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赤ちゃんの便、どこからが下痢なの?受診の目安など小児科医が解説

坂本昌彦佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医
(写真:アフロ)

外来で保護者からお子さんの便について相談されることがあります。

よくあるのが「ここしばらくずっと柔らかくて・・先生、どこから下痢なのでしょうか?」というものです。

特に赤ちゃんの便は緩いことが多く、下痢なの?と心配になる気持ちもよくわかります。そこで今回はお子さんの便、特に下痢(ゆるい便)に焦点を当ててお話ししたいと思います。

赤ちゃんの便の回数や正常には個人差がある

 赤ちゃんの便の回数は様々です。2-3日ごとに排便する子もいれば、1日10回以上排便する子もいます。一般的に母乳を飲んでいる赤ちゃんの方が便の回数は多めです。この時期の便はまだ固形物の離乳食が始まっていないため、元々ゆるいことが多く、下痢と誤解されることも少なくありません。生まれてしばらくの赤ちゃんの便が泥状になるのはそれほど不自然なことではないと知っておくとまずは安心かもしれません。

離乳食前後に緩い便が出ることも

生後5か月を過ぎ、離乳食を始めるタイミングで便秘になる子もいますが、逆に便が緩くなることもあります。中にはニンジンなど食べた食材がそのまま出てくることがあり、慌てて離乳食を中止する保護者もいます。ただこれは食事の変化に伴い腸内細菌叢の変化が起きている影響で、下痢ではありません。初期の離乳食は消化しやすいものなので、嘔吐を伴っているのでなければ、慌てて離乳食を中止する必要はありません。

食事中のジュースなどの摂取で下痢が引き起こされることも

下痢の中には2週間以上続くものもあります。その一つは「Toddlerの下痢」というものです。これは生後6か月から5歳までのお子さんで、毎日4回以上の下痢が、4週間以上起こる場合ですが、体重減少もなく健康状態が良好なケースと定義されています[1]。この下痢は自然に改善することも多いため特に治療は不要です。ただ、最近は食事中のジュースやスポーツ飲料の摂取により、糖分が腸内で下痢を誘発する可能性が指摘され、原因の一つではとも言われており、これらの食事習慣の見直しも有効とされています[2]。

とはいえ、続いていると家で見ていてよいのか心配になりますよね。下痢が続いている場合に、どんなタイミングで受診が必要なのでしょうか。

元気でも2週間以上続くようなら受診を

基本的に下痢であっても、機嫌がよく、飲みもよければそれほど心配する必要はありません。もちろん気になることがあれば小児科を受診して相談いただくのがよいでしょう。

観察のポイントは次のような点です。

・元気かどうか

・哺乳意欲があるか

・嘔吐が増えていないか

・体重増加が良好か

機嫌が悪い、母乳やミルクの飲みが悪かったり水分が摂れていないなどあれば、その時点で受診をお勧めします。

ここで、下痢が長引いているのが気になった時にやっておくとよいポイントをお話しします。それはズバリ、体重の変化を毎日プロットしてみることです。下痢に伴って体重が増えなくなることは珍しくないためです。私たちも診察室では必ず体重の変化を確認しています。ただ、体重の変化もなく元気な場合でも、2週間以上続く場合には受診をお勧めしています。その理由は、何か病気が隠れているか調べる必要があるためです。それはどんな病気なのでしょうか。

下痢は胃腸炎以外の原因で起こることもあります

下痢症状が始まると、最初は特に「下痢があるなら胃腸炎では」と思いがちです。確かに胃腸炎では1日に10回以上の下痢が見られることも多いですし、胃腸炎が治った後に長引く下痢もあります(腸炎後症候群と言います)。これは胃腸炎で粘膜がダメージを受けて吸収が悪くなるためといわれています。

いっぽうで、それ以外にも抗菌薬を使用中に腸内細菌叢が乱れて下痢になることもありますし、内分泌の病気や消化器の病気、乳児消化管アレルギー等が原因で下痢になることもあります。ちなみに肺炎や尿路感染症など胃腸炎以外の感染症でも下痢になることがあります[3]。下痢を引き起こすのは胃腸炎だけではないことも知っておくとよいでしょう。

母乳は続け、ミルクも薄めなくてよい

下痢があると、どのようなものを摂らせればよいのか悩みますね。ここでは急性期、特に胃腸炎の場合についてお話しします。

まず、赤ちゃんの場合には、母乳は継続し、ミルクを薄める必要はありません。幼児ではORS(OS-1など)による経口補水療法を行います。ペットボトルのキャップ程度(5-7ml)を10-15分ごとに与えましょう。

