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新丸子の立ち食いそば「山七」が年内で閉店へ、年内は31日まで営業

坂崎仁紀大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト
東急東横線新丸子駅前すぐにある「山七」(筆者撮影)

新丸子駅前「山七」は昭和53年創業

 東急東横線新丸子駅前すぐにある「山七」は昭和53(1978)年の創業の地元で人気の立ち食いそば店である。突然だが、2023年12月末で閉店するという悲しいニュースが入ってきた。

悲しい閉店のお知らせ(筆者撮影)
悲しい閉店のお知らせ(筆者撮影)

 2023年12月13日、午前10時過ぎに新丸子駅に降り立った。改札を出てすぐ右の正面に「山七」はある。ところが、午前9時半から午前11時頃まで中休み休憩だそうで、暖簾が下りていた。店内に人影があったので声をかけると女将さんが出てきてくれた。

コロナ禍を乗り越えたが…

 閉店のうわさを訊ねると、体調が芳しくなくまた体力がもたないとのことで、「コロナ禍を乗り越えてきたけどもう潮時かな」と寂しそうにお話をされた。閉店は本当だった。

 「山七」は山七製麺所の直営店として創業した。数年前に製麺はやめて現在は麺を仕入れて提供している。店は女将さんとその妹さん二人で切り盛りしている。

 コロナ前までは、朝や昼はサラリーマンと近所の商店主たち、午後は近くの学生さんたちでにぎわっていたそうだ。コロナ禍になり客足は激減。近隣の企業は在宅勤務となり、学生さんたちもほとんど来なくなっていたという。

 2023年夏頃から徐々に回復傾向にはあったというが、それでも以前の売り上げにはほど遠いという。

9時半~11時頃までは中休み休憩あり(筆者撮影)
9時半~11時頃までは中休み休憩あり(筆者撮影)

天ぷらは自家製でつゆも絶品

 「山七」の天ぷらは自家製で随時揚げている。「かき揚げ」「春菊天」「ソーセージ天」「ちくわ天」などが揃っていてどれもそばにのせて390円と安い。つゆはもちろん自家製で、かつお節や鯖節などを使った奥深いきりっとした味で、ひとくち飲めば出汁のうまみがくち一杯に広がる。アツいつゆもうまいし、年中食べられる冷しのつゆも絶品だ。冷しのつゆはきりっと濃くさっぱりといただける。

 「春菊天そば」は冬の時期は人気のメニューである。春菊天はかき揚げ状に揚げられていて、すぐにつゆでほぐれていく。

冬から春は「春菊天そば」が人気である(筆者撮影)
冬から春は「春菊天そば」が人気である(筆者撮影)

「冷したぬきそば」もうまい(筆者撮影)
「冷したぬきそば」もうまい(筆者撮影)

「冷しソーセージ天そば」も一年中食べることができる(筆者撮影)
「冷しソーセージ天そば」も一年中食べることができる(筆者撮影)

「山七」ではミニカレーセットやカレーセットが人気だ

 そして「山七」で忘れられないのが「カレーライス」(500円)である。「ミニカレーライス」(250円)、「ミニカレーセット」(550円)はお得である。豚肉やニンジンなどが入って福神漬けが添えられている。スパイスがしっかり香りそばつゆとの相性もよい。閉店までにもう一度食べたいメニューである。

「ミニカレーセット」(550円)はお得(筆者撮影)
「ミニカレーセット」(550円)はお得(筆者撮影)

最後まで頑張るので是非お越しください

 女将さんは「多くの常連さんがいたのでとても寂しいです。閉店までにまだ時間があります。是非食べにお越しください」とのことである。私も年内にもう一度訪問しようと思う。またひとつ立ち食いそば屋の名店が消えていくと思うと寂しい限りだ。この味をしっかり味わって記憶にとどめていこうと思う。なお、年内は31日まで営業するという。ラストラン頑張ってください。

駅からすぐみえる「山七」(筆者撮影)
駅からすぐみえる「山七」(筆者撮影)

山七
住所 神奈川県川崎市中原区新丸子町738
営業時間 月6:30~20:00 火木金6:30~19:00 水土6:30~17:00
いずれも9:30~11:00頃まで中休みあり、28日から31日は中休みなし、年内は31日まで営業
定休日  日(祝は不定休)

大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト

1959年生。東京理科大学薬学部卒。中学の頃から立ち食いそばに目覚める。広告代理店時代や独立後も各地の大衆そばを実食。その誕生の歴史に興味を持ち調べるようになる。すると蕎麦製法の伝来や産業としての麺文化の発達、明治以降の対国家戦略の中で翻弄される蕎麦粉や小麦粉の動向など、大衆に寄り添う麺文化を知ることになる。現在は立ち食いそばを含む広義の大衆そばの記憶や文化を追う。また派生した麺文化についても鋭意研究中。著作「ちょっとそばでも」(廣済堂出版、2013)、「うまい!大衆そばの本」(スタンダーズ出版、2018)。「文春オンライン」連載中。心に残る大衆そばの味を記していきたい。

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