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南北朝鮮が分断のまま朝鮮戦争と冷戦構造の終結? 意味不明な事態はなぜ起きるのか

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
ドイツ統一記念日を祝うハノーファーでの通りの様子。2014年10月(写真:ロイター/アフロ)

南北統一していないのに戦争が終結?

南北朝鮮の首脳会談で、大きな友好ムードが湧いている。

緊張が緩和し、平和の機運が高まるのは、とてもすばらしいことだ。

しかし「朝鮮戦争の終結」とか「冷戦構造の終結」という言葉まで出てくるのには、違和感を禁じ得ない。

冷戦のために南北朝鮮が分断したのではなかったのか。ドイツでは東西が統一されて冷戦が終わったではないか。それなのに、南北が分断したままで冷戦構造の終結? ましてや朝鮮戦争の終結?! なぜこのような意味不明の状況になるのだろうか。

両国の平和条約

4月27日の夜、フランス2(NHKに相当)のメインニュースを見た。

この話題はトップニュースだった。

史上初めて北朝鮮の指導者が韓国に渡ったことなどを伝えた後、ナレーターが言ったのは「両者は平和条約には署名しなかった」だった。

そうだ、なぜ両国は平和条約に署名しなかったのだろう。

平和条約の締結は、南北統一に向けて、とても重要なものとなる。

日本語の報道を見ていると、平和条約にはアメリカや中国などの同意と署名が必須みたいに言っているが、その発想がそもそも間違っているのではないか。

韓国も北朝鮮も、国連にも加盟している主権国家なのだから、両者が結びたければ結べばいいのだ。アメリカや中国などの同意を得た条約は「それはそれ」であり、次の段階に結べばいいではないか。

ドイツと朝鮮半島の違い

それではドイツはどうだったのか。

1985年、ソ連でゴルバチョフ書記長が就任、ペレストロイカ政策が始まった。

東欧で民主化の機運が盛り上がり、西側への大量出国が相次いだ。

そして1989年11月ベルリンの壁が崩壊。

1990年8月31日、西ドイツと東ドイツは「ドイツ再統一条約」に調印、東西ドイツの統一が決定された。

その直後の9月12日、第2次世界大戦の主要4カ国アメリカ・ソ連・英国・フランスと、東西ドイツ両国によって「ドイツ最終規定条約」が結ばれた。2+4と呼ばれる。これによって、東西統一が国際的に確実なものとなった。

つまり、まずは当事者である東西ドイツ2カ国による条約の署名、その後に関連の大国と条約を結んだのだった。東西ドイツが結んだこの「再統一条約」は、平和条約よりももっと強力なものだった。

なぜ朝鮮半島はそれをしないのか。

この問いを考えることが、問題の根本を知ることにつながるのではないか。

分断の承認??

南北統一のない「朝鮮戦争の終結」「冷戦構造の終結」とは、つまり当事者の南北朝鮮による「分断の承認」につながる可能性があるのではないか。なぜなら、戦争は終わったのに、2カ国あることを認めているのだから。それでもいいのだろうか。

現実問題として、すぐに平和条約を結ぶのは難しいにしても、今の時点ですでに平和条約に関する考察は韓国で行われている。さすが当事者である。

ところが、「無理だろう」という意見が出ているのだ。

ハンギョレ新聞の社説は、平和条約は朝鮮半島に望ましくないと言っている。

「国際法上、平和条約は少なくとも、戦争の終息、関係正常化、戦時中の問題解決(境界線の画定、捕虜、戦犯など)という3つの要素が必ず含まれなければならない。

ところが、65年以上戦争と分断体制を経験してきた南北は、一番目、二番目は合意できても、果たして三番目の武力衝突中に起こった問題、特に、領土画定、戦犯処罰など敏感な問題で合意できるかは極めて疑問だからだ。この問題を再論する場合、また別の戦争に回帰しかねない」。

