15歳での俳優デビューから15年になる中村蒼。数々の作品に出演を続け、近年では朝ドラ『エール』の“福島三羽ガラス”の村野鉄男役が話題に。前・後編で放送のドラマ『風の向こうへ駆け抜けろ』では、平手友梨奈が演じる女性騎手を育てる調教師役で出演する。スタージョッキーから転落した過去を持ち、失っていた希望を取り戻す役どころは、30歳になった今にふさわしいもの。自身の俳優人生と重なるところはあるのか?

自分は人を引っ張る性格ではないので

――『風の向こうへ駆け抜けろ』で演じる緑川光司は元スタージョッキーで乗馬シーンもありますが、中村さんは経験あるんでしたっけ?

中村 10代の頃にカレンダーの撮影で乗ったことがあるくらいで、初心者に近かったです。夏くらいから練習を始めました。

――馬から落ちたりはせず?

中村 そうですね。でも、普通の乗馬ではなく、騎手の方のスタイルで、ちょっと中腰になるような姿勢だったので難しかったです。だいぶ体力が必要で、練習のあとはめちゃくちゃ筋肉痛でした。

――光司は前半はやさぐれた感じですが、こういう役が自分に来たことは腑に落ちるものがありました?

中村 あまりやったことがない役でしたので、自分が試されているような気がしました。最初は不安もありました。

――これまでもいろいろな役を演じられてきたうえで、今回はどの辺が「やったことがない」感覚だったのですか?

中村 物語の後半にみんなの中心に立って厩舎を盛り上げたり、引っ張っていったり、アグレッシブになっていくので。僕自身はまったくそういう性格ではないので(笑)、演じながら、やっぱり難しいと思っていました。

この世界しか知らないので必死にしがみついて

18日、25日と放送される『風の向こうへ駆け抜けろ』(NHK)。デビューしたものの成績の上がらない女性騎手・芦原瑞穂(平手友梨奈)を迎え入れたのは、地方競馬の廃業寸前の厩舎。やる気のない調教師・緑川光司(中村)と社会であぶれた者たちのたまり場だった。

――主人公の瑞穂を育てていく役回りが来たことで、自分の15年のキャリアを実感しませんでした?

中村 そうですね。年齢も今年で30歳になって、きっとこれからは誰かを教えたり、頼られたりする役が増えていくのだろうなと思いました。

――騎手として挫折を味わった光司と違って、中村さんの俳優人生は仕事が途切れることなく、高いところで波は少なかった感じですか?

中村 そんなことはないです。本当に途切れない方は休む間もないでしょうから、僕は比べものになりません。自分のために動いてくれた方々のおかげで、15年続けてこられて感謝しています。その中で、うまくできずに悩んだり、怒られ続けたことはありましたけど、光司みたいなわかりやすい挫折はなかったかもしれません。

――競争が激しい世界で、中村さん自身が人一倍の努力もされていたのでは?

中村 特別なことはしていません。ただ、15歳からこの仕事を始めて、良くも悪くも他の世界を知らずにここまで来て、必死にしがみついてやってきた結果が今、という感じですね。

『風の向こうへ駆け抜けろ』より
『風の向こうへ駆け抜けろ』より

経験は積んでるようで積んでない気がします

――10代の頃とは演技への取り組み方は変わったでしょうね?

中村 10代の頃はいっぱいいっぱいになることが多くて、自分の台詞をどう言うかしか考えられませんでした。年齢を重ねるごとに、相手の方がお芝居をしやすくするために自分の台詞があると、考えられるようになって。そこは変わったと思います。

――15年続けてきたご自身の俳優としての強みだと思うことは何ですか?

中村 それはあまりないですかね。

――作品ごとに全力を注いで、経験を積んだ結果ですか。

中村 経験を積んでいるようで、積んでない気もします。他の方がどうかわかりませんけど、毎回求められるものは違いますし、作品ごとに1からスタートしている感じがして。だから、15年やっても不安は変わらずあります。

――その分、毎回新鮮な演技を見せられるのかもしれませんね。光司は昔の自分について「生意気でどうしようもなかった」と語ったりもしていますが、中村さんが若い頃を振り返って反省したいことはありますか?

