夏も近づいてきました。コロナ禍のため、今年もプールや海で泳いだりといった行事はまだまだ難しいかも知れません。この季節は例年海やプールの事故が増えますが、4歳までのお子さんが一番よく溺れる場所はどこかご存じでしょうか。

それは自宅の浴槽です。平成30年の厚生労働省の人口動態統計によれば、4歳以下の溺水による死亡数は年間18件ありましたが、そのうち14件が自宅浴槽で起きています[1]。

乳幼児の溺水事故を防ぐには、特に浴槽での事故に対する啓発が必要だと分かります。また、死亡事故の背景には多くのヒヤリハットがあります。溺水による死亡の背後には500~600倍の溺れかけ事案があるとの報告もあります[2]ので、子どもがお風呂で溺れかけた経験を集めて評価することも、死亡事故を防ぐために大切だと考えられます。

2019年に日本小児科学会は、東京、北海道、長野、京都、愛媛など全国の保育施設83施設の約8700名の児の保護者を対象に、お風呂で溺れかけた溺水トラブルについて調査を行いました。そのうち回答のあった約5500名の調査結果をまとめた報告書が先日小児科学会のウェブサイトで公開されました[3]。現在、どなたでも閲覧することが可能です。今回はその調査結果をご紹介しながら、浴槽での溺水について改めて考えたいと思います。

1歳~3歳で高リスク。静かに溺れる可能性も。

今回の調査結果では、溺れかけたことがあると答えた児の割合は5500名のうち1160名(21%)おり、1歳が47%と半数近くに上りました。3歳までで全体の88%と9割近くを占めました。

米国の乳幼児の溺水による死亡例をまとめたデータでも、溺水は0~4歳の年齢層でもっとも多く、特に生後12か月~満3歳までが最もリスクが高い(人口10万人当たり3.3人)と報告されており[4]、この年齢層は特に注意が必要と考えられます。

では、溺れるときの様子はどのようなものなのでしょうか。米国の沿岸警備隊や米国陸軍のサイトなどで、水難救助の専門家が「人は溺れるときは声を出さず、水面を叩くわけでもなく静かに沈む」と啓発しています。口は呼吸をするのに精一杯で、助けを求める発話をする余裕はなく、また手を振って助けを求める余裕もない、つまり「溺れるときはバシャバシャすることなく静か」である可能性を考えなくてはないというわけです[5]。それは子どもでも同じであろうと思われます。

日本小児科学会の報告でも、この点について聞き取りをしています。その結果、溺れかけた時に悲鳴や助けを求める声を出していたのか、の質問に対し、86%は出していなかった、と答え、バシャバシャ音を立てなかったという例も33%ありました。実際には全例が何の音もたてずに沈むわけではありませんが、多くは声を出す間もなく、また3割は音を出すこともなく沈んでいるとの結果でした。

今回の報告でわかったことは、「溺れたと保護者が認識しているケースを振り返ってみると、少なからず音も立てずに沈んでいるケースがあった」ということです。このことは溺水予防を考える際、とても大切なポイントになります。

すなわち、「離れた場所で家事をしていても、子どもが溺れたら音で気づくだろう」という対応は溺水を見逃す可能性があるということです。

自宅での溺水事故、保護者の家事マルチタスクや対策不備にリスク

子どもの事故予防という観点から自宅が潜在的に持っているリスク、それは保護者が家事のマルチタスクに追われていることです。やらないといけない家事が複数ある中で、子どもが静かに一人でお風呂で遊んでいてくれると「今のうちにこれだけやってしまおう」と思う保護者の気持ちは十分に理解できます。だからこそ、「静かに溺れる可能性がある」ことを頭の片隅におきたいところです。

今回の日本小児科学会の調査では、入浴中の溺水トラブルの予防に関しても報告されています。

例えば、もともと溺水予防の工夫(「子どもだけで入浴させない」「親が身体を洗うときは湯船から出す」「入浴中の電話に絶対出ない」「残し湯をしない」)をしていた家庭では、溺水トラブルの発生も少ない傾向がありました。また、「特に工夫をしていない」と答えていた家庭では溺水トラブルの頻度が多めでした。これらの結果から、あらかじめ対策を立てることで溺水は実際に減らせる可能性がありそうです。

