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なぜ、コロナ禍でもマンション購入者が減らない? マイホームを「今、あえて買う」理由とは

櫻井幸雄住宅評論家
湾岸エリアの住宅展示場と、超高層マンション群。筆者撮影

 コロナ禍でも、新築分譲マンションの購入者が減らない。「バブル期並みに売れている」という記事もみかけるが、一方で「住宅ローン破綻が急増」ともされる。

 2つの記事を合わせれば、収入減でローン破綻するのが目に見えているのに、なんで今マンションを買う人が激増しているのか、という疑問が湧いてしまう。

 ちなみに、私が30代で経験したバブル期は、「昨日5000万円で購入した中古マンションを、今日6000万円で売ってくれという人が現れた」というくらい、常軌を逸した売れ方だった。コロナ禍の今、そこまでマンションが売れているとは、とても思えない。

 また、住宅ローンに関して、「相談件数が増えている」というデータはあるものの、破綻が急増している、という金融機関のデータはないので、「バブル期並みに売れている」も「住宅ローン破綻が急増」も、読者の関心を引くため、少々オーバーな書き方になったのだろう。

 販売の現場を歩くと、「4月、5月の緊急事態宣言時に想像されたような落ち込みはなかった」「意外に売れているマンションもある」との声が多い。売れ行きはそれほどわるくないが、一部には販売に苦労するマンションもある、というのが本当のところ。つまり、「収入減で住宅ローン破綻のリスクが高まるかもしれない」が、「マンションを買う人は、けっこういる」というのが、首都圏マンション市況の実情といえそうだ。

 では、今、マイホームを購入する人たちは、どのように考えて購入を決意したのか。新築マンション販売現場で集めた購入検討者の声を交え、「今、あえて購入」の動機を分析した。

賃貸に住んでも住居費は発生する。だったら、買ったほうがよい

 購入検討者の多くが口にするのは、「賃貸に住み続けても、家賃の支出がある」というもの。収入が減ってゆけば、リスクは賃貸暮らしにも生じる、というわけだ。

 たとえば、子供1人もしくは2人のファミリー世帯が首都圏の通勤圏で賃貸暮らしをする場合、3DK程度の賃貸住宅を借りる家賃は月額10万円以上。15万円は払いたくないが、12万円くらいまでは仕方ない、ということになりがちだ。家賃で10万円〜12万円を払っている人がマイホーム購入を前向きに検討している……それは、無理もないことと思われる。

 10万円〜12万円の家賃は高額である。今後、収入が大きく減れば、その家賃だって払い続けることはむずかしいだろう。

 その場合、もっと家賃の安い賃貸に引っ越すことになるが、それは狭く、環境のわるい賃貸になるはず。賃貸暮らしでも不安はあるわけだ。

 賃貸暮らしの場合、勤め先によっては給与とは別に住宅手当が出る。月額で2万円とか3万円になるケースが多く、その住宅手当があるから賃貸暮らしを続けるという人もいる。

 が、住宅手当がずっと続くという保証はない。

 企業の業績が悪化すれば、住宅手当が廃止される可能性がある。また、住宅手当をなくし、代わりにテレワーク手当を創出する動きもある。このテレワーク手当は、賃貸居住者にだけ支給されるのではなく、持ち家の人にも支給される見通しだ。すると、賃貸居住者だけが得られる特典が1つ減ってしまう。

 つまり、住宅ローン破綻が頻発する世の中になったら、賃貸に住んでいても厳しい状況が生じる。だったら、最悪の事態を考えず、前を向いたほうがよい、と考える人がコロナ禍でもマイホーム購入に前向きなのである。

 ちなみに、毎月12万の家賃を払っている場合、その12万円を住宅ローンの返済に充てると、超低金利の現在は、35年返済・ボーナス月の加算なしで4000万円から4500万円程度を借りることができる。

 郊外の3LDKを購入可能な金額だ。

 超低金利の今は、「賃貸か分譲か」を考えるとき、分譲のほうが得となりやすい。

 といっても、マンションを買えば、ローン返済以外に毎月の管理費と修繕積立金(2万円から3万円のケースが多い)が必要だし、年に1回固定資産税を払わなければならない(4000万円台3LDKならば、10万円程度)。総額で年間で30万円から40万円程度の出費になるのだが、それをほぼ補ってくれる住宅ローン減税が10年以上続く。

 そのへんを綿密に計算したうえで、購入を決めている人が多いのだ。

コロナ禍でマイホーム購入を諦めるのは嫌だ

 「もともと、マイホーム購入は決まっていたこと。それをコロナ禍で変更したくない」という購入検討者も多い。

 1、2年様子をみるのもよいが、そうなると、住宅ローン返済の開始時期が遅くなり、人生設計が狂ってしまう。1、2年様子をみている間、賃貸の家賃を払い続けるのもムダである。

 それに、今後コロナ禍で収入が減ると、住宅ローンで借りることができる金額が減る、という不安もある。超低金利の今、より多くの金額を住宅ローンで借りたい、と考える人は、2019年や2020年の源泉徴収票を基に住宅ローンの審査を受けたいわけだ。

 高い年収を基に住宅ローンを組むと、収入が減ったときにローン返済できない危険が高まる。しかし、コロナ禍もいずれ克服されるはず。それまで頑張りたい。賃貸に住んでいても、家賃の支払いで苦しむはず。同じ苦しみならば、住宅ローンの返済で苦しんだほうがよい、と悲痛な覚悟である。

結局、低金利とローン減税が購入を後押し

 悲痛な覚悟といえば、冗談交じりでこんな話をする人もいた。

 万一、自分(世帯主の男性)が新型コロナで帰らぬ人になったとき、住宅ローンを組んでマイホームを買っていれば、団体信用保険料で住宅ローンの残債が整理される。残された家族はローン返済なしでマイホームに住み続けることができ、生命保険も入るので、妻1人でもなんとか子供を育てあげることができるのではないか。

 確かに、それは賃貸暮らしでは得られない安心……が、想像したくない事態である。

 さらに、多くの人が考えているのが、アフターコロナの増税リスク。給付金や補償金が多く出されたため、今後の増税は避けられない。そうなったとき、住宅ローン減税のありがたみが増す……これも賃貸暮らしでは得られない利点だ。

 結局、コロナ禍の今でも、マイホーム購入に積極的な人がいるのは、超低金利の住宅ローンが利用できることと超大型の住宅ローン減税があるから。2つの魅力は、コロナ禍の不安に勝り、それがマイホーム購入者が減らない大きな理由だと考えられる。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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