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不運続きの映画『十二単衣を着た悪魔』で見逃せない、カリスマ皇妃役の三吉彩花の逞しさ溢れる演技

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(c)2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナーズ

黒木瞳が監督を務めた映画『十二単衣を着た悪魔』の興収の不振が伝えられている。主演の伊藤健太郎が公開直前にひき逃げで逮捕されるなど不運も重なり、首都圏での公開は終了していくようだ。ただ、『源氏物語』の世界を題材にしたこの作品で、タイトルの示す“悪魔”的な皇妃を演じた三吉彩花には目を見張る。ブレずに信念を貫く強い女性像を体現できるのは、女優として得難い資質だ。

ストレートな台詞がハマる堂々とした存在感

 『十二単衣を着た悪魔』は朝ドラ『ひらり』や『私の青空』など数々のヒットドラマの脚本を手掛けた内館牧子の小説が原作。就職試験に59連敗中のネガティブなフリーター・伊藤雷(伊藤)が『源氏物語』の世界にタイムスリップし、辣腕でカリスマ的な皇妃・弘徽殿女御(三吉)に翻弄されながら成長していく。

現在24歳の三吉彩花 (c)河野英喜/HUSTLE PRESS
現在24歳の三吉彩花 (c)河野英喜/HUSTLE PRESS

 『源氏物語』ではヒステリックな悪女として描かれている弘徽殿女御が、『プラダを着た悪魔』でメリル・ストリープが演じたファッション誌の編集長ともイメージを重ね、早すぎたキャリアウーマンに見立てられている。逞しいハートと冷静な分析力を兼ね備え、息子の春宮が異母弟の光源氏との争いに勝ち、皇位に就くことを目論む役どころだ。

 「言いたいことを言って何が悪い」、「かわいい女にはバカでもなれる。しかし、怖い女になるには能力がいる」、「身の丈に合ったことだけして傷つかぬように生きるなど、小者のすること」など、忖度なしのストレートな台詞が次々に飛び出して小気味いい。

 171cmの長身でモデルでもある三吉は、重厚な十二単衣の着こなしも見事で、堂々としたオーラを醸し出している。凛とした威厳も放ち、強い台詞も違和感なく胸に響く。現在24歳の若手ながら、こうしたカリスマ的な役がハマる女優は貴重だ。

小学生でモデルデビューし中学時代にアイドル活動も

 三吉は小学生の頃から子ども向けファッション誌『ニコ☆プチ』でモデルを務め、中学時代には「ミスセブンティーン2010」から『Seventeen』の専属モデルになっている。一方、“成長期限定ユニット”と銘打った小・中学生のアイドルグループ・さくら学院に結成メンバーとして加入。学校スタイルのこのグループの中で、当時から共に長身だった松井愛莉と共に“新聞部”としても活動した。ちなみに、今年の紅白歌合戦に初出場するBABY METALはもともと、さくら学院の“重音部”で後輩だった。

 中学とさくら学院を卒業後は女優活動を広げる。2013年に映画『旅立ちの島唄~十五の春~』で初主演し、同年に「第35回 ヨコハマ映画祭」で最優秀新人賞。2015年には北条司のマンガが原作のドラマ『エンジェル・ハート』でヒロインを演じた。

 以後、コンスタントに出演作を重ね、昨年は矢口史靖監督の映画『ダンスウィズミー』に主演。催眠術にかかり、音楽を聴くと歌い踊り出す体になってしまった役で、ミュージカル調のダンスも披露して話題になった。今年も『十二単衣を着た悪魔』のほか、主演映画が2本公開されている。

(c)河野英喜/HUSTLE PRESS
(c)河野英喜/HUSTLE PRESS

「言いたいことを言って何が悪い」に共感

 自身のキリッとした佇まいともシンクロする弘徽殿女御役について、三吉は「私が演じることによって良い強さや説得力が出せたらいいなと思いました。ハマっていたのかはわかりませんが、頑張れそうな気はしました」と話していた。

 クランクイン前に監督の黒木とマンツーマンで台詞を稽古。ひとつの台詞を50回、100回と繰り返し、カリスマらしいトーンや強さを探ったという。

「私が普通にしゃべり言葉で話すと、意識してなくても波があって。監督には『全部同じボリュームでスパーンと言ってほしい』と言われました。監督がやられていた演技のメソッドで、『もうちょっと怒って』とか『悲しく』とかでなく、『ファにして』とか『やっぱりレで』とか、台詞を音楽みたいに理解していく感じでした」。

 吹奏楽部でサックスを吹いていた三吉には、そのメソッドはやりやすかったそうだ。数々のストレートな台詞自体も「だいたい理解できました」とのこと。

「私も思ったことを言うタイプなので『言いたいことを言って何が悪い』は共感しました。理不尽な発言はしないとしても、『間違えてないことを言って何が悪いんだろう』という気持ちはあります。『身の丈に合ったことだけして生きるなど小者のすること』も『そうだな』と。ただ身を守るために殻に閉じこもるのは、自分の軸が弱いように感じます。私は身の丈を考えないのが基本。そんなことを気にしている人がいるのかな、と思います」

 平然とそう語る三吉自身、やはり強く逞しいカリスマ役にハマる気質があったようだ。加えて、十二単衣をまとっての振る舞いも「ドーンと構える感じ」を意識したとか。

「ちょっと男性っぽくカッコイイ女性として、所作は座り方から意識しました。振る舞いが不自然に見えないように、立ち上がるときの着物の捌き方も座っているときの扇の持ち方も全部、気を配りました」

(c)2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナーズ
(c)2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナーズ

アクションのできるカッコイイ女優を目指して

 『十二単衣を着た悪魔』では、弘徽殿女御の夫の桐壺亭役の伊勢谷友介が大麻取締法違反で9月に逮捕されたのに続き、公開直前の11月になって主演の伊藤健太郎がひき逃げで逮捕。何とか予定通り公開となったものの、初週の全国週末興行成績で10位内に入らず、振るわないようだ。

 そんな中で、三吉彩花のカリスマ役も埋もれてしまうとしたら、実に惜しい。他の同年代女優では難しい役で確固たる存在感を示したが、本人は自分の強みについて「大きな自信を持てる部分はまだありません」と話す。

「この人と言ったらクールな役、みたいな確立されたものがないでので、そこを探っていきたいです。アクションとかカッコイイ役をもっとやりたくて、殺陣とかにも興味あります」

 確かに、長身で手足が長い彼女のアクションは見ものになりそうだ。好きな女優にはマーゴット・ロビー、クリスティン・スチュワート、エマ・ストーンの名前を挙げて「やっぱり強い女性がいいですね」と話していた。三吉彩花自身も強さをベースにした唯一無二なタイプの女優となって、活躍する姿がイメージできる。

(c)2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナーズ
(c)2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナーズ
芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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