日立が英国で原発建設を凍結(3)世界唯一の「原発民営化市場」:福島原発事故とEUとドイツの脱原発

2011年ドイツで、22年までに脱原発を決めた政府案に賛同する緑の党(写真:ロイター/アフロ)

フランスはなぜ買ったのか。

ブリティッシュエナジーを買うのには「貯金箱をはたく必要があった」と言う。そこまでして買うのは、「価格の問題ではなく、戦略ゆえ」と、英国フランス電力のヴァンサン・ドゥ・リヴァ氏が発言している。

フランス電力にとって、「世界初」の商業原発をつくった英国の開発者となることは、世界一の原発開発者としての地位を示すことになると考えたようだ。フランスは4つの地域に原発を売る国家戦略をもっていた。英国、南アフリカ共和国、中国、そしてアメリカである。当時、ブリティッシュエナジーの買収と同時並行して、アメリカで原発をつくろうとする投資家とも交渉を続けていた(後に価格の問題で断念)。

これはもう、国の怨念と言うべきものである。フランスと日本はそっくりだ。フランスは、原発を50基以上つくり、国中が原発だらけとなった。日本と同じように。

両国は表と裏なだけだ。両国とも、第二次世界大戦では激痛を経験した。フランスは国の占領を経験したが、外交力によって一応戦勝国の側にいたので、核開発を堂々と行った表の歴史、日本は敗戦国で核はタブーとなり、すべてが背後に隠されてきた裏の歴史。しかし、両国がもつ怨念は同じではなかったのか。

シャルル・ド・ゴール将軍は最後の最後まで、原発にアメリカの技術を導入するのを拒み、フランスで独自開発をすることにこだわった。1969年、ドゴール大統領は引退した。「フランスのケネディ」と呼ばれるポンピドゥー大統領が後を継いだ。彼は「経済上の理由」で、フランスの独自開発を断念し、アメリカの技術を受け入れた。このときから、技術を自分のものとし、独自の原発を開発するべく、国をあげての必死の努力がはじまった。背景には、フランスは英国やドイツに比べて天然資源に乏しいという理由もある。

そしてやっと今、ドイツのジーメンスとの合併期間を経て、新しい第三世代のEPRという原発をもつに至った。これからが本番のはずだったのだ。

原発を英国やアメリカにつくることは、フランスにとっては宿願だったのだと思う。アメリカの原発企業を買収した日本企業も、似たような気持ちだったのではないだろうか。

実に不思議なことである。21世紀に入って、組織で活躍しているのは戦争をまったく知らない世代である。それなのに、なぜこうなるのか。これが「国のかたち」というものか。ただ、戦争を知らない世代だからこそ「かたち」をつくった思想=心臓は失ってしまい、「かたち」=体だけが残ったのだと思う。そして心臓を失った体はどんどん腐敗していったのではないだろうか。

福島原発事故と、欧州連合のストレステスト

2011年、英国の計画も、フランスの野望も、大きなダメージを受ける出来事が起きた。福島原発事故である。

欧州連合の原発ストレステストが始まった。実際には査定基準をつくったのは欧州連合ではなくて、WENRAという組織である。WENRAは、フランスがつくった組織と推定されるので、フランス原子力安全局が欧州連合で大きな力を握っている。

驚くべきことに、同局は自国の原発に対し「補強工事するには100億-150億ユーロ必要」と発表した。同局のトップであり、WENRAの創設時のトップであったアンドレ=クラウド・ラコストは、「原発が存在するからには、いくらお金がかかろうとも、絶対安全を追求しなければならない」「費用がかさんで続けられないのなら、原発をやめることもできる」と言い、人々を驚愕させた。これまで彼は、反原発派からは「原子力推進派の家族」とみなされてきたのだ。彼は福島原発事故で「知的ショック」を受けたと表現した。

日本は、ラコストやウエイクハム卿のような人物も、OFGEMのような正しい監督組織も、ついぞもつことができなかった。「日本は世界に冠たる先進国だ」といううぬぼれは打ち砕かれた。日本はやはり遅れているのだ。あれほどの大事故を起こしてしまったあげく、ろくに調査もせずに再稼動を進めている。日本はしょせんこの程度だったのだと泣けてくる。現代日本にどのような欠陥があるのか、真剣に考えなければならない。

結局、欧州連合のストレステストの結果、域内の原発の改善には、250億ユーロのコストがかかると発表された。少なすぎるという批判はあるものの、日本よりはマシである。やはり一国だけでは自浄作用に限界があるのだろうか。

