新型コロナウイルスワクチンの高齢者向け接種がいよいよ始まりました。ワクチン接種がなかなか進まず、やきもきしていらっしゃる方も多いかと思います。実は今、それとは別のところでもワクチンの不足が課題となっているのをご存じでしょうか。

 それは日本脳炎ワクチンとおたふくかぜワクチンです。

おたふくかぜワクチン不足のニュース(日本経済新聞)(2021年4月)

日本脳炎ワクチンの出荷停止のニュース(厚生労働省)(2021年1月)

なぜワクチンが不足しているのか

 不足の原因は、いずれも製造会社での製造工程上の問題が判明し、製造及び出荷を停止したためです(日本脳炎は既に製造再開しています)。日本脳炎は定期接種のワクチンですし、おたふくかぜワクチンも任意接種とはいえ非常に重要なワクチンで、日本小児科学会も定期接種化を要望しています(1)。

 ちなみに、このようにワクチン製造が止まってしまうケースは決して稀なことではありません。2019年の4月にはB型肝炎ワクチンが製造工程の不備で一時供給を見合わせたり、2020年1月にはヒブワクチンが、注射針の不具合で出荷停止となりました(いずれも今は問題なく供給されています)。

 製造工程で問題がある、なんて聞くと不安になるかもしれませんが、ワクチンの製造管理は非常に厳密に規定されており、少しでも懸念点が出ると製造・出荷が止まります。

 今回の措置は、むしろそうしたチェック機能がしっかり働いている裏返しですし、いずれのワクチンも製造工程で問題のあった製品は出荷されていないので、ご安心していただいて大丈夫です。

 ただ、問題はやはりワクチンの流通が止まってしまうことです。

 1月に製造停止となった日本脳炎ワクチンは、現在製造は再開されているものの、今年度の流通は不安定な見通しです(来年度には今年の分も挽回すべく増産される予定です)。  

 4月に出荷が止まったおたふくかぜワクチンは、4月中に製造元の製薬会社の在庫がなくなる見込みで、製造が再開されても出荷再開は今年の10月末の見込みとされています。

保護者はワクチン不足にどのように対応すれば良いか

 では、どうすればよいのでしょうか。

 まず、このをご覧ください。日本脳炎ワクチン及びおたふくかぜワクチンの接種について、年齢ごとにどう考えればよいか、小児科医の新谷紀享先生がまとめられたものです。一目で分かるのでとても分かりやすいです。

 ひとまず自分のお子さんの接種をどうすればよいか分かればよいという方は、この図だけで十分かもしれません。

日本脳炎とおたふくかぜワクチンへの年齢別対応方法(新谷紀享先生より許可を得て引用)
日本脳炎とおたふくかぜワクチンへの年齢別対応方法(新谷紀享先生より許可を得て引用)

 いっぽう、この接種スケジュールで大丈夫なのか不安という方もいらっしゃると思います。そこで今回は、日本脳炎/おたふくかぜそれぞれのワクチンについて、詳しく解説したいと思います。

乳幼児で特にリスクの高い日本脳炎、どんな病気?

 そもそも日本脳炎とはどんな病気かご存じでしょうか。この病気は日本では西日本を中心に毎年10人前後発生しています。日本という名前が付いていますが、アジア全体に広く分布する病気で、世界的には年間3万~4万人の患者報告があります。それくらいの人数しか発生しないなら、日本では予防接種しなくていいんじゃない?と思われるかも知れません。もっともな疑問です。ただ、これは日本脳炎ワクチンが定期接種であり、多くの子どもたちが守られているためでもあります。

 日本脳炎は、日本脳炎ウイルスを持つ蚊に刺されることで人に感染します。人から人への感染はなく、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザのように感染が爆発的に広がるということはありませんが、発症すると高熱、嘔吐、けいれんや意識障害を伴う急性脳炎を起こします。致命率は20~40%と非常に高く、特に乳幼児や高齢者の死亡リスクが高いです(2)。小児では特に気をつけなくてはいけない感染症なのは確かですが、残念ながら特効薬はありません。予防するにはワクチン接種が必要です。

 日本脳炎ワクチンは、何回か接種が必要なワクチンで、標準的には3歳になったら6~28日空けて2回接種し、1年後の4歳に3回目を接種します。その後9~10歳の時に追加接種(4回目)を行います。追加接種が必要な理由は、3回接種していても時間がたつと抗体価が少しずつ下がって効果が低くなる恐れがあるためです。

