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都心マンションが高くなりすぎた影響?世田谷、杉並の新築・1億ションに再評価の動き

櫻井幸雄住宅評論家
昨年販売され、短期間に完売した「サンウッド瀬田一丁目」。販売センターで筆者撮影

 この春、杉並区内で販売された「プラウド阿佐ヶ谷南二丁目」は、JR中央線阿佐ヶ谷駅から徒歩3分という便利な立地だったため、2LDKが1億円程度という価格設定となった。が、全37戸があっという間に完売した。

 京王井の頭線久我山駅から徒歩4分で今年売り出された「パークホームズ杉並久我山」は約72平米の3LDKが1億円前後で、こちらもすぐに完売した。

 世田谷区内、杉並区内で駅徒歩圏の新築マンションが複数販売され、好調に売れている。その共通点は、駅に近く便利であること。駅に近い分、価格が1億円レベルになるのだが、売れ行き好調なのである。

 世田谷区、杉並区の新築分譲マンションに今までとは異なる動きが出ている。

一時期はオワコン扱いされることが多かった場所だが……

 東京23区内で山手線の外側に位置する世田谷区と杉並区は、大正時代から続く住宅地が多い。世田谷区では瀬田に上馬、下馬、深沢、岡本、杉並区内では荻窪、浜田山、高井戸、久我山……全国的に知られた地名がいくつも出てくる。

 23区内でありながら、緑が多く、静かで落ち着いた住宅地が続くという立地特性は今も変わらない。にもかかわらず、世田谷、杉並の人気は近年落ち気味だった。

 理由は、山手線内側の千代田、港、中央、文京の4区を中心に渋谷区、新宿区を加えた都心6区の人気が爆上がりしたため、その影に隠れてしまったことが大きい。

 資産性つまり、将来の値上がりを考えたときは、山手線内側のほうがやはり有利だ。だから、投資目的の購入者が山手線内側の物件を好むのは昭和時代から変わらない。

 これに対し、世田谷、杉並は実需層(自ら住む目的でマイホームを買う人たち)に絶大な人気を誇っていたのだが……。「買うなら値上がりしそうな物件」という意見に押され、住み心地重視の世田谷、杉並はオワコン扱いされることもあった。一時期、世田谷、杉並の新築マンション価格が高くなりすぎたことも、敬遠される理由として大きかった。

 その世田谷、杉並では、この数年新築マンション価格が落ち着いている。その価格設定に惹かれる購入者が増えてきたのである。

パワーカップルが購入しやすい駅近の3LDK

 これまで、都心マンションの購入者で目立ったのはパワーカップル。共働きで、世帯年収が1500万円を超えるような夫婦だ。パワーカップルならば、ダブルローンを組むことで、1億円から1億5000万円くらいの物件が購入可能となる。

 ところが、ここ数年、純粋な都心部で販売される新築マンションが高騰。2LDKでも1億5000万円以上、3LDKならば2億円を超えるケースが増えてしまった。パワーカップルでも手を出しにくくなったのである。

 その点、世田谷、杉並では、現在、駅徒歩圏の新築マンションの2LDKや3LDKが1億円から1億5000万円で購入できるケースが多い。十分に高額なのだが、都心マンションに比べるとまだ安いので、興味を示すパワーカップルが増えたわけだ。

 加えて、世田谷、杉並で分譲されるマンションには、建物に共通する特徴もある。それも人気が上昇している理由として大きそうだ。

駅徒歩6分で、一戸建て住宅地内の低層マンションも

 世田谷、杉並で分譲されるマンションに共通する特徴とは……個性派が多いのだ。それは、昭和時代から続く立地特性でもある。

 外壁が重厚で、新しい試みを盛り込んだマンションが次々に出てくる土地柄なのだ。本来は戸建て志向が強い場所なので、工夫を凝らしたマンションでないと満足してもらえないのだろう。

 たとえば、世田谷、杉並では低層3階建てで、凝ったつくりのマンションを探しやすい。2022年初めに販売され、短期間に完売した「サンウッド瀬田一丁目」は東急田園都市線二子玉川駅から徒歩9分の住宅地内に建設された低層マンション。建物地下に全戸分の駐車場を備えるなど特殊なつくりを採用した。その分、販売価格が上がり、2億円近い価格の住戸もあったが、大人気で完売した。

 同じ事業主が杉並区内でこれから販売するマンションも低層だ。JR中央線西荻窪駅から徒歩6分の一戸建て住宅地内に立地し、全19戸の規模。地下駐車場はないので、そこまで高額にはならない見通しである。

 建物は内廊下方式を採用し、3LDKの多くは3つの居室とリビングがすべて南面となるワイドスパン設計に。「ウォークインパントリー(歩いて入ることができる大型の食品庫)」という大型収納を備える先進性も持つ。

世田谷、杉並は本来、億ションが売れる場所

 世田谷、杉並は、本来、マンション価格が高い場所だった。都心部の港区や千代田区と大差ない値段で新築マンションが売り出されていた。それが、都心マンション偏重のあおりを受けた時期に売れ行きが落ち、価格も下がった。

 そのため、都心マンションよりも購入しやすい価格の物件が目立つようになった。駅から離れてもかまわないなら、5000万円台の新築マンション3LDKが見つかるし、駅近で1億円程度の新築マンション3LDKも見つかる。それが、世田谷、杉並の現状である。

 世田谷、杉並では駅に近くても、周囲は一戸建て住宅地で住環境がよいというケースが多くなる。駅から歩いて5分とか6分以内であれば生活しやすいし、資産価値の高さも期待できる。加えて、建物の質が高く、個性的な間取りは多くの購入者に喜ばれる。

 以上の特性に気づいたパワーカップルが都心の次に世田谷、杉並の駅近物件に注目しはじめたということだろう。

 今、いろいろな分野で復古ブームが起きているが、高級住宅地として発展してきた世田谷、杉並も若い世代に「エモい」とウケているのかもしれない。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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