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風力発電事業の調達コスト削減は進んでいるのか

坂口孝則コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家
風力発電の様子(ペイレスイメージズ/アフロ)

日本の代替エネルギーがどうなっていくのか議論が続いている。最大の問題は、代替エネルギーのコストだ。いまのところ既存電力に完全に代わる手段はない。しかし、その改善努力はつねに続けられている。また、再生可能エネルギーへの関心は高まっており、クリーンエネルギー拡大のメリットは大きい。そこで今回、日本で風力発電事業を営む最大企業ユーラスエナジーホールディングスの購買部門の方々に、普及のためのコスト削減の取組等を聞いた。

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風力発電事業の購買状況

坂口孝則(以下「坂口」):通常ならあまり表に出てこない購買部の方にインタビューしてみたいと思いました。再生可能エネルギーで、風力発電や太陽光発電を展開していらっしゃる企業内で、コストとかサプライチェーンの観点から、どのような施策をなさっているのか教えていただければと。

川名淳(購買部長、以下「川名」):現在、当社グループの国内の風力発電所は30サイト(事業所は13)太陽光発電所は9サイト(事業所は1)あります。そのなかで、主要設備については購買部が携わって、本社で一括して購買をしています。

坂口:たとえば自動車会社であれば購買部がすべての調達品の窓口になっています。ただ、他の業界では、現場の技術者が取引先に発注して、コストを管理できない場合が珍しくありません。購買部がしっかりとあいだに入って、統制するということですね。

川名:主要設備と物品、役務関連が対象です。しかし、すべてではなく、現場も発注権限を持っています。現在、購買部の所管は金額でいうと全体の60パーセントほどで、もうちょっと整理しなければなりません。全社の購買規程も策定したばかりで、購買部が調達する製品を明確化していこうと思っています。もともと専門で購買する部門はなく、購買部ができてまだ5年にすぎません。以前は事業所などで必要に応じそれぞれに購買していた状況でした。いまでは2万点を調達しています。

坂口:自動車とか電機メーカーとはちがった調達・購買の難しさがあるのでしょうか。

川名:風力発電機は一般的に20年が寿命なのですが、20年で一度も故障しない部品もあるのです。現場の人間も入れ替わっているので、全部品の把握は非常に困難です。さらに、地域の風の状況によって故障部品も変わってくるので、予想もしづらいのです。本来なら調達数量がわかっているのが理想ですが、ビッグデータなどを活用して予想精度をなんとか改善しようという状態です。

坂口:風力発電の機器って、壊れたら、部品表とかがあってすぐに補給できるのですか?

前川祐太(主事、以下「前川」):それが契約の問題で、部品表を公開してくれていない場合が多々あります。だから壊れたときにどの部品を交換したらいいかわかりません。そこで写真を撮ってメーカーに送って見当をつけてもらったり、あるいは、倉庫にあるものでとりあえず修理してみたりという状況です。

坂口:倉庫にある場合はいいでしょうけれど、写真だけで部品を探すのは大変そう。

前川:事業所から当部へ写真だけ送られてきて「調達先は無いか」とか「なんとかして早めに手に入れられないか」とか。きわめてアナログなやり方です。

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新たな取組

川名:これからは、やはり、購買部が積極的な役割を果たさなければならないと思います。たとえば、以前ならばアフターメンテナンス用の交換部品を国内から調達していましたが、それを、どんどん海外の取引先との直接取引に切り替えていきたいと思っています。

坂口:そうすると、国内で買うよりも安価だし、国内商流のマージンをなくすことができるということですね。

川名:それと、いまだに事業所ごとに汎用品などをバラバラで買っているので、それを購買部で一括調達したり交渉したりしたいと思います。

前川:きわめて真面目にやっています。難しいのですが、各事業所から将来の数量予測を聞いて、それをまとめ、一括交渉をします。徐々に各事業所もそのような取り組みにたいして理解してくれています。それによって、やはり、やらない場合とくらべると数パーセントはコストダウンに繋がります。もちろん取引先にも不利にならないように、数量の保証もしていますので、計画が崩れた場合は最悪買い取っています。もちろん、調整の交渉はしますが。

坂口:ちなみに、率直に申し上げれば、インフラ系の企業で働く調達・購買部員の方々って、「自分の調達品についてほとんど理解していない」というのが印象です。調達する対象が何かわかっていない状態で、たんに伝票を流すだけ。伝票処理屋さんに成り下がっている。

島田幸輔(課長代理、以下「島田」):さらに、取引先の営業担当者にしても対象理解が難しいのです。かなり慣れが必要なのです。なぜならば、メンテの際に見積書を依頼しても、何を見積していいのかわからない、といわれる場合があります。

坂口:自分たちの製品なのに?