日本脳炎ワクチン、最初の2回をしっかりと

 さて今、ワクチンが不足しています。上記の対応で大丈夫でしょうか。

 日本脳炎ワクチンを3回接種した場合、5~9歳では90%以上抗体価が陽性となるというデータがあります。一方1~2回接種者では60~80%ほどになります(3)。

 裏を返すと1~2回でも抗体価はある程度上がっていると言えます。したがって、まずは最初の2回をしっかり接種することがもっとも大事です。厚労省が最初の2回を優先するようにとしている理由はここにあります。来年以降は流通も回復する見通しですので、最初の2回を接種済みの場合、3回目、4回目をすぐに接種できていなくても焦らなくても大丈夫です。2022年度に接種可能です。

蚊が媒介、ワクチン不足の中で重要な「刺されない」対策

 ちなみに保護者としては、ワクチンがない中でもできる対策は取っておきたいですよね。日本脳炎については「蚊に刺されない」対策も予防として有効ですのでご説明します。

 日本脳炎ウイルスを媒介するコガタアカイエカは水田や沼地に生息し、暖かい季節の日没以降から活動が活発になります。したがって、日没以降に外出する際に皮膚の露出が少ない服装や、虫よけ剤を使うことがお勧めです。

 具体的な虫よけ剤としては「イカリジン」や「ディート」がお勧めです。特にイカリジンは子どもの場合も塗る回数に制限がないため使いやすく、15%濃度のものを使えば6~8時間は効果が続きます。アロマ等の植物由来の虫よけは人気ですが、効果が数十分しか続かないなど不安定ですので、あまりお勧めしていません。

知っていますか?おたふくかぜによる難聴は回復が難しい

 次におたふくかぜはどうでしょうか。おたふくかぜはムンプスウイルスというウイルスによる感染症です。唾液や痰などの飛まつや接触で感染し、感染力は強く、しばしば流行します。突然両側もしくは片側の耳下腺や顎下腺の炎症による腫れと痛み、発熱などの症状が出ます。おたふくかぜで厄介なのは、おたふくかぜの症状そのものというより、その合併症です。100人に1人の割合で髄膜炎(発熱、頭痛、嘔吐など)を起こしたり(4)、1000人に1人の割合で難聴を起こします(5)。思春期以降に初めて感染すると精巣炎や卵巣炎などの合併症が起こりやすくなります。

 特におたふくかぜにかかった後の難聴は回復が難しいとされます。2017年の日本耳鼻科学会の全国調査(6)では、2015-16年の2年間で少なくとも359名がムンプス難聴を発症し、経過を追えた335名のうち片側の難聴が320名(96%)でしたが、その9割以上が高度難聴であったこと、また多くが途中で悪化し、改善したケースは稀だったことが報告されました。

 かかって免疫をつければよい、と悠長に構えてよい感染症ではなく、合併症を防ぐためには予防接種が必要なのです。先ほどもお伝えしたように、任意接種ですが、小児科学会は接種を強く勧めています。

 おたふくかぜワクチンは通常1歳以上で接種できます。予防効果(抗体陽性率)は約90%と高いですが、予防効果を確実にするために世界的には2回接種が推奨されており、日本小児科学会でも1歳と小学校入学前1年間の2回接種を推奨しています。

おたふくかぜワクチンも優先は初回接種

 では、おたふくかぜワクチンも日本脳炎ワクチン同様に不足している現状では、どう考えればよいでしょうか。

 こちらも、優先すべきは1歳過ぎの初回接種です。が、そもそも現時点で流通が再開されていません。初回接種ができないと焦る保護者の方もいらっしゃるかも知れませんね。 

 ただ、ムンプスの合併症で一番厄介な難聴の発症ピークは就学前、学童期、30代の子育て世代とされています(4)。流通は遠からず回復しますので、1歳のお子さんのいらっしゃる保護者の方は、焦らずワクチンの流通をお待ちいただければと思います。

 なお、日本脳炎ワクチン、おたふくかぜワクチンともに言えることですが、かかりつけ医にワクチンがなかった場合、まずは他のクリニックにもご確認いただくのもひとつの方法です。流通に差があるのはよくあることです。もちろん用意できなかったクリニックが必ずしも準備不足ということではなく、その点もご理解いただければと思います。

 今回はおたふくかぜと日本脳炎のワクチン供給が不安定なニュースをもとに、改めてこれらのワクチンを振り返るとともに、供給不足でどのような心構えで臨めばよいのか、解説しました。

 引き続き流通再開の動向などをチェックしていただき、供給安定したら必ず接種いただければと思います。

<参考文献>

(1)日本小児科学会:要望書「おたふくかぜワクチンの早期定期接種化について」

(2)国立感染症研究所:日本脳炎 疾患情報.

(3)国立感染症研究所:日本脳炎ワクチン接種歴別の年齢/年齢群別日本脳炎抗体保有状況、2017年.

(4)庵原俊昭:臨床と微生物32(5):481,2005

(5)橋本裕美:小児科臨床64(6):1057,2011

(6)守本倫子ほか:日本耳鼻咽喉科学会会報121(9):1173,2018