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観光PR隊長「パパたこ」の街が、関西の「本当に住みやすい街大賞」に輝いた日

櫻井幸雄住宅評論家
「本当に住みやすい街大賞2022 in 関西」にて。写真は同賞の運営委員会提供

 8月24日、住宅ローン専門金融機関「ARUHI」が主催する「本当に住みやすい街大賞2022 in 関西」が発表された。

 今回の対象エリアは大阪府、京都府、兵庫県。そのなかで「本当に住みやすい街大賞」に輝いた街は兵庫県の「西明石(駅周辺)」だった。

 その表彰式に登場したのが、明石市の泉房穂市長(上の写真中央、トロフィーを手にしている)と、明石観光PR隊長の鉢巻きも勇ましい「パパたこ」。2017年からはじまった「本当に住みやすい街大賞」で初めてご当地キャラが表彰式に登場した瞬間だった。

 首都圏だけでなく、日本各地で実施される「本当に住みやすい街大賞」では、上位3位の街にトロフィーが授与される。トロフィーは、市や区の代表者を招待して渡されるのだが、受賞に際し、パフォーマンスが披露されることがある。

 たとえば、2020年12月に発表された「本当に住みやすい街大賞 2021」では、首都圏第2位となった大泉学園のトロフィーが練馬区広報課の岡野勇太氏に渡された。その際岡野氏は、練馬区の特産品である大根とキャベツを両手に持って登場。今や幻の野菜と呼ばれる「練馬大根」を誇らしげに掲げて、喜びを表した。

練馬区の名産である大根とキャベツを掲げた受賞の挨拶。このようなパフォーマンスが行われるのも「本当に住みやすい街大賞」の特徴だ。写真は、同賞の運営委員会提供
練馬区の名産である大根とキャベツを掲げた受賞の挨拶。このようなパフォーマンスが行われるのも「本当に住みやすい街大賞」の特徴だ。写真は、同賞の運営委員会提供

 「本当に住みやすい街大賞」では、目立たない街が選ばれることが多い。脚光を浴びることが少ない街が選定されるので、喜びもひとしおとなるのだろう。その結果、ついパフォーマンスが出てしまうようだ。

 ご当地キャラの登場も大歓迎である。

 しかしながら、今回登場した「パパたこ」は、明石市の観光PR隊長。そこから「観光」を打ち出す街が関西における「本当に住みやすい街大賞」となったのか、と思う人も出てきそうだ。

 そんなことはなく、西明石がある明石市は子育て支援に力を入れるなど、住みよい街づくりを推し進めている。

 そのことを含め、西明石が「本当に住みやすい街大賞」に輝いた理由を、審査委員長を務めている私から説明したい。

「住みたいけれど住めない街」は選外に

 「本当に住みやすい街大賞」の特徴は、「住みたいけれど住めない街」ではなく、実際に家を新築したり、マイホームを購入したりする人が多い場所で、長く住み続けたい要素を備える街を選ぶこと。憧れの住宅地を選ぶ人気投票ではないし、将来の値上がり度を重視しすぎることもない。

 現実的に「住むことがしやすい街」を選定している。

 関西の場合、多くの人が憧れる住宅地として、北摂の豊中や阪神間の芦屋や西宮北口といった、高級住宅エリアの名前が挙がりがち。近年は、大阪駅に近いうめきたエリアの人気も高い。しかし、“住みたい街”として憧れを集めるエリアには、現実的には住めない場所が多い。

 分譲価格が高いし、新築分譲住宅の売り出しも少ない。それに対して、「本当に住みやすい街」では、現実的に手が届く価格帯であり、新築・中古物件も多いことなども考慮して、関西の街からトップ10を選出している。

 その選定は、ベースに住宅ローン専門金融機関「ARUHI」の住宅ローン利用者データがある。これにより、フラット35の利用者が多い街を選ぶことができる。マイホームを新築した人、購入した人の多発エリアをまず候補地とし、その上で住環境や交通利便、発展性などを審査して、ランキングを行っている。

