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現存する立ち食いそばうどん屋で古い店は?

坂崎仁紀大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト
「ひさご」の天ぷらうどんは自家製麺(筆者撮影)

 日本にはざっと1500軒程度の立ち食いそば屋(椅子があっても立ち食いそば価格の店を含む)があると推定している。もう少し多いという説もあるようだが、だいたいこの程度だと考えている。日本のそば屋数が1.9万軒程度というから、10%が立ち食いそば屋ということになる。

立ち食いそば屋の歴史を調査

 立ち食いそば屋にはどのくらい歴史があるのか興味があり、系統別に調べてみたのでその一部を紹介する。なお創業年などの詳細は店主に聞いてもはっきりしないことがあり、大雑把な数字だとご認識ください。現存する店のみ掲載しています。

立ち食いそばうどん屋個人店(小規模経営店)

昭和35(1960)年、台東区浅草橋の「ひさご」が創業(昭和36年説もあり)。

昭和44(1969)年、大阪新世界の「三吉うどん」が創業。

昭和46(1971)年、千葉県鴨川市にある「両国」が創業。

昭和48(1973)年、渋谷区笹塚の「柳屋」が創業。

昭和48(1973)年、神戸新開地にある「たつの」が創業。

昭和49(1974)年、大宮駅東口のすずらん通り商店街にある「つくば本店」が創業。

浅草橋にある「ひさご」は昭和35年創業(筆者撮影)
浅草橋にある「ひさご」は昭和35年創業(筆者撮影)

立ち食いそばうどんチェーン店

昭和37(1962)年、有楽町のマリオン(かつての日劇)のあたりで「都そば」が創業。

昭和40(1965)年頃、「梅もと」が立ち食いそば屋を創業。

昭和44(1969)年、仙台市で「そばの神田東一屋」が創業。

昭和46(1971)年、神田末広町に「六文そば」の前駆店「スエヒロ」が創業。

昭和46(1971)年、「そば処かめや」が新宿思い出横丁に創業。

昭和47(1972)年、「吉そば」が創業。現在東京都内に11店舗が営業。

昭和47(1972)年、「名代富士そば」が創業。ダイタンホールディングス株式会社が経営する大手立ち食いそばチェーン店。

昭和47(1972)年、東京にローカルチェーン展開する「信濃路」が創業。

昭和48(1973)年、淀川区塚本に「松屋」が創業。

昭和49(1974)年、東京都中央区京橋に「小諸そば」が創業。

「都そば」帝劇ビル地下2階(筆者撮影)
「都そば」帝劇ビル地下2階(筆者撮影)

「都そば」帝劇ビル地下2階の「春菊天そば」(筆者撮影)
「都そば」帝劇ビル地下2階の「春菊天そば」(筆者撮影)

立ち食い鉄道交通系駅そば店

大正4(1915)年、高岡駅の「今庄そば」が創業。

大正7(1918)年、横浜市東神奈川駅の「日栄軒」が創業。

昭和6(1931)年、長万部駅で「そばの合田」が「特製もりそば」を発売。

戦前、新得駅の「せきぐち」が創業。

昭和24(1949)年、兵庫県姫路駅で「まねき食品」が創業。

昭和27(1952)年、富山駅の「立山そば」が創業。

昭和29(1954)年、鳥取駅で「砂丘そば」が創業。

昭和30(1955)年、「中央軒」(1892年創業)が鳥栖駅構内で麺類販売を開始。

昭和30(1955)年頃、長野駅「信州そばナカジマ会館」が創業。

昭和30年代、福岡県北九州市小倉駅にある「かしわうどん」が創業。

昭和31(1956)年、小淵沢などにある「丸政そば」が麺類の販売を開始。

昭和36(1961)年、札幌駅の「弁菜亭」が駅そばの販売を開始。

昭和39(1964)年、品川駅の「常盤軒」が創業。

昭和40(1965)年、「名代箱根そば」が新宿駅で創業。

昭和41(1966)年、「南海そば」がなんば駅2階で創業。

昭和41(1966)年、静岡駅の「富士見そば」が麺類販売を開始。

昭和41(1966)年、尼崎駅にある「阪神そば」が創業。

昭和44(1969)年、桜木町駅の「川村屋」がそばの販売を開始。

昭和44(1969)年、「しぶそば」の前身「二葉」が創業。

桜木町駅の「川村屋」は昭和44(1969)年そばの販売を開始(筆者撮影)
桜木町駅の「川村屋」は昭和44(1969)年そばの販売を開始(筆者撮影)

立ち食い製粉製麺所そば店

昭和42(1967)年、世田谷区池尻で宝録堂食品工業が「ホーチャン」を創業。

昭和44(1969)年、大阪市梅田駅近くの「潮屋」が製麺所と同時に創業。

昭和48(1973)年頃、新潟県上越市東雲町にある「塚田そば店」が創業。

世田谷区池尻の「ホーチャン」は昭和42(1967)年の創業(筆者撮影)
世田谷区池尻の「ホーチャン」は昭和42(1967)年の創業(筆者撮影)

大部分の店が昭和30-40年代に創業

 個人店(小規模経営店)で古いのは浅草橋の「ひさご」、チェーン店では「都そば」、立ち食い鉄道交通系駅そば店では高岡駅の「今庄そば」や東神奈川駅「日栄軒」、製粉所製麺所そば店では池尻大橋の「ホーチャン」などであった。まだ見逃している店もたくさんあると思う。

 駅そばでは大正時代や昭和初期に誕生している古参店もあるが、その他大部分の店が昭和30-40年代に創業している。ちょうど東京オリンピックが開催されたころである。屋台が消滅した時期と重なっている。高度経済成長期に海外の小麦粉やそば粉が大量に流入し、製粉所、製麺所などが各地に誕生したため、供給できる体制が整った時期といえる。

昭和39年の東京オリンピックの頃に立ち食いそば屋がたくさん誕生した
昭和39年の東京オリンピックの頃に立ち食いそば屋がたくさん誕生した写真:アフロ

そば屋の誕生の歴史を全体でみると…

 そば屋の誕生の歴史を全体でみると、古い順番に「ご当地系」、「老舗系」、「街そば系」、「のれん会系」、「大衆そば系」が江戸時代から明治大正時代や昭和初期。現存する「立ち食い系」が戦後の高度成長期。今人気の「手打ちそば系」が昭和後半から平成という具合に並んでいる。とても面白い発展の歩みといえる。

 なお、この調査では椅子があっても立ち食いそば価格の店は「立ち食いそば店」として調査している。また、車社会の発達で誕生したドライブインなどのそばうどんを扱う店は閉店している所も多く現在も調査中である。

大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト

1959年生。東京理科大学薬学部卒。中学の頃から立ち食いそばに目覚める。広告代理店時代や独立後も各地の大衆そばを実食。その誕生の歴史に興味を持ち調べるようになる。すると蕎麦製法の伝来や産業としての麺文化の発達、明治以降の対国家戦略の中で翻弄される蕎麦粉や小麦粉の動向など、大衆に寄り添う麺文化を知ることになる。現在は立ち食いそばを含む広義の大衆そばの記憶や文化を追う。また派生した麺文化についても鋭意研究中。著作「ちょっとそばでも」(廣済堂出版、2013)、「うまい!大衆そばの本」(スタンダーズ出版、2018)。「文春オンライン」連載中。心に残る大衆そばの味を記していきたい。

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