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欧州逮捕状は英国も巻き込むか? カタルーニャ元教育相がスコットランドで出頭。プチデモンへの影響は?

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
仮釈放されて裁判所から出てきたポンサチ氏(左女)と弁護士のAnwar氏(右男)(写真:ロイター/アフロ)

英国を巻き込みそうなのは、クララ・ポンサチ(Clara Ponsati)という女性で、カタルーニャ自治州の元教育大臣だ。

この経済学者は、地元バルセロナ大学の教授だけではなく、カリフォリニア大学やトロント大学でも客員教授を務めたことがある人物で、カタルーニャ独立運動家である。カルレス・プチデモン州首相とともに昨年10月末ブリュッセルに逃れ、会見の時には彼の隣に座っていた。

彼女は昨日3月28日朝、スコットランドの首都エジンバラの警察に、自ら進んで出頭した。彼女にもプチデモン氏と同様、欧州逮捕状と国際逮捕状が出ているからだ。その後、エジンバラ・シェリフ裁判所に出頭してヒアリングを受けた。

そしてあっさり仮釈放された。

プチデモン氏は「逮捕状が出ているから」とドイツで収監されて、沙汰を待っているのとは対照的だ。

ポンサチ氏がスコットランドに赴いたのは、ほんのすこし前のことだそうだ。おそらく、逮捕状が出るのを察知して、わざとスコットランドに行ったのに違いない。

「スコットランド自治政府の首相は真の友人」

彼女が仮釈放となって、弁護士のAamer Anwar 氏と一緒に裁判所から出てくると、サポーターたちが二人を取り囲んで喜びの声をあげた。弁護士は「スコットランド自治政府の首相ニコラ・スタージョン氏は、最も暗い時にカタルーニャの真の友人であった」と感謝する声明を読みあげた。

ニコラ・スタージョン氏は、スコットランド国民党の党首でもある。同党はスコットランド自治政府で第1党だ。

ポンサチ氏にとって、スコットランドはなじみのある土地だ。2016年1月から、スコットランドのセント・アンドリュース大学の教授&経済金融学部のディレクターとして勤務。その後、17年7月にはカタルーニャに戻り、プチデモン州首相のもとで教育大臣を務めた。しかし数ヶ月後の10月末には、州首相とともにブリュッセルに逃れることになった。同大学では依然として教授である。これももしかしたら、スコットランド国民党の「はからい」だったのだろうか。

彼女の裁判費用を支払うために設定されたクラウド・ファンディングのページは既に16万5000ポンド(約2500万円)が集まっているという。

次の聴聞会は4月12日に予定されている。

深まるカオス

これは一体、どういうことになるのか。

スコットランドの裁判所が、スペイン政府のいう「反逆罪・扇動罪・公金流用」の罪状を認めるわけがない。ポンサチ氏は「暴力を振るったのは、スペイン警察と6000人もの治安部隊のほうで、スペイン政府のためにカタルーニャ市民を攻撃してきたのだ」と強く主張している。

ということは、スコットランドで罪と認められなくても、ドイツでは認められるのだろうか。メルケル首相はカタルーニャの独立運動には、最初から一貫して冷ややかな姿勢をとってきた。

そしてスコットランドがカタルーニャ側の罪を認めないとなったら、英国政府はロンドンでどういう態度に出るのだろうか。見て見ぬふりをするのか、それとも政治的に介入してくるのか。これってブレグジット問題とどう関係してくるのだろうか。

さらに、ドイツでプチデモン氏の弁護士をつとめるWolfgang Schomburgという人物がいるのだが、この人は南ドイツ新聞に「プチデモン氏に対するスペインの逮捕令状は不正確で表面的であり、それが欧州逮捕状か国際逮捕状か不明である」と述べた。

彼はドイツ政府に、いかなる状況でも、プチデモン氏の引き渡しを認めないことを即座にはっきりと示すよう迫っている。

確かに、どっちの逮捕状なのかよくわからない。もめにもめて、スペインではない所の裁判所で裁くような事態が起きるのなら、国際司法裁判所なのか、欧州司法裁判所なのか。以前の記事で書いたように、国際逮捕状があるのにもかかわらず欧州逮捕状ができたのは、もともとはテロリスト逮捕のためだったのだ。彼らはテロリストと同じなのか。

しかし、このドイツ人弁護士も、「南ドイツ新聞」で語るところがツボを心得ているなあ・・・と感心する(もちろん、新聞側も新聞側であるが)。もともと南のバイエルン地方は、ビスマルクによってドイツに組み込まれるまでは独立した王国で、今でも地方主義が大変強くて、保守的な地域である(バイエルン王国最後の王・ルードヴィヒ2世は、ワーグナーを保護したことで有名である)。

結局、「反逆罪とは何か」という話になってくる。この検証は次稿に譲りたいと思う。

英国政府はどうするのか

いったい、欧州はどのようにけりをつけるのだろう。

最近では、ロシアの元スパイへの襲撃事件で、EU(欧州連合)は英国との連帯をここぞとばかりに示したがっているように見える。3月22日・23日で開かれた欧州理事会でも、英国との無条件の連帯を強調していた。まるでブレグジット問題の話し合いで生じている両者の溝を埋めようとするかのように。

今後同じように、EU加盟国で集まって、スペインの肩をもって英国と連帯することも可能ではある。ロシアの次はカタルーニャ、というわけだ。

でも、下手に動いて本当にスコットランドの独立運動に飛び火してしまっては困るので、英国政府はやはり見て見ぬフリだろうか。

EUはどう出るだろうか。英国もスコットランドも、もはや事実上EUの一員ではなく、理事会には基本的に出席してない。

しかし、無視を決め込むことはできるだろうか。

スコットランド国民党の国会議員で、ロンドンのウエストミンスター議会におけるリーダー、イアン・ブラックフォードは、もう英国のスペイン大使に「この問題について、大至急話し合いをしたい」と、手紙を送ってしまった。

手紙はこう始まっていたという。

「カタルーニャの独立支持の政治家を追跡する一環として、スコットランドで尊敬されている学者である元大臣が、反逆罪の罪状に直面していることは、ひどく残念です。そのような罪状は、スコットランドの法律では認められておりません」。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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