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カタルーニャ、3人の拘束議員をめぐってスペイン政府の敗北か?

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
3名の拘束された議員の席には抗議の黄色いリボンがあしらわれた。(写真:ロイター/アフロ)

選挙が終わり、定められた日程に従ってカタルーニャ議会が開催されるにあたって、議会の議長を決めなければいけない。

1月17日、議長に、独立派「カタルーニャ共和左派」のトレン氏が賛成多数で選出された。

カタルーニャ議会では、独立派が過半数を占めている。独立派の会派は二つあり、一つはプチデモン氏が所属する「カタルーニャのための連合」で、もう一つが、今回議長を出した「カタルーニャ共和左派」である。両者は、プチデモン氏を首相指名することに決めている。

ここに来るまでの問題は、主に二つあったように見えた。

1、拘束されている3名の議員が、議会の投票に参加できるのか。

2、プチデモン氏はブリュッセルにいながら首相になれるのか。

2のプチデモン氏の問題の前に、目下の問題は1であった。

議長を選出する投票に、3名は投票できるのかどうか。

マドリッドの譲歩か、敗北か

州議会法律顧問団というのがいて、彼らはマドリッドの政府の意に沿っているようだった。ずっと「拘束されている3名が投票するのも、現地不在の人物が州首相に任命されるのも違法行為である」と主張していた。「委任状の制度はあるが、病気や産休の議員のためのもので、この場合は当てはまらない」と。

ラホイ首相は、「法律に反するなら、憲法裁判所に提訴する」「もしこれらがなされたら、(国家反逆罪を想定している)155条が適用される」「よく考えるべき」と言っていた。

しかし、州議会法律顧問団には決定権はない。決定権をもつのは、議会執行部のメンバー7人である。1月17日、議会開始準備委員会は7人を決定した。4人は独立派からなっている。議員は過半数が独立派なのだから、当然の結果である。

マドリッドの政府は、長老委員に判断を委ねる形にした。

そして長老議員マダカールが、3人の委任投票を認めた。

「ヤデナ判事の憲法解釈に従った時点で、ラホイ首相は155条の発動は事実上あきらめたのと等しかった」とスペイン国営放送はいう。

そして、拘束中の3人は、代役が投票した。不在の彼らの席には、抗議の意味を込めて、黄色いリボンが描かれた。

155条は発動されず、バルセロナは平穏であったという。

左派政党の微妙な反応

ここで筆者が大変興味深かったのは、各党の反応だ。

今回の選挙で新しく登場した独立反対派「市民党」が「見直しするべき」と反対を唱えたり、カタルーニャでは決定的な敗北を喫して少数政党になってしまった国民党(ラホイ首相の属する政党・中道右派)が「規則を逸脱している」と非難するのは、想定内だ。

筆者が注目したのは、社会党とポデモスだ。どちらも左派だ。左派というものは、市民の権利と、枠を超えての市民の連帯を唱える思想のはずである。

しかし地方が独立するとなると・・・?? 彼らはどう反応するのだろうか。

以前の段階では、社会党は独立反対の立場だった。ただし「両者はもっと話し合うべきだ」と繰り返し融和を説くという姿勢で、国民党に賛成して協力するという姿勢ではなかった。また「唯一の解決策は、1978年の憲法の協定を更新する合意を結ぶことだ」と言っていた。

ポデモスに関しては、一般的な協議に基づいて、包括的な交渉を行うことが唯一の道だと言い、イグレシアス・ポデモス党首は「私は市民が投票用紙を投票箱に投げつけるイメージが、殴打、水による大砲、抑圧よりも千倍も好きだ」と、わかるようなわからないような、結局わからないレトリック的な発言をしていた。

しかし、カタルーニャ市民の過半数の意志を尊重するなら、独立に賛成するべきだろう。逆に「レジョナリズム」と批判するのなら、国の統一に賛成するべきだ。しかし、国、国と固まるのは右派ではないのか。左派がそんなんでいいのか。

(もっとも、左派は実際の歴史では、常に国民国家の枠組みで動いてきた。連帯とは「国同士がつながる連帯」というのが実情だった)。

そうしたら、ポデモスは議長選出において棄権した・白票を投じたと報道されている。社会党は、マダカール長老議員に対して「判事や法務官の報告に基づいて、可能な限りの解釈を行ったのだ」と、事実上委任投票を認めた。

ポデモスよ、決断放棄か。まあ気持ちはわかる。本当に困ったのだろう。党の基本に照らしても解決がでなくて困るし、議会では独立派が過半数といっても圧倒的ではなく、下手をするとポデモスが決定権を握ってしまいかねない。どちらに転んでも、相当数のカタルーニャ市民に恨まれる。

社会党は、やはり最後のところで右派と同じにはなれなかったのね、と思うし、無難路線だな、とも思う。

ラホイ首相は、155条を発動すると脅していたが、結局何もしなかった。ラホイ首相は先立って「国民党がもう少しマシな行動をとっていればよかった」「難しい判断で、国民には良かったが、国民党は支持を失ってしまった」と自己批判した。「155条発動というのは、説得交渉の一環だったようだ」「プチデモンのアピールはプロパガンダに過ぎないと首相は考えている」と、スペイン国営放送は伝えている。

ちなみに、プチデモン氏は、新議長のスマホから、スカイプで議長の投票議会に「参加」したことになっている。

どうなる、プチデモン氏

これからは、プチデモン氏指名の問題に集中されるだろう。国民党は、本人不在の首相指名について「シュールレアリズム的な考えをやめろ」と非難している(ダリはカタルーニャ出身です 苦笑)。

プチデモン氏が帰国しないのは、逮捕される恐れがあるからだ。

筆者は、おそらく陰でも、EU側からなんの保障もされていないから帰国しないのではないか、と感じている。しかし、正当な選挙によって、市民から選ばれた議員によって指名された首相を逮捕するなんて、できるのだろうか。この21世紀の欧州で。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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