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2013年から18年にフランスで起きた全テロを数字で把握ーISとの関連、イメージとの違い等実態を知る

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
2017年にニースで行われた欧州・地中海テロ対策会議で、開場前の警備をする警官(写真:ロイター/アフロ)

ル・モンド紙に、2013年から2018年の間にフランスで起こったテロの総まとめと分析が掲載された。

主だった統計を紹介する。数字化によってIS(イスラム国)との関連や、イメージと現実の違いが把握できる結果となった。

●フランスで78のテロ計画があった。

そのうち11が達成、17が失敗、50が未遂

●イスラム国(IS)との関連

◎テロ犯人(たち)の宣言

達成あるいは失敗した28のテロのうち

11のテロで、公式にISへの忠誠を表明

7のテロで、警察に口頭でISへの忠誠を表明

1のテロで、アルカイーダへの忠誠を表明

◎イスラム国(IS)側の宣言

達成した11のテロのうち

7つのテロで、ISが公式コミュニケで犯行声明

3つのテロで、犯行声明なし

1つのテロで、アルカイーダが犯行声明

●使われた武器

28の達成あるいは失敗したテロのうち

16が冷兵器(火薬や爆発などを伴わない、主に刀剣や弓矢などのもの)

9が火器

6が爆発物

4が車両

●テロ犯人

78の計画があって147人の犯人がいた。

◎123人が男で24人が女

◎22人が未成年で、125人が成年

◎124人がフランス国籍所有者で、18人が外国籍、5人が発表なし

◎精神的に問題があるとされたのは6人。

◎123人がシリアやイラクに行ったことがない。24人が実際に行った。36人がシリアに行く計画はあった。

◎78の犯行計画のうち、40の計画で少なくとも1人の犯人がイラクやシリアとコンタクトがあった。29でコンタクトがなかった。9が不明。

◎犯人は119人が刑務所に入り、28人が死んだ。

●テロの犠牲者たちについて

◎233人の犠牲者が一般市民で、7人が警官などの治安担当者、5人が宗教のため(ユダヤ、カトリック)

●50の未遂に終わったテロのうち、31の対象が明らかになっている

17が治安関係(兵舎、警察署、治安関係の事務所など)

6が娯楽施設(コンサートホール、競技場、バーなど)

5が宗教(ユダヤ、カトリック、シーア派)

3が商業施設(スーパーや銀行など)

3が学校や大学

1がアメリカ人またはロシア人の市民

1が原発

1が交通機関

1がラ・デファンス(パリの西にあるビジネス街)

19が不確定

こうやって数字ではっきり見ると、大変興味深いものとなった。

筆者の個人的な感想を言うとーー。

・治安を守ろうとする警察などの努力は大変なものがあると常々感じでいたが、78の計画うち50も未遂だったとは、やはりそうだったのだと思った。

・テロの達成が治安関係者が犠牲になったものが増えてきた印象があったが、これも数字を見て納得した。

・一方で、未遂の約3分の1が治安関係者が標的という事実をどう考えるか。犯人はフランス国籍者が多いということで、やはり一般の人がよく出入りするような所は躊躇するのかもしれない。自分自身、自分の家族や友達・知人も、商業施設などにはよく行っているのだから。ただ、一般市民へのテロのほうが、治安関係者よりもやりやすいはずだ。やはり、一般市民の殺傷は、大義がないからだろうか。あるいは日頃、治安関係者に「嫌な目」にあわされたことがあるのだろうか(駅などでよくみかけるが・・・何があったのだろうといつも思っている)。でも警官等は移民系の人が多く、犠牲になった人もいる。社会が大変複雑である。

・宗教関係のテロのことは、よくメディアでは話題になるが、漠然と思っていたよりも宗教が標的になったものは数としては少ないのだな感じた。

・移民が流入=テロが増えるというイメージがあり、極右も宣伝しているが、犯人の過半数はフランス国籍所有者である。問題の根は深いと改めて感じた。

・筆者はシャトレ・レアールにある駅ビルショッピング街で、人々が恐怖で逃げ惑った現場にいたことがある。人々はとっさに「テロだ!」と思った。私は店の中にいたのだが、店員はシャッターをおろし、私は店の隅っこに隠れた。実際はデマだった。これを報道した大衆メディアのネット上の記事は、当初は生々しく書かれていたのに、しばらくしたら抑制を効かせたものに書きかえられていた。未遂の50件のうち3件は商業施設・・・多いのか少ないのか、判断に迷う。

・教育施設(学校や大学)が3件とは・・・。驚いた。だからあんなに入場チェックが厳しくなったのかと納得。

・ギクっとしたのは、未遂に終わった原発へのテロ攻撃だった。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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