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女子ラグビー メダルを狙った若き「サクラセブンズ」は1勝もできず、悔し涙で大会を終える

斉藤健仁スポーツライター
1勝も挙げられなかった「サクラセブンズ」。先頭は共同キャプテンの清水(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

平均年齢23歳、若きサクラセブンズの挑戦が終わった。

7月29日から31日まで、東京スタジアムで東京オリンピックの女子ラグビー(セブンズ)が行われた。優勝候補筆頭のニュージーランドが、銀メダルに終わったリオデジャネイロ五輪の屈辱を晴らして英国に26-12で勝利し初優勝を飾った。3位にはフランスを破ったフィジーが入った。

「サクラセブンズ」こと女子ラグビー(セブンズ)日本代表はプールCに入り、前回大会優勝のオーストラリア、強豪の一つアメリカ、アジアのライバルである中国と同組だった。前回大会は10位だったが、メダルを目標に東京五輪に臨んだ。

◆大会7ヶ月前に新しい指揮官が就任した

今年になって急遽、就任した元日本代表のハレ・マキリHC(ヘッドコーチ)は東京五輪に向けて「スピードとアジリティーを強みとして活かして、ボールをたくさん動かすエキサイティングなラグビーをやりたいと思っています」と意気込んでいた。

メンバー選考に際しては13人の代表選手の中に、経験値の高く、長らく「サクラセブンズ」の顔だった33歳の中村知春大黒田裕芽といったリオ五輪の中心選手を選ばず、大学生6人、平均年齢23歳という若いメンバーを選出。その意図をマキリHCは「ずっとチームを見てきた中で、チームファーストで貢献できる選手、自分たちがやろうとしているゲームプランで、自分の強みを発揮できる選手を、優先順位をつけてセレクションした」と話した。

世界はパスワークやランだけでなく、個々のフィジカルが強化されている中、リオ五輪経験者は小出深冬山中美緒の2人のみで、若き選手たちで、オフロードパスやキックも上手く使ってスペースにアタックするラグビーでチャレンジした。

◆3ヶ月前に強豪相手に大敗していた

苦戦はあるる程度、予想されていた……。

サクラセブンズは世界を転戦する「ワールドシリーズ(WS)」で全体会に出場できる「コアチーム」だったのは2017-18シーズンのみで、世界の強豪との絶対的な経験量は足りてなかった。

2020年に入ってからコロナ禍により対外試合もほとんどできなかった。唯一、2021年の4月にドバイで行われた国際大会に出場できたが、強豪のフランス、アメリカには5-43、0―31と大敗していた。

そこから3ヶ月、どこまで強化合宿で差を縮められているのか、平均年齢23紙の若きスコッドはどこまで世界と戦えることができるのか……。

◆アメリカ戦は敗戦したが手応えを得た試合に

7月29日、予選プールの初戦は前回大会優勝のオーストラリアだった。接点で圧力を受けてターンオーバーや反則を繰り返し、自分たちのラグビーがほとんど見せることできず、前後半4トライずつ喫してしまい0-48で大敗してしまった。

同日の予選プール2試合目はアメリカとの対戦だったが、サクラセブンズは初戦とは見違えるようなプレーを見せる。ディフェンスではしっかりと前に出てタックルし、キックで相手のスペースを突いてゴールラインに迫るシーンもあった。

結果、小出がトライを挙げて7-17と敗戦したが、後半、キックからトライを奪っていれば結果は逆転していたかもしれないという内容だった。「初戦では自分たちの思うようなゲームに運ぶことができませんでしたが、2戦目も負けてはしまったもののアタック、ディフェンスともにしっかりと修正でき自分たちのパフォーマンスをしっかり発揮できた」(堤ほの花)と手応えを得た2試合目だった。

そして7月30日、3試合目はアジアのライバル中国だった。アメリカ戦と同じパフォーマンスを出せれば……と思ったが、接点で上回られて相手の速い、強いランナーに走られて0-29で、再び、大敗を喫してプールC再開に終わり、男子同様に9位-12位トーナメントに回ってしまった。

