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「マンション暴落予測」がハズレ続ける理由 戸建て購入には好機到来か

櫻井幸雄住宅評論家
年度末の値引きを期待するなら、マンションよりも、戸建て新築か。筆者撮影

 昨年末、不動産経済研究所が2019年の首都圏新築マンション供給戸数と2020年の供給戸数予想を出した。

 2019年の供給戸数は3万1300戸(発表時点では見込みの数値)。これは、前年から5000戸も減り、約15.7パーセントの減少。バブル崩壊直後の1992年(2万6248戸)以来、27年ぶりの低水準になった。新しい年2020年はそれよりは供給戸数が増え、3万2000戸程度になると予想している。

 が、1年前の2018年12月に予想した「2019年の供給予想戸数」は3万7000戸だった。実際には、その予想を大きく下回る戸数しか供給(販売)されなかったことを考えると、2020年のマンション供給戸数も大幅増は期待できない。

 もしかしたら、3万戸を割り込む可能性もありそうだ。

 供給戸数が減った理由として、新築マンション価格が大きく上昇し、消費者の購買意欲が鈍ったことが原因とする向きが多い。要するに、値段が高くなったので、新築マンションが売れなくなった。だから、売り出す戸数も減った、と考えられているわけだ。

 すると、次に予想されるのは、値下げ。価格が上がりすぎて売れ行きがわるくなったのなら、値下げをするのが、当然の動きといえるからだ。

 折しも、これから3月末までは年度末にあたる不動産会社が多い。年度末を控える不動産会社は、今期の売り上げを確保するため、売れ残っている住戸を値下げして販売する……というのが、平成後期までマンション市況に見られた動きだった。

 ところが、今、マンションを販売する不動産各社に年度末に大幅値引きを行う動きはない。

新築・中古を合わせると、売買される戸数は減っていない

 年度末にかけて値引きを行う気配がない理由は、供給戸数が減ったことに対する危機感が薄いことにある。つまり、是が非でも売りたい、という焦りがないのだ。

 新築マンションの分譲戸数は、首都圏で最盛期8万戸ほどが毎年分譲されていた。それが、ここ数年は3万戸〜4万戸レベル。最盛期に比べて半分以下になっているのだが、半面、中古マンションの取引事例は年々増加。現在は首都圏で4万戸以上が毎年取引されている。

 新築マンションが毎年8万戸分譲されている時代、中古マンションの取引数は少なかった。新築8万戸に対して、中古は1万戸程度。新築志向が強かったことも原因だが、それより中古マンションの売り物がまだ少なかったことのほうが大きい。中古マンションを買うための住宅ローンがまだ不十分だったことも、「中古より新築」の動きを後押しした。

 それに対し、現在は中古マンションの数が増え、中古住宅ローンも拡充。中古マンションの購入者が増えた。その結果、新築と中古を合わせると、首都圏で年間約8万戸のマンションが売買されている。約8万戸は、最盛期の新築マンション供給戸数と中古マンション取引数を合わせた数と比べてわずかに減っただけで、大差がない。つまり、マンションを買う人の数は変わっておらず、新築比率が大きく下がっただけということになる。

新築マンションが減ることは、すでに織り込み済み

 いずれ、中古マンションの取引が増え、新築マンションを大量につくり続けることはできなくなる……不動産会社は、そのことを21世紀に入ったあたりから強く意識していた。

 そこで、マンション分譲以外の道を探した不動産会社は、商業施設やホテル、オフィスビル、賃貸マンション、高齢者施設、物流倉庫の運営など多方面に事業を拡大した。

 それらは賃貸収益や宿泊料を稼ぐことができ、将来的にファンド等に売却するという出口も用意されている。分譲マンションとして販売するよりも、収益性は高い。だから、マンション用地として購入するときよりも高い値段で土地を購入できる。

 オフィスビル、商業ビル、賃貸マンション、ホテルなどに利用できる土地を高い値段で購入するため、「マンションブームが起きているわけでもないのに、都心部や郊外駅近の土地価格が大きく上がる」という現在の状況が生まれているわけだ。

2015年以降、「マンション暴落予測」がハズレ続けた理由

 以上を勘案すると、「都心マンションは高くなりすぎた」ので、「それが売れなければ、地価は下がる」という予測に疑問が生じる。

 不動産会社各社にとって、現在、「新築マンションの売れ行き」は会社の命運を握っている状況ではなくなっている。そして、販売戸数が減ったマンションは、売れ行きが減速しているものの、まったく売れないわけではない。時間をかければ、多くのマンションも完売しているし、どうしても売れない住戸は、賃貸に回す手もある。

 だから、販売戸数が減った新築マンションは、売れ行きが鈍っても簡単には値下げを行わなくなっている。

 都心マンションの価格上昇が顕著になった2015年以降、マンション価格暴落論は絶え間なく出ている。それは、「マンション価格が高くなりすぎれば、その先にあるのは価格下落」という過去の経験則から当然のように出てくるもの。が、約5年間、一部郊外のマンションを除き、都心立地や郊外駅近のマンションでは一向に下がる気配はなかった。それは、「新築が減り、中古が増える」「不動産会社が住宅分譲以外に力を入れる」といった新たな動きがあるからだ。

 過去の経験則では、これからの不動産の動きは読みにくい。現在の状況を知れば、従来なら起きて当然の「年度末の値引き」も、今は期待薄といわざるを得ない。

唯一、値引きが期待できるのは……

 ただし、一戸建ての建物を売るハウスメーカーとなると、話は別。工場で部材をつくり続けているハウスメーカーにとって建物が売れないことの影響は大きく、特に今期は「消費税増税前の駆け込み」が起きず、増税後の冷え込みだけが起きている苦しい状況といえる。

 折しも、今年3月31日までの契約で最大3000万円までの贈与の特例を利用できる(これは、マンション、建売住宅の購入でも利用できる)。ハウスメーカーはそのことをアピールし、値引きや設備機器のサービスなど、お得な特典を用意する状況が生まれそう。マイホームの新築や建て替えを計画している人には、好機が訪れそうだ。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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