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にゃんぱく宣言「猫を外に出してはいけない」は実践できる? 猫飼育に特化した物件も

櫻井幸雄住宅評論家
我が家の猫は、外に出たがる。で、出してあげたくなる。愛猫のラン幼少期に筆者撮影

 テレビで流れるACジャパン(旧・公共広告機構)のメッセージで増えているのが、「ペットを大事に育てましょう」というもの。飼っている犬や猫を身勝手に捨ててはいけない、というメッセージには、大きく頷くことができる。

「飼えない数を飼ってはいけない」も同様。近年、分譲マンションでは飼ってもよい数を制限してペット飼育可能になっているところが多い。適正数を超えるのは、ペットにとっても、近所にとっても問題ありになるだろう。

 メッセージのなかで、最近、あっそうなんだ、と驚いたのが、「猫は外に出してはいけない」というもの。

にゃんぱく宣言 (支援キャンペーン)

 猫を飼っている身として気になるメッセージだ。

猫は外に出さないほうが長生きする

 調べてみると、家のなかだけで飼った猫は、ときどき外に出す猫よりも長生きするというデータがあった。

平成30年(2018年)全国犬猫飼育実態調査 結果

 この調査によると、猫の場合、「家の外に出ない」猫の平均寿命は15.97歳、「家の外に出る」猫の平均寿命は13.63歳と寿命に大きな差があった、とされている。

 その理由についての説明はなく、データの取り方に関する詳しい説明もないので、詳細はわからない。が、外に出せば、交通事故にあう可能性があるだけでなく、他の猫に噛みつかれて病気に感染することもある。その結果、長生きしにくい、ということだろう。それに加えて、外に出した猫は帰ってこないことがある。帰ってこなければ、ペットにとっても飼い主にとっても悲しい。

 犬のように首輪とリードを付けにくい猫は、放し飼い状態になりやすい。以前の日本では、猫は気ままに家の中と外を行き来するのが当たり前だった。しかし、今は、不幸な出来事を減らして長生きさせるため、そしてむやみな繁殖を抑えるために、外に出さないほうがよい、ということになっている。

 実際、私も以前飼っていたアビシニアンを出入り自由にしたら、ある日帰ってこなくなった。事故にあったのか、他の猫に追いかけられて帰り道が分からなくなったのか、はたまた誰かに連れて行かれたのか……とにかく、外に出したために、ペットを失った経験が私にもある。

広まっている「ペットは家で飼うもの」

 「猫は外に出してはいけない」といわれるようになった背景には、「外に出ないでも済む猫」が増えたこともあるだろう。ペットショップで購入された猫、知り合いから生まれたばかりでもらわれてきた猫の多くは、外の世界を知らず、家の中で暮らし続けてもストレスを感じないのだろう。

 世の中も「ペットは家の中で飼う」のが当たり前と思うようになっている。

 一戸建てに住むある人が大型犬を庭で飼っていたら、ご近所から動物虐待だといわれたという。家の中に入れてあげないのはかわいそうとみえたのだろう。

 もちろん、大雨の日や寒い日、暑い日は室内に入れる。が、それ以外は、外のほうがよいだろうと、新築時に建築士と相談し、犬を飼いやすい床や日陰づくりを考えて外に出した。

 それでも「動物虐待」といわれてしまうので、泣く泣く大型犬を親類の家に移した。別荘地のような場所に住む親類で、広い庭でのびのび暮らせば「かわいそう」にはみえないだろう、と。

 大型犬でもそうなのだから、小さな猫を家に外に出すなど言語道断となりそうだ。

家で飼うための工夫を凝らした賃貸住宅も

 現在、「ペットを室内で飼える」家は確実に増えている。

 一戸建てはもちろん、マンションやアパートといった集合住宅でも「ペット可」となっているケースが増加。建物入り口に「ペットの足洗い場」と「ペット用トイレ」があり、散歩中に回収した汚物を流せるようにしているマンションもある。さらには、犬の運動場として「ドッグラン」を設ける都心マンションもある。

 分譲マンションだけでなく、賃貸マンション、アパートにも「ペット可」物件が増え、なかには、家で猫を飼いやすくする特別な工夫を凝らした集合住宅も生まれている。

 そのひとつとして、東京都北区に昨年完成したのが「ブランシエスタ王子」。「マンションのことなら」のCMで知られる長谷工コーポレーションがつくった賃貸マンションだ。

 全120戸には、「土間のある家」や「キッチンスタジオのある家」「サイクリストが暮らす家」など、これまでにない提案を盛り込んだコンセプトルームが12タイプ用意されており、そのなかに、「猫と暮らす家」と名付けられた住戸がある。

 「猫と暮らす家」には特殊な工夫が2つ盛り込まれていた。

 まず、玄関前とバルコニーに出る窓の前に、それぞれ格子状の室内ドアを設置。いずれも、猫が飛び出さないようにする工夫だ。室内ドアを閉めてから玄関ドアや窓を開けることができるので、飼い主は安心である。これ、地味な工夫だが、飛び出し防止のため、大いに役立つはずだ。

 2つ目の工夫は室内に猫の遊び場があること。まず、住戸室内の壁に階段状の木製棚を付けている。目で追って行くと、部屋中央には天井から下げられた幅15〜20センチほどの通路があり、猫がこの通路まで少し苦労しながら到達できるようになっている。

 一部がトンネルになっているこの通路は、キャットウォーク。キャットウォークには「足場」の意味もあるが、ここでは文字通り猫のための通り道だ。

ブランシエスタ王子につくられた「猫と暮らす家」。猫にとって楽しそうな室内になっている。このほか、爪で傷つきにくい内装にするといった工夫も凝らされている。筆者撮影
ブランシエスタ王子につくられた「猫と暮らす家」。猫にとって楽しそうな室内になっている。このほか、爪で傷つきにくい内装にするといった工夫も凝らされている。筆者撮影

 猫を外に出さないためには、家の中を猫にとって楽しい空間にすることも推奨されている。その推奨通りの住まいになっているわけだ。

 なお、「猫と暮らす家」は入居済みで、現在、借りることはできない。このような住宅がもっと増えてゆけば、「猫は外に出してはいけない」という教えも守りやすいだろう。しかし、その数はまだまだ少ない。

ちなみに、我が家の猫は……

 アビシニアンを失った我が家では、しばらく猫を飼うことがなかった。が、結局は、猫のいる生活に戻ってしまった。今、我が家には4匹の猫がいる。一戸建てなので、数の制限はない。

 そのうち3匹は家の縁の下で生まれた兄弟。もう1匹、台風が近づく夜に私が拾ってきたランという名の猫がいるのだが、なかなか「外に出してはいけない」の教えを守ることができず、忸怩たる思いでいる。

 そのいきさつは、ブログに書かせていただいた。

愛猫ランは、目下のところ「庭だけ外出OK」

 猫好きな方に。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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