており、ハードなブレグジットはほぼ避けられない状態という。(ロイターのニュースによれば、もし4回目に行う合意案採決で、また否決になったら、内閣ではやむをえず関税同盟を選択するという話になってきているという)。

◎同時に、総選挙の可能性も話されているという。これは「最悪の中ではマシ」とみなされているという。

◎ジェレミー・コービン労働党党首は、解決策が近いと主張し、議会に更なる機会を与えることを要求した。第2回国民投票を支持するさまざまな議員たちは、彼らが下院の中で唯一の最も支持されているグループであると主張した。

◎保守党の院内幹事ニック・ボールズは、「私は失敗した。なぜなら保守派が妥協を拒否したからだ」と述べ、離党した。

◎アイルランドのバラッカー首相は、2日(火)にパリでマクロン大統領と、4日(木)にダブリンでメルケル首相と会談する。

※二度の示唆的投票では、伝統の部屋に入るやり方ではなく、紙に書く方式が採られた。

なぜこうなる

コービン労働党党首がいうように「メイ首相の合意案だって3回採決したのだから、もう1回示唆的投票をしてもいい」というのは、賛成である。

ただ、総選挙にしても国民投票にしても、方法論であって解決案ではない。やった結果、一層の混乱を招くだけになるかもしれない。そういうのを見越して「離脱延期するなら、欧州議会選挙に参加して、なし崩し的に残ってしまえ」という作戦を、欧州委員会側は考えたのかもしれない。

関税同盟も共同市場も「あと少しだ! 頑張れ!」と思わず力が入ってしまったが・・・ちょっと待てよ、と思う。

そもそも東欧から移民が来るのが嫌で離脱したのではなかったっけ。ブリュッセルで何か決めるのは嫌で、英国に主権を取り戻したいのではなかったっけ。現実的かどうかはともかく、その気持はわからないでもない。

関税同盟に入ったら、自分の判断で自由に他国と通商条約を結べなくなる。共同市場に入ったら、加盟国じゃないから会議に参加できず、自分のいないブリュッセルで決められたことに従うだけになる。そんな中途半端なことをやるくらいなら、離脱をやめて全部残ったほうがいいのでは、あるいはもういっそ、全部やめたほうがいいのでは・・・。

こうして回りに回って、この壮大な「ブレグジットすごろく」(あがり不明)は、「振り出しに戻る」になってしまった感じもするのだった。

参照記事:

前編)単一市場、関税同盟ーー英国政府とEUは何をなぜ合意して、何が拒絶されたのか

(後編)単一市場、関税同盟:英国政府とEUは何を合意?なぜ拒絶?:ソフトブレグジットの挫折と国境問題

英国下院の公式投票結果(英語)BBCのニュース(英語)

ガーディアン紙のサイトに、全議員の投票結果の表が載っている。すごい。しかも見やすく、議員の選挙区の国民投票結果まで載っている。こういうのが見たかった。これぞメディアの役割。4つ全部棄権という人が、シン・フェイン党の人以外で、30人強くらいいた。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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