行政書士として独立し試行錯誤、努力と苦悩の果てに見えてきたもの

たった一度の人生であることを再認識し、起業家としての人生を楽しむべきです(ペイレスイメージズ/アフロ)

初出:「会社を辞めたぼくたちは幸せになったのだろうか」の一部を大幅に加筆して掲載

このところ、第二次、第三次の起業ブームが起きています。個人がサラリーパーソンから独立し、士業やコンサルタント、また個人事業主として食っていくとき、どのような困難が待ち受けているのか。私は一人の独立した人間として、他の先人たちに興味を持ちました。彼らはどのように独立して、食えるにいたったのか。それはきっと起業予備軍にも役立つに違いありません。さきほど、「第三次の起業ブーム」と入力しようとしたら、「大惨事」と変換されました。まさに大惨事にならない起業の秘訣とは。ストレス対処コンサルタントの坂上隆之さんにお話を聞きました。

――独立に至った背景について、ぜひお聞かせください。

私は、大手電機メーカーに管理職を含み20年間在籍していました。長男誕生を機に、骨をうずめる覚悟で身を粉にして働いてきたんですが、平成23年6月末で希望退職しました。理由は、外資系企業との事業統合で、早期退職の選択を迫られたからです。私の部下は13名いたんですが、コストダウンの方針のため、派遣もしくは請負への入替が決定し、ほぼ全員が退職せざるを得なかった。自身も管理職一人が残る訳にもいかず、管理職昇進後にストレスで心身がぼろぼろの時期もあったため、割増退職金をいただき、円満退職しました。

退職後の第二の人生は、人に使われて疲弊したり、お客様の顔が見えないことによる自己満足の仕事をしたりすることが嫌で、サラリーマンでの再就職は最初から選択肢にありませんでした。つまり、一国一城の主となり、自身の力で生きていくことを決意したのです。退職時の挨拶で500人以上のお世話になった社員向けに「5年後に違った形でお会いしましょう。」と非常識なメールを送付した記憶があります。

しかし、私の強みは20年間のサラリーマン経験しかありません。何で食いぶちを得るかを、リストラ発表時から退職までの4ヶ月間で熟考しました。この時、何の強みもない人間にも必ず尖った部分があり、それを全面に押し出して起業後のV字回復を図る「ブランディング戦略」をビジネス書等で研究していました。後にブランディング関係の塾に通学することになるんですが、退職時点でストレス対処のコーチ資格取得を視野に入れ、「離婚専門の行政書士」「ストレス対処コンサルタント」、また自身の反省からストレスで潰れないリーダー養成支援を目的とした「企業研修講師」という青写真を描いていました。

なお、行政書士資格取得を目指した理由は、法学部で学んだ知識を活かし、国家資格で社会的信用を得たいと考えたためです。それをコアとした起業家になりたいと考えていました。行政書士の業務分野では、ストレス対処スキルを活かすために、ストレスの多い離婚・相続・後見を専門とすることを計画していました。

――起業準備で大変だったことは、なんでしょうか。

ブランディング戦略の実現に着手したのは、残務整理が終了した退職時のタイミングです。実は、私は行政書士の資格を持っていませんでした。しかし、私は学生時代に法学部に在籍し、宅建や司法書士の勉強をした時期もあった人間です。約20年前の学生時代に、周囲で不合格になった人は一人もいなかったため、その年の11月の試験には間に合うだろうと、高をくくっていました。

しかし、現実は想像を超えていました。行政書士試験の合格率は8%と、社会保険労務士と肩を並べる難関国家資格となっていました。そのため、気合いを入れて働かずに2回目の試験に挑戦したんですが、またしても跳ね返されました。2年で3回目の試験でようやく合格。割増退職金もほぼ底をつきかけていたため、合格判明時には家内と抱き合って号泣したものです。自身の強い信念に加え、家内がよく理解してついてきてくれたと思います。今でも周囲の間では私達夫婦のことは語り草になっています。

行政書士は従前、代書人とも呼ばれ、扱える文書は一万種類あると言われています。他士業と比較して低価格設定かつリピートも少ない士業です。そのため、行政書士の業務内容を予めインプットしてから開業する方法は得策ではないとされることも多いのです。また従業員を抱える経営体力が十分でない個人事務所も多いことから募集も少なく、修行のチャンスが極めて少ないのが実情です。

それらの理由から、行政書士ではいきなり資格取得後に開業する方が大半と言われています。私も当然のようにいきなり開業を選択しました。

ここで、開業資金は日本政策金融公庫に依頼することにしました。自宅開業とはいえ、行政書士会への納付金、電話・PC・プリンターなどの設備、看板・ホームページ・名刺など士業開業には大金が必要です。たまたま希望通りの借入ができたんですが、それがなければ即時開業できませんでした。

