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メイ英国首相とEU側が直前に合意。公表する2つの文書とは。ブレグジットで修正案:イギリスのEU離脱

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
メイ首相をストラスブールで迎えるバルニエ氏。フランス男である。首相も満面の笑顔(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

EU首脳陣に出迎えられたメイ首相

いよいよ、イギリスの命運を分ける採決の日がやってきた。

直前の3月11日(月)の夜、中央ヨーロッパ時間の21時頃、メイ首相はストラスブールにやってきた。今まで袋小路にはまっていた協定の救済をするために。

ユンケル委員長とバルニエ交渉官に迎えられ、しばらく後にタイヤーニ欧州議会議長にも迎えられた。今週は欧州議会で総会があるので(毎月1回、4日間ある)、欧州連合(EU)のリーダーたちはストラスブールにいるのである。

英国のEU離脱担当大臣であるロビン・ウォーカーは、「私はこれらの緊急で慎重に扱うべき議論の結果を予測することはできません」と11日(月)に語った。また「政府は、もっと後の昼間に協議の進捗を議会に知らせる声明を発表します」と述べた。

一方で、EUのある外交官はAFPの記者に対し「イギリスは今晩、ヨーロッパ人を怒らせない何かを提案するに違いありません」「私達は異議を唱えなければならない立場になりたくないです」と語ったという。さらに、「すべてがうまくいけば、イギリスはアイルランドのバックストップの解釈に関して、単独で声明を発表することを期待しています」と付け加えた。

「重要な申し出」

月曜日、筆者はしきりにブレグジット関連のニュースを気にしていた。しかし、メイ首相がストラスブールに向かったこと以外には特に何もなく、交渉の状況や内容を伝える具体的な情報は、英語でもフランス語でもまったく入ってこなかった。フランス2(NHKに相当)の夜のニュースは、トップがアルジェリアで、日本の福島の状況も報道したのに、イギリスのことはゼロ。進展が何もなかったように見えていたからだろう。

ところが22時過ぎくらいから情報が入って来だした。

バルニエ交渉官はAFPの記者に対し、月曜日の朝、「金曜日に私が思い起こした( j'ai rappelEes)建設的な提案を我々はした」と言ったという。今後は「イギリス政府と議会の交渉になる」とも。

それに応じて、メルケル首相は同日にベルリンで、ヨーロッパ人はイギリスに対して「重要な申し出」を提案したと述べた。

BBC放送は、合意は「窮地に陥っている、本当に窮地に陥っている」と述べていたが、一方でスポークスマンは、採決は必ず行われ、メイ首相は昼間に文書にされた宣言文を公表すると、請けあっていた。

代替案の大筋とは

そしてリディントン内閣府担当相が11日夜に議会に明らかにしたところによると、メイ首相はEU離脱協定を強化し、改善する法的拘束力のある修正を確保したとのこと。

「パッケージ」に追加される文書は二つあると、日付が変わった後にニュースが飛び込んできた。

メイ首相が提起した「共同文書」に加えて、将来に関する政治宣言を補完する「共同声明」だという。この将来の関係について、交渉と発効のプロセスを改善して加速させるために、多くの約束を示しているものだ。

「第一の文書では、EUが無期限にバックストップにイギリスを閉じ込めることができないことを、確認しています」。そして「共通の文書は、2020年12月までに、バックストップを別の取り決めに替えるために働くという、イギリスとEUのコミットメントを反映しています」と述べた。

一方、同じく月曜日の夜遅く、ユンケル委員長はメイ首相との共同記者会見を開いた。そしてアイルランドのバラッカー首相とは常に連絡をとっており、今回の合意には承諾を得ていると語った。そして「3度めのチャンスはない」とも。

その一方で、相変わらずEU側は、ブレグジットを延期するのなら、十分すぎるほど正当な理由がなくてはならないと言っている。

「否決しろ」とコービン労働党党首

一方、労働党のコービン党首は11日夜、議会は12日の採決でメイ首相の協定案を否決すべきだと述べた。声明で「メイ首相の交渉は失敗した。欧州委員会との今夜の合意には、首相が議会に約束した修正に匹敵するようなものは何も盛り込まれていない」、「したがって議会はあす、この合意を否決するべきだ」と述べた。

そういう揉め事をしている場合なのだろうか。党の単位では測れない国の行く末を決める議論なのだから、党派を超えて議論ができないのだろうか。

もっとも、それだけ平和ということなのだろう。実際に市民の生活は普通どおりに営まれているし、もし合意なき離脱になっても、最初の大混乱が過ぎれば、後の影響はじわじわと少しずつやってくるものだろう。

それにしても、このように直前に「メイ首相がEU首脳陣に直に話して、(しかもユンケル氏もタイヤーニ議長も欧州議員もいるストラスブールで)、両者が納得できる合意案を勝ち取った」というのは、なんだか良く書かれたドラマのシナリオを見ている感じもする。

現在、欧州(中央)は、12日の夜中の1時ごろ。イギリスは1時間遅いので、12日の0時過ぎである。これから寝るところである。日本ではもう夜が明けて働き始めた時間だろう。

翌朝には内容がわかるだろう。詳細を知るのが楽しみである。

参照記事:

ブレグジット(イギリスのEU離脱):3月29日までに英国側とEU側で起こりうるシナリオ

メイ英国首相は再び国民投票を行うのか。内閣総辞職もか。EUは強硬姿勢。イギリスEU離脱ブレグジットで

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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