 結果として、従来の“住みたい街”ランキングとは異なる街名が並ぶことになる。以下が、今回の1位から10位までの街(駅名)。関西在住者以外には、馴染みのない名前、そして読み方さえわからない名前もあるはずだ。

「本当に住みやすい街大賞2022 in 関西」

1位西明石(JR神戸線)

2位本町(大阪メトロ御堂筋線)

3位北千里(阪急千里線)

4位名谷(神戸市営地下鉄西神・山手線)

5位高槻(JR東海道本線)

6位北大路(京都市営地下鉄烏丸線)

7位伊丹(JR福知山線)

8位寝屋川市(京阪電鉄京阪本線)

9位谷町六丁目(大阪メトロ谷町線)

10位北畠(阪堺電気軌道上町線)

なぜ「観光PR隊長」がいる西明石が大賞に?

 4位の名谷は「みょうだに」と読む。10位は「きたばたけ」で、天王寺・阿倍野に近い場所だ。

 そのなか、1位になった西明石は、大阪中心部への通勤圏としては少々遠い場所。新快速の停車駅ではあるが、大阪中心部までは40分以上かかり、時間帯によっては1時間かかる。神戸の中心部ならば30分以内なので、神戸の通勤圏とみなす人が多かった。

 その状況に変化が生じたのは、コロナ禍により、テレワークが広まってから。大阪中心部で会社勤めをして、「毎日は出勤しなくてもよい」となると、西明石の魅力がにわかに増す。

 瀬戸内海が近く、山も身近。自然が豊富な場所で、じつは新快速以外で山陽新幹線の駅もある。新幹線を利用すれば新大阪駅まで22分の所要時間となるため、週に1回か2回の出勤ならば、余裕の通勤圏だ。

 一方で、分譲住宅の価格と賃貸の家賃は抑えられている。明石市内では中古マンションの3LDKが1000万円を少し超えたあたりで購入できたため、コロナ禍で人気が上昇。今年5月にワンノブアカインド社が発表した「2022年4月 全国市区町村中古マンション価格ランキング100」では、1年間で中古マンション価格が大きく上昇した市区町村として、明石市は全国第3位にランクインしていた。

 さらに、2020年の国勢調査と2015年の国勢調査を比較すると、明石市の人口増加率が全国62の中核市の中で第1位だった、という事実もある。

 本当に「住みやすい街」だったのである。

 ちなみに、「パパたこ」は、もともと明石市と淡路島を結ぶ明石淡路フェリー(愛称は、たこフェリー)のキャラクター家族の長として誕生。1998年に明石海峡大橋が開通し、2012年にフェリーの運営会社が解散した後、明石市が譲り受けたものだ。

 「パパたこ」にとっては勤めていた会社がなくなり、新しい会社に拾ってもらったようなものである。そして、頑張っている。今回の表彰でも、「その形態から、段差の上り下りは無理」といわれていたものの、記念撮影では、壇上への2段を懸命に上がって写真に収まった(冒頭の写真)。

大賞受賞後の記念撮影を終え、ステップを下りて帰途につく明石市の観光PR隊長「パパたこ」。同じ壇上で写真に収まった筆者が舞台袖から下り、客席の後ろから正面に回ってきても、まだ歩いていた。その際に筆者撮影
大賞受賞後の記念撮影を終え、ステップを下りて帰途につく明石市の観光PR隊長「パパたこ」。同じ壇上で写真に収まった筆者が舞台袖から下り、客席の後ろから正面に回ってきても、まだ歩いていた。その際に筆者撮影

 その頑張りぶりは感動もので、当初、かわいさは今ひとつと思っていた私もいきなりファンになってしまった。

 残念ながら、ご当地キャラとして全国的な認知度が低い「パパたこ」だが、今回「本当に住みやすい街大賞」でスポットライトを浴びた。西明石とともに、「パパたこ」人気も今後上がってゆくことを祈りたい。

 なお、明石観光協会では「パパたこ」関連商品として、合格祈願グッズのクリアファイル(クリアはいる)や必勝ストラップを販売。それは、「置くとパス」にひっかけたものだ。受験生だけでなく、仕事で苦労している人にも……。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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