だから、「平和条約ではなく、平和の体制が適している」と述べているのだが。

この文章に漂う、どこか他人事感は何だろう。ついこの前、あれほど熱く「南北統一」と平昌オリンピックでパフォーマンスをしていたのとは、えらい違いである。

筆者は以前、ウクライナ危機をつぶさに観察していて思った。

結局、一番大事なのは、当事者の意志であると。

人間の人生と国の先行きは似ている。自分の力ではどうしようもないことはあるが、自分の意志がないと何も動かない。

ベトナムは、あれほど大きな犠牲を払ったが、それでも戦って統一に成功した。

ドイツも分断を克服した。

朝鮮半島はどうなのだろうか。

「統一していないのに、朝鮮戦争の終結というのはやめてください」と、当事者として声を上げることはできるはずだ。

この問いは、大変酷であることはわかっている。日本は海に感謝してもしきれない。

しかし、どんなに酷であっても、人は政治は国は、決めないといけない時がある。今がその時ではないのか。

当事者である朝鮮半島の人々が本気で朝鮮半島を統一したいならば、味方をする勢力は、国際社会の中に現れるはずなのだ。

韓国の人は、自分が思っているよりも、主要な経済のプレーヤーとして世界に認知されていることを知るべきだ。自分たちの力を過小評価していはいけない。

共同宣言と条約の違い

そもそも今回、南北朝鮮の両首脳が署名したのは「板門店宣言」、すなわち「共同宣言」である。条約ではない。

共同宣言と条約とはどう違うのだろうか。

まず「条約」とは、法的効力があり、国際法によって規定されているものだ。

つまり、ひとたび条約を結んだら、何か問題が起きたら、国際法によって解決されるべき問題となる。締結国の国内法はどうであれ、世界的な目で是非が問われることになる。一般的な国際法としては「条約法に関するウイーン条約」がある。

一方、「共同宣言」とは、法的効力のあるものとないものがある。

今回の「板門店宣言」とは、法的効力があるのか、ないのか。ないものであれば、極論を言えば言っただけである。

韓国政府は、法的効力のあるものにしようと、努力しているという。

ハンギョレ新聞「板門店宣言「国会同意」受けることに。合意内容を法制化し履行の意志」

韓国国会で批准されれば、国際法の適用を受ける「条約」とは違うものの、国際的に道義的な責任は生じるという。

問題は北朝鮮側で、あちらの国での批准はどうなるのだろうか。北朝鮮の法体制に詳しい人に聞きたいところだ。

さらに、今後の国際的な話し合いでは、一体アメリカ・中国・南北朝鮮(とロシア?)は、何を採択するのか。

共同宣言か、共同宣言より弱い共同声明か、それとも条約か(当事者の南北朝鮮の合意がなくて条約というのは考えにくいが・・・)。

しかし繰り返すが、どのような合意であっても、今のままで「戦争終結」と関係国が位置付けるなら、南北朝鮮自らが、戦争が終わっても分断したままでいいと認めたことになるのではないか。

統一に対する韓国の世論調査と市民の意志

休戦協定から65年。筆者はこの千載一遇の歴史的局面で知りたい。

朝鮮半島の方々、「他の国の思惑云々で出来ない」という話を聞きたいのではありません。根本の問題をお聞きしたいのです。あなた方は朝鮮半島をどうしたいのですかーーと。

明らかに確かなのは、北朝鮮指導者の意志だけだ。望みは金最高指導者の体制維持である。分断したままで「戦争終結」となれば、金体制を承認したことにもなるのではないか。北朝鮮の人々はどうか、そして韓国の人々はどう思っているのだろう。

以下は、統一研究院による「平和的分断と統一:2017 統一に対する国民認識調査結果と意味」である。

「統一の必要性」に対し「必要」と答えたのは57.8%だった。なお、回答は四段階から選択するもので、「とても必要」は13.8%、「若干」は44.0%だった。2016年の62.1%、2014年の69.3%を下回った。回答者のうち、20代を除いては「統一は必要」という回答の比率が高かったという。

次に、「南北の間に戦争がなく、平和的に共存できるならば統一は必要ない」という質問について、回答者の46.0%が同意した(回答は五段階から選択)。反対したのは31.7%だった。2016年と比べ、同意した比率が2.9ポイント上昇し、反対は5.6ポイント下がった。回答者の22.2%が「普通」と答えた。

「一つの民族だから統一しなければならない」という統一論が目に見えて弱まったという

統一の理由を聞く設問に対し、「南北間の戦争の脅威を無くすため」が41.6%で最も多かった。2014年に調査が始まって以降はじめて、この問いに対する回答者が一番多かったという。

次いで「同じ民族だから」が30.0%、「韓国がより先進国になるため」が14.0%と続き、「離散家族の苦痛を解決するため」は11.1%、「北朝鮮の住民が良い暮らしを送れるようにするため」は2.9%だった。

これが南側の当事者の答えなのだろう。

私たちが見ているのは、このように「民族」や「国」の概念は変わっていくという、その現場なのかもしれない。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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