また、開業後は時間が取りやすいので、ブランディングスクール等複数の起業関連の塾に通学しました。その中には、研修講師養成、著者養成などがあり、それぞれ卒業試験のオーディションも受け、登壇、出版を実現させることができました。

――初仕事を受注するまでは、どうだったのでしょうか。

開業後、すぐにでも仕事が欲しかったんですが、前述の通り通学でブランド力養成を優先したため、実務での受注獲得に1~2ヶ月を要しました。離婚専門の行政書士としては、家内が理容業を営んでおり、女性の交友関係も広いことから、紹介で受注。研修講師としては、オーディションで指名してくださったセミナー会社に東京ビッグサイトでのデビュー登壇を用意して頂きました。ストレス対処コンサルタントとしては、ある一般社団法人とのご縁を頂き、ビデオ教材にストレスコーピング(ストレス対処の意)の専門家として出演しました。

その過程で、起業前の想像と起業後の現実の相違を知ることになりました。前述の通り、周囲の評価では華々しいスタートを切れたはずであるんですが、実は苦労も多いんです。まずは、Web経由での受注はマーケティング調査や税理士のアドバイス通りにはいっていません。ホームページを最初はホームページビルダーで作成し、後に大金を掛けてSEO対策を施し、見栄えの良いものに変更したんですが、それ程効果は変わりません。

電話も開業後一ヶ月ほどは事務用品やWeb制作のセールスが多かったです。また、行政書士の業務内容が一般の方には分かりにくいため、離婚専門に特化したんですが、司法書士しか扱えない不動産登記の名義変更相談が非常に多いのです。

そのため、方針転換し、顧客獲得のためのセミナー集客にFAXDMを利用したり、リアル営業をしたりすることも必要であると感じ始めています。特に開業後2年経過し、3点重要と思うことがあるので紹介します。

まず、一つめは、人に積極的に会うことです。

Webだけでなく、リアル営業も必要と痛感しています。特に、人に会うのに時間とお金を投資すべきです。紹介は信用を伴うため、受注につながりやすいのです。コミュニティ、商工会議所、ご近所とは積極的に付き合うべきです。拙著のご購入をきっかけに地元の心理カウンセラー様と親しくさせて頂き始めたんですが、その方も近所の清掃ボランティア、学校の父兄との懇親会などから仕事につながるケースも多いと言っています。私の例では、家内経由での受注も多い。紹介は本当にありがたいです。

二つめは、起業後はアウトプットにも重点を置きつつ、インプットも怠らないことです。

インプットしてから開業では遅いし、かといってアウトプットの実践だけで仕事ができる訳でもありません。走りながら考え、インプットしつつお客様対応で経験を積むといったバランスが大切と思います。

そして最後、三つめは、独立後は自分に厳しすぎるくらいのマインドチェンジが必要です。

サラリーマンとの最大の相違点は、給料を頂くか否かです。サラリーマン時代と異なり、やり方次第では大きく稼げることもできるし、当たらなければ悲惨です。ちなみに、起業家仲間との意見が一致しているのは、サラリーマン時代と異なり、自身と相手との契約となることから、口約束ではしごを外されるケースも多いことです。これも自身の力不足と認識し、確実な受注までは期待しすぎてはいけません。

そして、当たり前であるんですが、全てが自己責任です。会社のように有給は無く、健康でないと誰も責任を取ってくれません。確定申告など自身で行う作業もあります。営業して受注しなければ一銭も稼げません。起床から就寝まで、全て自己管理、自己責任であることを痛感しています。

――目標・夢について、ぜひ聞かせてください。

逆境に置かれても、絶対に折れない信念を貫けているのは、座右の銘があるからです。

『人間は負けたら終わりなのではない。辞めたら終わりなのだ(アメリカ第三十七代大統領 リチャード M ニクソン)』

私は、43歳から第二の人生に挑戦する姿を、2人の息子達、世の同世代に示し、勇気を与えたいと考えています。その考えをベースに、起業時に誓ったことが3点あるので紹介します。

一つめは、サラリーマン時代の収入を超えることです。

まずは家族を路頭に迷わせないよう、生活を安定させることに注力中です。人に感謝される仕事をしないとキャッシュは生まれないのです。サラリーマン時代のように出勤して最低限の固定収入を頂くわけにいかないのです。

自身としては、資格は活かさないと意味はありませんが、相続診断士、マイナンバー管理アドバイザーなど常にキャッシュを産むためのスキルアップを心がけています。キャッシュポイントはサラリーマンのように1点ではなく、複数持ちどれが衰退・成長しても良いように準備する必要があります。

