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前回大会4位の男子ラグビー日本代表 ホームの地の利を活かせず、11位に沈む

斉藤健仁スポーツライター
松井主将 Mike Lee - KLC fotos/World Rugby

再び、ラグビーで日本を盛り上げることはできなかった。

7月26日~28日、東京スタジアムで東京五輪の男子ラグビー(オリンピックは7人制)が行われ、フィジーの連覇で幕を閉じた。

5年前のリオ五輪で4位だった男子日本代表は、メダル獲得を狙った。だが予選プールで優勝したフィジー(●19-24)に善戦したものの英国(●0-34)、カナダ(●12-36)に敗れて上位8チームが進める決勝トーナメントに進出できず、結局、9位~12位を決める下位トーナメントに回った。下位トーナメントでも初戦でケニア(●7-21)に敗れて、最終日、11位~12位決定戦で韓国を31-19で下して11位で大会を終えた。

◆目標は前回大会4位を上回るメダル獲得

キャプテンの松井千士は大会前、「目標はメダルを取ることです! 負けず嫌いなので、(15人制と同じく)セブンズでもやってやろういう気持ちはありますね。オリンピックはいろんな種目がありますが、ラグビーで盛り上げられるように頑張りたい」と意気込んでいた。

7月26日の午前、日本代表の予選プール初戦は、前回大会の金メダル・フィジーだった。リオ五輪でニュージーランドを破って金星を挙げて勢いに乗ったように、東京五輪でもその再現を狙った。

◆初戦は前回大会王者のフィジーと接戦したが……

フィジー相手に先制されたが、前半3分、相手のミスしたボールを拾ったキャプテンの松井千士が80mを走りきって右中間にトライ、さらに前半終了間際にも彦坂匡克、トゥキリ ロテとつないでトライ。前半を14-12とリードして折り返した。

さらに後半最初のプレーで藤田慶和の正確なキックオフのボールを副島亀里ララボウラティアナラが左ライン際でキャッチし、そのまま左隅にトライを挙げて19-12とリードを広げた。

このままいけば「勝てる!」と思った矢先、簡単なノックオンと反則から相手にトライを献上してしまい19-24と逆転を許す。しかし残り30秒で相手が故意のノックオンで反則しシンビン(2分間の一時的退場)となり、7人対6人と数的有利となる。

だが日本はタップキックやスクラムでのゲーム再開ではなく、タッチに蹴ってラインアウトを選択。そのラインアウトを起点に逆転を狙ったが、肝心のラインアウトでミスをしてしまい、そのまま19-14でノーサイドを迎えた。

◆フィジー戦の善戦が「誤った自信」(松井)に

負けたものの世界的強豪と互角に戦えたことは次の試合につながると期待した。26日の午後、予選プール2試合目はリオ五輪の銀メダルだった英国と対戦したが、日本はキックオフでキープできず、ミスや反則も多く、まったくいいところがなく5トライを与えて0-34で大敗。

悪い流れは断ち切ることができず、2日目の27日午前の予選プール3試合目、大勝すればベスト8入りの可能性も残されていたカナダ戦でも12-36で大敗。ホームの地の利を活かすことができず、予選プール3連敗で下位トーナメントに回ってしまい日本はメダルを逃した。

岩渕健輔ヘッドコーチは「選手たちは、初戦に向けてベストな準備をしてくれていました。その初戦でチームを勝利に導けなかったことに強い責任を感じております」と話した。

松井キャプテンは「フィジーに負けはしましたが僅差だったので、それが誤った自信につながってしまった」と肩を落としたように、フィジーに勝てなかったことが大会の流れを大きく決めたと言えよう。

◆ホームの地の利を活かした「BEE RUGBY」体現できず

大会全体を通して、キックオフ、ラインアウト、スクラムといったセットプレーでミスや反則が多かったことが日本代表の一番の課題だったと言えよう。

また日本代表は「BEE(蜂)RUGBY」を掲げており、攻守ともに鍛え上げたフィットネスを武器に集散で勝負する方針だったが、それも簡単なタックルミスやノックオン、反則などで機能したとは言いがたかった。

また世界の強豪は世界を転戦とするセブンズワールドリーズ(WS)で経験を積んでおり、日本はこの5年間、WSでは昇格したり降格したりを繰り返し、さらにメンバーを固定することもなかなかかなわず、個々の選手を見ると強豪との対戦経験は決して多くはなかった。