中村 今もあまり変わりませんけど、人とうまくコミュニケーションを取れなかったり、伝えたいことを伝えられなかったり。そういう反省はたくさんあります。

――周囲とのコミュニケーションを取っていたほうが、良い演技にも繋がると?

中村 単純に仕事をより楽しく感じられると思います。自分のことは自分でやるしかない仕事ですけど、みんなと一緒に作ったほうが楽しいので。そんなことにも気づかないまま、やっていた時期もありました。

根本的なところは昔と変わっていません

――中村さんはたたずまいとか、いい意味で昔から変わってない感じがします。

中村 根本的にはあまり変わってないと思います。昔の自分がどうだったか、よく覚えてないのですが、何年か前に取材してもらった方に「昔もそんなことを話してましたね」と言われることは多々あります。

――華やかな芸能界で人気俳優になっても変わらないのは、すごいことだと思います。

中村 変わるものなんですかね? 僕が10代の頃にご一緒した先輩たちはすごく良い方々で、自分が演技を全然できなかったことより、丁寧に教えてもらった思い出が強く残っているんです。若い頃にそういう方たちとお仕事できたことは、大きかったかもしれません。

――逆に、変わりたいと思ったことはないですか? コンプレックスみたいなものを取り払いたいとか……。

中村 それはめちゃくちゃ思います。生まれ変わったら、絶対自分でない人になりたいです(笑)。光司を演じていたときも、みんなを引っ張って頼られて、エネルギーに満ち溢れた人間になりたいと、すごく思いました。

役だといろいろな人間になれるのは楽しい

――中村さんが10代の頃の取材で、余談で『はじめの一歩』の話になって、好きなキャラクターに千堂武士を挙げられたのが印象に残ってます。“浪速の虎”と言われる猛々しいボクサーで、中村さん自身のイメージと正反対だったので。やっぱり自分にないものへの憧れはありますか?

中村 千堂はケンカに明け暮れて路地裏でスカウトされたようなところが、いいなと思っていました。僕にはそういう逞しさがまったくなくて(笑)、自分の力ひとつでのし上がっていくキャラクターを、幼いながらカッコ良く感じて読んでいました。

――中村さんも役に入れば、『HIGH&LOW THE MOVIE2』の蘭丸みたいな狂気じみたキャラクターも演じられるわけですよね。

中村 結果うまく演じられたかは別にして、自分では恥ずかしくて観られません。でも、役だといろいろな人間になれるのは、楽しいと思いながらやっています。

――瑞穂は「勝ちたいんです!」と訴えてきますが、そういう気持ちは中村さんにもありました? ライバル意識を持っている相手がいたとか。

中村 同世代の俳優さんや10代の頃にご一緒した方の活躍は、もちろん目には止まります。でも、ライバル意識や闘争心みたいなものは、僕は少ないほうだと思います。

上辺で人を判断しないところを意識しました

――光司役に「不安もあった」とのことでしたが、どんなふうに作っていきました?

中村 前半は競馬にあまり熱心でなく、不真面目な感じですけど、根っからイヤな人ではなくて。心根はやさしい人間でありたいと思っていました。厩舎のメンバーはあぶれ者ばかりでも、光司には人間の本質を見極める力がある。上辺だけで人を判断しないのがいいところなので、そういう面は劇中で描かれてはいなくても、意識しながら演じていました。

――監督からはどんな演出がありました?

中村 前編・後編の2話で、展開がどんどん進んでいくので、「ここはわかりやすく熱く」といったことはありましたけど、基本的には自由にやらせていただきました。

――現場の居心地はどうでした?

中村 年齢がバラバラのキャストだったこともあって、楽しく撮影できました。現場には常に馬がいたので、みんな癒されていて。競馬学校の教官の方と馬の話をするのも楽しかったです。馬が暴れていて怒っているのかと思ったら、そうでなくて理由があるとか、本当の競走馬はもっと手を付けられないくらいすごいとか。馬の脳は人間で言うと3歳児くらいで、思ったより繊細で実はいろいろなことに気づくから、「不安な気持ちで乗らないほうがいい」と教わったのも印象的でした。

『風の向こうへ駆け抜けろ』より
『風の向こうへ駆け抜けろ』より

NHKのニュースを観てると30歳になったなと(笑)

――中村さんは今年、取材などで「30歳になってどうですか?」と聞かれることが多かったようですが、聞かれなくても30歳になったことを意識はしてました?