ボールを持ってゲインする原
ボールを持ってゲインする原写真:ロイター/アフロ

◆9-12位トーナメントでも1勝もできず……

同日、東京五輪で初勝利を挙げたかった日本はケニアと対戦した。

前半は原わか花がトライを挙げたが14-5とリードされる。後半最初に小出がトライを挙げて、さらに今大会で接点でファイトし続けた梶木真凜がジャッカルを決めて、自ら中央にトライを挙げて17-14とリードした。しかし、スクラムのボールをキープして蹴り出せば勝利だったが、スクラムでプレッシャーを受けてターンオーバーを許して、そのまま17-21と逆転されてしまった。

試合経験のなさが響いた結果となったが、2日目を振り返り、大会前に急遽、13番目の交替選手として代表入りしたものの好パフォーマンスを披露していた山中美緒は「勝つことができなくてとても悔しいです。しかし、ケニア戦ではそれぞれがハードワークすることができました。明日のブラジル戦は自分たちのラグビーをして勝って終わりたい」と前を向いた。

7月31日の最終日、日本は11位決定戦でブラジルと対戦した。リオ五輪でも負けているだけに、勝って終わりたかった。しかし、先制点を奪われる展開となったが、弘津悠のトライで一時逆転したが、前半のうちに再びトライを許し14-12とリードされた。

後半は相手のディフェンスの前にアタックが機能せず、1トライを追加されて21-12で5連敗となり、1勝も挙げることができずに12位で大会を終えた。ノーサイド直後、選手たちの目からは悔し涙で溢れた……。

◆「13人全員で戦い抜けたことは良かった」

マキリHCは「残念ながら、私たちが目指していたゴールを達成することはできませんでしたが、チームの努力が不足していたわけではありません。ヘッドコーチとして選手やスタッフに求めることは常にベストを尽くすことです。この経験から得た貴重な学びを、女子セブンズ日本代表の更なる強化に今後役立てていけるものと考えています」と振り返った。

共同キャプテンの清水麻有は「勝つ事ができなくて、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。しかし、このような状況で大会を開催して頂けた事、そして、最後まで応援して頂けた事にとても感謝をしています。これからも、サクラセブンズの挑戦は続きます。引き続き、応援宜しくお願い致します」。

もう一人の共同キャプテンであるバティヴァカロロライチェル海遥は「サポートしてくださった方々に結果として恩返しをする事ができなかったのはとても残念ですが、13人全員で今大会戦い抜けた事は本当に良かったと思っています」と話した。

2016年リオ五輪、2018年セブンズワールドカップはともに10位だったサクラセブンズだが、合宿を繰り返してきた自国開催の東京五輪で、それらの結果を下回る12位に終わってしまった。

共同キャプテンの一人のバティヴァカロロ
共同キャプテンの一人のバティヴァカロロ写真:長田洋平/アフロスポーツ

◆一貫性がなく、迷走したサクラセブンズの強化

2018年のアジア大会こそ優勝したが、ワールドシリーズの北九州セブンズでは1勝もできず、ワールドシリーズから降格し再昇格できなかった。前任の稲田仁ヘッドコーチがそのまま指導していても、正直、さほど結果は変わらなかったかもしれない。

東京五輪7ヶ月前に男子のアシスタントコーチだったニュージーランド出身のマキリHCに任せたが、結果だけを見れば、その判断も正しかったかどうかはわからない……。

4年ほど積み上げてきたことがゼロになったわけではないが、新しく代表の主力になった選手もおり、7ヶ月という時間で新しい戦略、戦術を落とし込むだけの時間が十分とは言えなかった。

また、ただでさえ国際経験の少ない選手が多い中、男子同様に、コロナ禍の影響を受けて積極的に海外に遠征に行ったり、強豪と国内で試合をしたりといった経験を積めなかったことも響いてしまった。

◆山中や梶木らは持ち味を発揮した

それでも光るプレー随所に見られた。

13人目でチームに加わった山中は、ゲームをコントロールするだけでなくタックルでも体を張りチームを鼓舞した。また国際試合の経験がない中でも接点でファイトし続けてトライも挙げた梶木の活躍にはファンを勇気づけただろう。は自慢のスピードを武器に2トライを挙げて、弘津も愚直かつ献身的なプレーで持ち味を発揮した。