ちなみに以前は「お腹を休めるために丸1日食事はあげないように」と指示されることもありましたが、最近は、絶食をしなくても治癒までの期間に変化はなく、むしろ絶食で体重の回復が遅れるため、水分が摂れるようになれば速やかに普段摂っている食事を再開してもよいとされています[3]。もっとも最初は糖分が多いものや炭酸は控えた方がよいとされています。

下痢止めは子どもに使ってはいけない

下痢の症状があると、それを止める薬を使いたくなる気持ちは分かります。ただ、小児に関しては、その有効性について医学的根拠は乏しく、また腸閉塞の副作用が報告されているため、2歳未満の乳幼児は原則使ってはいけません。2歳以上でも基本的に小児で使うことはほぼありません。

整腸剤が下痢を改善させるかはまだ定まっていません

人の常在細菌叢の獲得にもっとも重要なのは乳児期で、3歳までに成人と同様の腸内細菌叢を獲得します。1人当たり数百種類、数10兆個以上もの腸内細菌叢が住み着いています[4]。そのような腸内環境を健康に保つため、最も大事なのは色々な菌がバランスをとって多様性を保つこととされています[5]。多様性がなくなり、特定の菌だけが異常に増えてしまう状態は望ましくありません。そのひとつの例が、抗菌薬を使用して善玉菌を含めたたくさんの菌が死んでしまった状態で、長引く下痢の原因ともなります。

この細菌叢を整える役割を果たしているのが整腸剤です。ヨーロッパ小児栄養消化器肝臓学会(ESPGHAN)は一部の酵母や乳酸菌の中に、抗菌薬投与後の下痢を予防したり、急性胃腸炎の下痢の期間を短縮する効果があるとしています[6]。

そのため、胃腸炎の際に乳酸菌やビフィズス菌の投与は多くのガイドラインで推奨されているのですが[7]、効果があるとされた菌種は日本の整腸剤には含まれていないことに注意が必要で、どれほど効くかは医学的根拠がまだ不十分とされ[3]、結論は出ていません。胃腸炎後の下痢症状の発症や期間について、整腸剤の使用の有無で比較した2018年のランダム化比較試験でも、明らかな差は見られなかったと述べられています[8]。

下痢を防ぐためにできること

下痢にならないためにどうすればよい?と聞かれることもあります。基本的には胃腸炎の予防の話とかぶってしまうのですが、アメリカ小児科学会のまとめをご紹介します[9]。

1)子ども自身、周りの大人も手洗いをこまめに行い、胃腸炎にかかりにくくする。

2)胃腸炎症状のある子との接触を控える

3)母乳育児を行う

4)ジュース等甘い飲み物を制限する

5)ロタウイルスワクチンを接種させる

今回は特に乳幼児のお子さんの下痢について解説しました。

<参考文献>

1.神保圭,【小児外来:どう診るか、どこまで診るか】よくみられる症状 慢性下痢. 小児科臨床, 2019. 72(増刊): p. 1225-1228.

2.近藤宏,【知っておきたい小児の栄養】疾患と栄養指導・食事療法 慢性下痢症(難治性下痢症). 小児科臨床, 2019. 72(4): p. 471-475.

3.日本小児救急医学会診療ガイドライン作成委員会, 小児急性胃腸炎診療ガイドライン. エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン2017, 2017.

4.Sartor RB., Microbial influences in inflammatory bowel diseases. Gastroenterology, 2008. 134(2): p. 577-94.

5.岩澤堅,小児保健・医療「すべきこと」「すべきでないこと」(第8回) 日常診療における整腸剤処方の必要性. チャイルド ヘルス, 2019. 22(2): p. 131-134.

6.Szajewska H, et al., Probiotics for the Prevention of Antibiotic-Associated Diarrhea in Children. J Pediatr Gastroenterol Nutr, 2016. 62(3): p. 495-506.

7.Lo Vecchio A, et al, Comparison of Recommendations in Clinical Practice Guidelines for Acute Gastroenteritis in Children. J Pediatr Gastroenterol Nutr, 2016. 63(2): p. 226-35.

8.Freedman SB, et al, Multicenter Trial of a Combination Probiotic for Children with Gastroenteritis. N Engl J Med, 2018. 379(21): p. 2015-2026.

9.AAP.Diarrhea in Children: What Parents Need to Know. 2021; Available from:https://www.healthychildren.org/English/health-issues/conditions/abdominal/Pages/Diarrhea.aspx.

佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医

小児科専門医。2004年名古屋大学医学部卒業。現在佐久医療センター小児科医長。専門は小児救急と渡航医学。日本小児救急医学会代議員および広報委員。日本国際保健医療学会理事。現在日常診療の傍ら保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクト責任者を務める。同プロジェクトの無料アプリは約40万件ダウンロードされ、18年度キッズデザイン賞、グッドデザイン賞を受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2022大賞受賞。

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