この発表がフランス電力や欧州全体に重くのしかかった。英国に建設するはずだった2基も、当初の予定よりも安全対策のためのコストが大幅に上がってしまった。前述したように、建設コストが払いきれない英フランス電力は、中国資本を招いた。日立や東芝WHは、これほど巨額の建設費をいったいどこから出すのだろうか。

大国ドイツが与える影響

ここでもう一つの大国、ドイツを語らなければならない。

2020年までには全電力消費量の少なくとも35%を再生可能エネルギーに、2050年までには脱化石燃料を目標としている。2012年の再生可能エネルギーの雇用は約38万人だったが、2020年には50万人を目標としている。

ドイツの脱原発宣言の波紋は大きい。なぜなら、西欧の国々は、ドイツを「自分たちよりも経済が上」と認めており、コンプレックスすらもっているフシがあるからだ。ドイツの強さは、ギリシャ危機で明白になった。ユーロを支えているのはドイツだと、すべての欧州連合加盟国が思い知ったのである。

東西統一から15年、ドイツは今、苦難をバネにして、いっそう大国になろうとしているように見える。東ドイツがもっていた東側陣営との外交関係やパイプを吸収した。そして、統一後に東ドイツにあったソ連型の原発を閉鎖したことで、解体・放射能除染(正確には移染)技術を発展させた。ドイツの技術が、バレンツ海の放射能汚染問題の解決に役立っていることは、欧州では有名だ。ソ連が国の崩壊のどさくさにまぎれて、大量の核廃棄物(原子力潜水艦を含む)を海洋投棄した問題だ。

ドイツが脱原発に踏み込めたのは、これらの技術力と実績が大きな自信となっているように見える。

いまだに日本では「ドイツはフランスから電力を輸入している。フランスの原発電力なしではやっていけない」という誤った意見を聞くことがある。

ドイツが原発を停止させた2011年は例外なのであり、2010年も2012年も、フランスがドイツから輸入する電力のほうが、その逆よりも多いのである。原発は発電量の増減が難しい構造であり、フランスは4分の3を原発電力に頼っているためだ。

ドイツは英国と同じように、電力市場が自由化している。再生可能エネルギーの電力は、全体の電力消費量の23パーセントにまで拡大した。

ドイツの目下の悩みは、夏の太陽光発電の電力が量産される時間帯や、北部に大量に設置されている風力発電がフル稼働する時間帯には、市場に再生可能エネルギー電力があふれずぎて、スポット市場での取引価格が急落してしまうことだ。ドイツでは、再生可能エネルギー電力は、電力事業者が買取をしている。一方、電力価格は、株と同じように需給の関係で変動する。その差額を年に一度計算し、ならして、一定金額を算出し、電気を購入する人に電気代として負担させる仕組みになっている。つまり、買い取り価格は毎年改定されている。買い取り価格とスポット価格の差額が大きいと、消費者の負担金が上がってしまうのが悩みなのだ。

英国も再生可能エネルギー買取制度があるが、こちらは2008年に制度を導入したときは、5年ごとに買取価格を改定する予定だった。しかし、発展が急速だったため、3年後に行うことになった。独英では制度に違いはあるものの、大筋では同じといってよい。ドイツのほうが状況が進んでおり、英国はドイツを手本として観察している。

欧州は、英独仏の「三つどもえ」の状況である。千年単位でもまれた中から生まれた強さと外交力は、日本が太刀打ちできるレベルの相手ではないと常々感じる。もっとも、英国の報道では「ウエステイングハウス社が」(=アメリカの会社が)と書かれ、日本のにの字も、東芝のとの字も現れない記事を見かける。これが日本の現状か。

原発の先駆者だったアメリカは、いま、シェールガスの時代をもたらそうとしている。トップランナーは常に自由に行動する。英国もフランスも日本も、しょせんアメリカ製原発の改良型を抱えながら、アメリカの後ろをうろうろしているだけとも言える。

そして、ウランも石油も、世界の資源をコントロールする企業は、圧倒的にアメリカ企業が強いが、英国企業も強いし、フランス企業も一応ある。

英仏の力は、植民地時代の遺産である。しかしドイツは日本と同じで、この点が大変弱い。

でも再生可能エネルギーは違う。再生可能エネルギーは「エネルギーの民主化」なのだ。大国ドイツは再生可能エネルギーを武器にして、何世紀も続くこの構図から抜け出そうとしているのだ。

続く(4)核のゴミと解体費用問題