太陽生命ウィメンズシリーズという国内大会がある中で、日本の個々の選手のスキルレベルは上がっているのは間違いない。ただ2~3年前までは日本と同じレベルにあったアジアのライバル中国は、強豪の一つROC(ロシアオリンピック委員会)を10-22で下し7位に入り、フィジーは英国を下して銅メダルを獲得した。世界の強化のスピードを目の当たりしたことも大きな収穫になったはずだ。

山中は「ここまで5年間一緒に頑張ってきた仲間、一緒にオリンピックで戦った仲間、スタッフのハードワークを誇りに思います。勝ちきれないことが自分達の弱さで、まだまだ世界との差を痛感しました。この経験を次に活かしていきたい」と話した。

梶木は「自分たちはもう一度一からしっかり見直して強化を図る必要があると思います。この悔しい気持ちを前進する糧にします」と語気を強め、弘津は「1勝もすることができず、悔しい結果となりましたが、これが現実だと受け止めています。3年後のパリ五輪への出発地点だと思って、責任を持って頑張ります」と前を向いた。

来年9月には南アフリカでセブンズワールドカップ(アジア枠は2)が開催され、3年後の2024年にはパリ五輪(アジア枠は1)が開催される。

この5年間の強化を振り返り検証するとともに、悔しい経験を糧にして、3年後のパリ五輪を想定しつつ、秋に開催される予定のワールドシリーズの昇格大会、そして来年のセブンズワールドカップに向けて強化のスピードを速めなければならない。

タックルする梶木(左)と白子(右)
タックルする梶木(左)と白子(右)写真:ロイター/アフロ

◆他の選手たちのコメント

大谷芽生

「たくさんの方に、勇気や感動を届けたかったのですが、勝利することができず、12位という悔しい結果に終わってしまいました。この結果や、経験を次に繋げていきます」

黒木理帆

「勝った姿を見せることができず悔しい気持ちと申し訳ない気持ちでいっぱいです。でも仲間を信じて最後まで戦うことができました」

小出深冬

「試合に勝てなかったことがすごく悔しいですが、オリンピックという大舞台でプレーできたことを嬉しく思います。結果を受けとめ、今後日本の7人制、女子ラグビーをさらに強くしていけるよう再出発したいと思います」

白子未祐

「大会を通して、チームとしても個人としてもとても悔しい結果にはなりましたが、ここで感じた事、経験を必ず次に繋げたいと思います。オリンピックが開催できたこと、応援してくださった皆さん、これまで一緒にやってきた仲間、この13人に心から感謝しています」

堤ほの花

「結果で応えることができず悔しいですが、日本代表として、そして素晴らしい仲間と共に戦い挑戦し続けられた事を誇りに思います。世界との差を感じる大会とはなりましたが、今後の女子ラグビー界に繋がる経験になりました。ここで終わらないようしっかり向き合っていきたいと思います。これからも、上を目指し努力、チャレンジしていきます。今後とも応援よろしくお願いいたします」

永田花菜

「3日間たくさんの応援ありがとうございました。皆さんの応援が本当に力になりました。最後まで勝ちきることが出来ず悔しいですが、結果を受け止めて次に繋げられるよう頑張ります」

原わか花

「リオ五輪から約5年、多くの方に応援していただき支えられてサクラセブンズがあります。勝利という形で恩を返すことができず、本当に申し訳ない気持ちと後悔でいっぱいですが、ここで止まることなく、ここがスタートだと思って前に進み続けます」

平野優芽

「今回の結果をしっかりと受け止めどのように今後繋げていくか責任を持って体現していきたいと思います。ただサクラセブンズの素晴らしいチームメイト・スタッフとやってきた5年間は私の誇りです。オリンピックで味わった悔しさを忘れずに今後さらに選手としても人間としても成長をし、強いサクラセブンズを見せることが出来るよう頑張っていきます」

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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