Yahoo!ニュース

カルロス・ゴーン、ルノー、日産の行く末を左右する隠れた大物、マルタン・ヴィアル

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
パリ郊外Boulogne-Billancourtにあるルノー本社(写真:ロイター/アフロ)

マルタン・ヴィアル。日本ではあまり知られていない名前である。

しかし彼は、日産とルノーの「戦い」において、主要登場人物の一人である。なぜなら、ルノーのフランス政府株式持ち分を担う行政機関の役員として働く二人のうちの一人であり、フランス政府の「代理人」と言える人物なのだから。

一体どういう経歴で、どのような考えをもっているのだろうか。

関係保持を願っている?

1954年生まれの64歳。カルロス・ゴーン(64歳)、グレッグ・ケリー(62歳)、西川廣人(65歳)、志賀俊之(65歳)と同世代である。

マクロン大統領の忠実な支持者と言われ、口数は少ないほうである。

彼は日産とルノーの提携関係を守ろうとしていると、ル・モンド紙は伝えている。

12月19日、彼はBFM-Businessで、「RAMA」と呼ばれる、2015年に結んだ両社の協定(第3次改定)「改定アライアンス基本合意書」を擁護した。「RAMAの論理とは、ルノーにおけるすべての権力を失ったフランス政府が、もしルノーの資本が進展したならば、政府は一つの権利は持ち続けたいということだった」「今日、我々は臨時株主総会において、効果的なブロッキング少数派を迎えている。 この権利は2015年の春の前には存在していなかった。それは2015年の冬以来存在している。それこそ重要なのである」と語っている。

そして、インタビュアーの「日産側は『日本化』することを望んでいるのではないですか」との質問に、「日産でもルノーでも、誰も両社の関係を真剣に壊そうと企てる人はいない」と答えている。

どのような経歴か

彼の経歴では、1997年から2002年まで、フランス郵便局で、最高経営責任者として辣腕をふるった人物として知られている。ネット化と電子商取引、国際化と金融サービスの発展に力を注ぎ、現在の「郵便局銀行」の原型となるものをつくりあげた。日本のゆうちょ銀行を思わせるもので、先進国はどこも潮流が似ていると感じる。

その後はEurop Assistanceで2014年までトップを務めた。この会社は、現在34カ国で事業を展開する大保険会社であるが、彼の時代に健康部門と個人の生涯に適したサービスの提供という新しいビジネスを始めて、会社の規模を2倍にすることを成功させた。

2015年から現職。今はルノー問題でメディアに登場するが、その前にはアルストム(鉄道車両)、アレヴァ(核・原発産業)、フランス電力問題などでも登場している。

政治的には左派と言われる。郵便局の前に、空港郵便局のトップとして働いていたことがあるのだが、その時代に空港輸送および加盟航空連盟の労働組合の長を務めていたことがある。

彼のように、労働組合のリーダーとして貢献した人物が、政府の仕事で大きな役割を果たすというのは、フランスの一つの伝統である。欧州委員会の委員長を務め、欧州の単一市場を創設したジャック・ドロールもそうであった。日本の経済界や政治家の大物には、まず存在しないタイプと言えるだろう。企業での経験が豊富なので問題はないのだろうが、日本人が彼を理解するのは難しいかもしれない。インタビューを聞いていると、温和で大変頭が良く、顔つきは左派の人らしいという印象を強く与える。

配偶者は、現在防衛大臣をつとめるフローランス・パルリ氏。彼女は社会党支持者である。

この人物がフランス政府の「代理人」として働くことは、日産とルノーの関係にどのような影響を及ぼすのだろうか。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今井佐緒里の最近の記事