二つめは、人様のお役に立つ仕事をすることです。

サラリーマン時代には、お客様の顔が見えない業務に就いていました。しかし、本来、仕事というものは感謝されてお金をいただくものであります。是非、直接人に感謝され、その対価としてお金をいただければ最高と思うようになりました。そのため、私のミッションは成功哲学の学びから以下の通りとし、常に意識しながらお客様と対峙させて頂くことを肝に銘じています。

『ラストワン(※)をモットーに、自己研鑽を積み、人様に勇気・希望・安らぎを与える人生を歩む』

※)L…Learning(学び) A…Action(行動) S…Smile(笑顔)

T…Thanks(感謝)  One…No.1のサービス

三つめは、メンターに学び、人格を高めることです。

私のメンターは3名います。「人生全般」に影響を頂いている100万部越えのベストセラー作家。「ビジネスマインド」を与えてくださる、出版スクールを運営する起業コンサルタント。「自身を律し、お客様最優先する商魂」で地元栃木県の損保代理店の業績No.1を10年継続し、人生V字回復のロールモデルである保険代理店経営者。成功するには、成功者のやり方を真似ることが最速と考えています。

――起業を目指す皆さんへのメッセージをお願いします。

私のインタビューを含め、他の起業家の方々のインタビューを読まれ、一念発起できる方は起業すれば良いと思います。一方、ふんぎりがつかずに、再考して在籍中の企業に残る選択をされる方もいるでしょう。しかし、今後の日本経済の成長性を鑑みると、間違いなく私のように後ろ向きの起業をされる方が増加するであろうことは想像に難くない。企業の将来の幸福に、必ずしも自身の幸福が付随するとは限らないのです。そこで、後者の選択をされる方には、「続職(ぞくしょく)」という考え方ですが、企業に在籍している間、独立のための準備をすることをお勧めしたいです。

さらに、起業される方には2点私自身も肝に銘じる意味でお勧めしたいことがあります。

まず一つめは、仕事に情熱を持ち、健康には最大限の注意をします。

起業してから成功者と言われる方々の話を聞いていると、とにかく情熱を持ち、休みなく働いていることが多いようです。マイクロソフト社の共同創業者のビル・ゲイツ氏、COCO壱番屋創業者の宗次徳二氏は仕事一筋で、豪遊とは無縁の生活を送っていることは有名です。裏を返せば、このように仕事に打ち込めるのも自己管理、健康管理を徹底しているからです。当方も起業して2年間、風邪・インフルエンザ等には最大限注意をしています。起業家には当然、有給などありません。己の身体が資本なのです。

二つめは、安定収入と売上拡大を意識します。

先ほどお話しした通り、キャッシュポイントを複数持ち、顧問契約などリピートを獲得できると強いです。サラリーマンは固定給で安定はしているのですが、決められた収入以上は上げることはできません。その点、起業家は当たれば大きいです。

最後になりますが、起業するとサラリーマン時代とは別のストレスを抱えることになります。しかし、自己責任は伴うものの、仕事のやり方や生活スタイルなどの自由度は高いです。たった一度の人生であることを再認識し、起業家としての人生を楽しむべきと私は考えますが、皆さんはどうでしょうか。

初出:「会社を辞めたぼくたちは幸せになったのだろうか」の一部を大幅に加筆して掲載

<プロフィール>

坂上隆之(さかうえ・たかゆき)

行政書士・ストレス対処コンサルタント・企業研修講師

さかうえ行政書士事務所代表

国立大学卒業後、大手電機メーカーに20年間勤務。技術部門の予算編成・損益管理、コールセンター運営、PC修理部品納品マネージャー等を経験し、品質社長賞を受賞したプロジェクトチームも牽引。

2014年に独立し、離婚問題専門の行政書士として様々な人間関係の相談に応じている。更に、企業時代にコミュニケーションの必要性を痛感した自らの経験を活かしながら、誰でも短期間で本来の実力を発揮できる「コーピング技術」を活用した研修講師・講演活動を行っており、ストレスに悩むビジネスパーソンを救うストレス対処の専門コンサルタントとして活動している。最近では企業のニーズの多様化に応えるべく、マイナンバー、リーダーシップ研修など幅を広げている。

主な研修実績として、日本能率協会、日刊工業新聞社、トーマツイノベーション、大和ハウス工業、佐野商工会議所などがあり、2016年4月には富士通ラーニング認定講師として新入社員研修も担当。

2015年2月25日に、日刊工業新聞社より著書『ワーキングストレスに向き合う力ーストレスコントロール手法<コーピング>でビジネスに強くなる』が商業出版される。東洋経済オンライン、dot.ドット 朝日新聞出版らマスメディアへの寄稿実績もある。

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