中村 多少は意識します。NHKさんのニュースを観ていると「30歳になったんだな」とすごく思います(笑)。実家のテレビではずっとNHKさんが流れていて、子どもの頃はバラエティのような番組が観たかったけど、今は自分から進んでニュースを観るようになりました。

――たぶん年齢より、家族を持たれたことが大きかったのでは?

中村 そうですね。具体的な頑張る目的ができました。自分に子どもがいるのは、いまだに不思議な感じがしますけど。僕の父は“ザ・父親”という人だったので、自分のこともうまくしゃべれない僕がどうなっていくのか……。でも、家族のことはかなり大きいですね。

――光司には「そろそろ本気で競馬をやろうと思う」との台詞もありました。中村さんの30代の俳優人生にはどんな展望がありますか?

中村 周りから「30歳まで役者を続けられたのは大きいこと」と言ってもらえて、確かにすごいことだなと噛みしめています。具体的に30代でどういうことをやるかというより、また40歳までの10年間、仕事を続けられたらいいなと思います。

周りに支えられているのを確認できました

――たとえば映画とかで上の世代の俳優を観て、「こんなふうになれたら」と思ったりはしませんか?

中村 それはいつも思います。今回共演させていただいた大地(康雄)さんくらいの年齢に自分がなったとき、大地さんのようなお芝居ができるのか。今年の夏に出演させていただいた舞台では、佐々木蔵之介さんがプロデュースして主演もやられて、台本作りから参加されていて。コロナ禍に1人でも多くのお客さんに劇場に来てもらうためにどうしたらいいか、スタッフさんと話されている姿も目の当たりにしました。自分も同じことをやるかは別にして、蔵之介さんくらいの年齢になったら、あれほどアグレッシブに役者の仕事に向き合えているのか。そういう先輩方は本当にすごいと思って、毎回尊敬します。

――映画やドラマは自分でもよく観ますか?

中村 今は配信で韓国ドラマをよく観ています。向こうのエンタメはすごいですね。最近はNetflix用のドラマが作られて、ヒットしたら続編みたいな仕組みになっていて。構想10年という作品の作り込みも素晴らしいし、お芝居も喜怒哀楽が豊かですよね。

――『風の向こうへ駆け抜けろ』は自分で試写を観ると、どんな印象でした?

中村 主人公の女性騎手の芦原瑞穂の成長過程や厩舎のみんなが一致団結して進んでいく姿が、ストレートに描かれていました。観ているとまっすぐ心に届いて、素敵だなと。いろいろな人が関わって、僕たちが見るレースに繋がっていると改めてわかりました。きっと自分たちも周りの人たちに支えられていることが、確認できる作品になっています。

『風の向こうへ駆け抜けろ』より
『風の向こうへ駆け抜けろ』より

Profile

中村蒼(なかむら・あおい)

1991年3月4日、福岡県出身。

2006年に舞台『田園に死す』に主演して俳優デビュー。近年の主な出演作は、ドラマ『悪魔が来りて笛を吹く』、『詐欺の子』、『赤ひげ』シリーズ、『エール』、『ネメシス』、映画『空飛ぶタイヤ』、『もみの家』、舞台『お気に召すまま』、『忘れてもらえないの歌』、『君子無朋』など。12月18日・25日放送のドラマ『風の向こうへ駆け抜けろ』(NHK)に出演。2022年5月6日~22日に上演の舞台『ロビー・ヒーロー』(新国立劇場)に主演。

土曜ドラマ『風の向こうへ駆け抜けろ』

NHK/12月18日・25日21:00 ~

公式HP

写真はNHK提供 

衣装協力/ニット(ユーゲン)74,800円=イデアス(03-6869-4279)