このことは一見当たり前と片付けられそうですが、「対策を立てている家庭では実際に事故が少ない」ことは、「予防策は実際に効果がある」の裏返しとも言えます。

特に、入浴に際して複数の大人が関わる、残し湯をしない、と答えた家庭で溺水トラブルが起きにくかったこと、また、実際に溺水トラブルが起きた家庭の多くでは、溺水後に「複数の大人が関わる」に加えて「親が髪を洗うときに湯船から出す」などを追加の対策として取り入れていたことも報告されています。

いっぽうで、溺水が起きた後に「残し湯をしない」対策を取り入れたと答えた家庭はあまり多くなく、この対策が有効な手段としてまだあまり認知されていない可能性もあります。

例えば寒冷地などでは、冬場は残し湯をしないと給湯設備が故障するとされているところもあります。

そのような地域では、他の対策として、「子供が一人で浴槽に近づかないためのガードの設置や、浴室のドアにカギをつける」なども今後検討されるとよいかもしれません。

覚えておきたい溺水予防対策

アメリカ小児科学会は子どもの溺水予防策として次のような項目を挙げています。入浴時に限った推奨ではなく、また米国と日本での入浴習慣をはじめとする文化の違いもありますが、ある程度参考になると思います[4]。

1.保護者はお風呂、プール、排水溝、池等の近くでは幼児を一人にしたり他の子どもの世話をしてはいけない。

2.子どもはバスタブの水深がわずか数センチでも溺れる可能性があり、必ず大人と一緒にいる必要がある。

3.家庭内のバケツなどの容器は、使った後必ず空にする。

4.監視されていない状態でお風呂、プール、オープンウォーターにアクセスしないようにする。

5.乳幼児が水中や水の周りにいるときは大人が腕の長さ以内にいる。

6.監視する大人は電話の使用をはじめとする外とのコミュニケーション、雑用、飲酒など注意を損なう可能性のある活動に従事してはいけない。

7.自宅のプールは子どもだけでアクセスできないようにフェンスで囲う。

8.保護者は心肺蘇生法を学び、いざというときに対処できるようにする

他に、泳ぎ方を学ぶ、水上にいるときにはライフジャケットを着ける、等にも触れられています。

浴槽内の浮き輪利用も事故リスク

最後にお伝えしたいのは浴槽内浮き輪に関するお話です。浴槽内で浮き輪を使った経験は全体の22%(1230件)と予想以上に多い結果でした。その86%が首浮き輪で、11%が足入れ付き浮き輪でした。このうち使っていたことが原因で溺れたと回答したのは17例でした。数は決して多くはありませんが、首浮き輪も足入れ付き浮き輪も、ともにお風呂で使っていて溺れ、救急搬送されたケースが小児科学会からも複数報告されています[6, 7]。これらの浮き輪はもともとベビープレスイミングの道具としてプールなどで使うことを念頭に販売されていますので、お風呂での使用は控えていただければと思います。

今回は2019年の日本小児科学会の救急委員会報告を中心に、子どもの自宅のお風呂での溺水についてご紹介しました。

<参考文献>

1.厚生労働省. 平成 30 年人口動態統計.家庭におけ る主な不慮の事故の種類別にみた年齢別死亡数 及び百分率,2018 (https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003214742.)

2.Orlowski JP. Drowning, near-drowning, and ice-water drowning. Jama, 1988, 260(3):390-1.

3.日本小児科学会小児救急委員会. 未就学児の家庭内入浴時の溺水トラブルに関するアンケート調査結果. 日本小児科学会雑誌, 2021, 125(3),534-539.

4.Denny SA, et al. Prevention of Drowning. Pediatrics, 2019. 143(5).

5.Vittone M. Drowning Doesn't Look Like Drowning,US Army website,2013.

(https://www.army.mil/article/109852/drowning_doesnt_look_like_drowning)

6.日本小児科学会. Injury Alert No.8 浴槽用浮き輪による溺水,2008.

(https://www.jpeds.or.jp/modules/injuryalert/index.php?did=4)

7.日本小児科学会. Injury Alert No.32 首浮き輪による溺水,2016. (https://www.jpeds.or.jp/modules/injuryalert/index.php?did=84)