島田:たとえば、写真を見せて「これを見積もってください」とお願いしますが、付属品が多く存在します。私たちは、そもそも細部の情報をもらえていないので、そうやって見積依頼するしかありません。でも、どこまでを交換すべきか営業の担当者がわからないっていうのです。だから、お互いの技術部門に相談しながら確認を重ねていくしかありません。

坂口:さらに見積書を入手して、買ってみても、「あれれ、これだけでは足りないぞ」という状態になるわけですか。

島田:よくあります。だから購買の担当者が自主的にリストを作って対応するしかありません。

前川:補足すると、海外メーカーの場合、日本の営業窓口がすべてを把握されていないケースがあるのです。現場から写真があれば良いほうで、それすらない場合もあります。

坂口:そういう状態のなかでなんとか調達しなければならないわけですね。

島田:そうなのです。現物がわかっていない購買部を通さないほうが話は早い、となりかねません。だから、購買部を通すメリットを伝えています。購買部を通したほうが、やはり価格は安くなりますし、納期も管理できます。情報収集もできますし、さらに、全社大でのノウハウの蓄積もできます。それが世の中にあまねく再生エネルギーを広める理念にも合致しているはずです。

坂口:世の中の流れとしては、購買部を通すことで透明性も高まりますし、業務プロセスとしても不正支出防止につながります。

前川:それにやはりコストダウンにも繋がります。現在、新規の海外取引先を私たちが開拓して現場に紹介するということをやっていますが、それにより既存の取引先よりも、2、3割以上安価な部品を調達することができます。なかには、半分とか、十分の一になるケースもあります。だから愚直に新規取引先を探しています。

坂口:なんとなく、調達っていうと、売り込みを待っているイメージがありますが。

前川:いや、海外取引先のinfoアドレスに連絡したり英語版の自社紹介を送ったりだとか、いろんなことやっています。風力発電は、グローバルで見れば日本マーケットの比率はまだまだこれからですから、開拓のためには、積極的に活動しないといけません。

川名:世界的な展示会もありますから、そういうところでメーカーや商社などと商談を進めていっています。2年前は海外の取引先は0社でしたが、現在では10社以上に増えています。同時にコスト削減もかなり進んでいます。

島田:ヨーロッパ各社からしても、アジアマーケットは誕生したばかりなので、拡大したいとは思っているようですね。実際の提案や採用にはいたらなくても、反応はよくなっていますね。

川名:現場で英語ができなくても、購買部が仲介しますから、語学の問題もありません。

さらにコスト削減を目指して

坂口:風力発電の分野はきっと拡大していくと思います。黎明期だから、まだ合理化できる箇所は残っているということなんでしょうね。

前川:たとえば、クレーン作業の発注に関して言うと、これまでは事業所ごとにバラバラに発注していたので、どうしても風が弱い5月あたりに作業が集中し、全社的にみても非効率となります。それを全社で一括管理をして各事業所の工事の日程を調整し、数珠つなぎにスケジュールが組めれば効率的となります。また、長期間重機をチャーターすればコストも安く済みます。なので現在では、各事業所の日程を全社で調整しています。

川名:色々な情報収集も必要になりますので、各事業所や取引先にも、できるだけこちらから出向くようにしています。やはり日本は、世界とくらべると風力発電のコストが安いとはいえません。ビッグサプライヤは日本にありませんし、産業集積もありませんから、内外価格差を感じています。我々はその価格差を縮めるように努力しています。

前川:韓国と日本をくらべても、ヨーロッパから輸入したらそんなにコストは変わらないはずですが、実際は韓国のほうが安く買えるケースがけっこうあります。韓国は競争が激しいので取引先もギリギリの価格を提示しているのかもしれません。日本はまだ削減の余地があると思います。

坂口:はじまったばかりの活動だから、これ以降もなすべき施策はいろいろある、と。

川名:社内の他部門から「役立つ購買部」「仕事を任せたい購買部」と思われたいですね。相談したいと思ってもらえるような組織を目指しています。現在、購買部は5人なのですが、将来的には10名くらいに増やせたら良いかもしれません。まだやるべきことはたくさん残っていますので、いろいろと当社事業の拡大のために努めている状況です。

<インタビューを終えて>

これまた正直にいえば、電力関係の調達・購買部門は、比較的に受け身の仕事が多いと感じていた。しかし、同社の場合は、コスト環境が厳しい背景があるためか、積極的な施策を聞くことができた。インタビューのなかで出てきた、まだまだ世界と比べるとコストが高い、という認識が調達・購買業務に活動の動機を与えているのだと私は思う。通常、再生エネルギーは、技術的な側面や普及率などばかりが喧伝されるが、今回はバックオフィスの戦士たちを紹介した。

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コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家

テレビ・ラジオコメンテーター(レギュラーは日テレ「スッキリ!!」等)。大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務、原価企画に従事。その後、コンサルタントとしてサプライチェーン革新や小売業改革などに携わる。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、サプライチェーン学講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)、『調達力・購買力の基礎を身につける本』(日刊工業新聞社)、『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)、『モチベーションで仕事はできない』(ベスト新書)など著書27作

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