それにもかかわらず、今年に入って4月にドバイで開かれた国際大会にこそ出場したが、6月末のアメリカで行われた大会は招待されていたが断り国内で合宿し強化する道を選んだ。飛行機移動の時差や負担、コロナ禍で帰国後の隔離の問題があっての選択だったと言えよう。

ただ、強豪国を日本に招待したり、他の競技のように大会直前に日本国内で強豪と対戦したりすることもできなかった。

また岩渕ヘッドコーチは現役引退後から10年以上、セブンズの強化に関わっており、2018年から男子の指揮官となり東京五輪で結果を出したい気持ちは人一倍、強かったはずだ。ただし2019年からは日本ラグビー協会の専務理事を兼任しており、どこまで現場で手腕を発揮できていたのか……。

ある程度、ユース五輪で日本を3位に導いた梅田紘一コーチに任せて進めていたはずだが、やはり指揮官と専務理事の兼務は少々無理があったと言わざるを得ない。

◆来年セブンズW杯、パリ五輪へ向けて今回の反省を活かしたい

いずれにせよ、2015年ワールドカップ15人制ラグビー日本代表、2016年リオ五輪の男子セブンズ日本代表、2019年ワールドカップの15人制ラグビー日本代表と、長期合宿を行うことで結果を残してきた。

だが、今回の東京五輪ではコロナ禍の影響もあったものの長期合宿をしてしっかり準備して臨んだはずだが、結局、地の利を活かすことができず、初戦に勝って流れに乗ることもできず、11位で大会を終えた。

日本代表は2020年にWSのコアチームに昇格しており、2021年は世界の強豪と対戦する機会が続いていく。東京五輪の反省を活かしつつ、来年のセブンズのワールドカップ、3年後のパリ五輪につなげていってほしい。

◆ヘッドコーチと選手のコメント

岩渕健輔ヘッドコーチ

「世界中の全ての方々が大変な状況の中で、選手たちがグランドに立てる機会をいただいたことを、心から感謝します。またそのような中でもチームに対して温かいお言葉をいただき、支えていただき、本当にありがとうございました。男子7人制日本代表、そして今回プレーをした選手たちは様々なところで競技を続けます。これからも選手、チームを何卒よろしくお願いします。本当にありがとうございました」

松井千士キャプテン

「3日間応援ありがとうございました。目標としていたメダルには遠い結果でしたが、日本ラグビーファンの皆さんの応援メッセージが自分達の大きな力になり、韓国に勝つことができました。コロナ禍の中でのオリンピック開催で大変な状況の方々に、自分達の勝利で勇気や感動を届けたかったのですが、悔しい結果になってしまい申し訳ないです。しかし、これからもセブンズ日本代表は続いていきます。未来のセブンズ日本代表になる子供達に憧れるような存在になるために行動していきたいと思います。3日間本当にありがとうございました!」   

セル ジョセ

「思うような結果が得られませんでしたが、日本代表として東京オリンピックに出場する機会を得られたことは、とても光栄でした、感謝しています。また、日本のファンの皆様には、いつも応援していただき、本当にありがとうございます」

トゥキリ ロテ

「目標が達成できなかったのは残念ですが、この大会から学び、日本のセブンズの未来に向けて前進していきたいと思います。全体的には、選手たちは全力を尽くして、家族や友人、そしてファンの皆さんのために心を込めてプレーしました。勝つか、学ぶか、それがラグビーセブンズです。また強くなって戻ってきます」

ボーク コリン雷神

「東京2020チームの一員として素晴らしい経験をすることができました。思うような結果は得られませんでしたが、毎試合ベストを尽くしました。オリンピックの開催に協力してくれた皆さん、そしてこの機会を与えてくれたコーチやマネジメントに感謝しています」

羽野 一志

「まず、このような状況の中大会が開催されたこと心から感謝致します。そして大会運営に関わる方々、ボランティアの皆さん、セブンズを応援して下さった皆さん、ありがとうございました。結果はなかなか勝利を掴むことができず、チームが目指していたところに届きませんでしたが無観客の中でも、SNSやテレビを通して応援してくれた事が私たちに大きな力をもたらしてくれました。コロナの影響で海外遠征もままならず、チームを強化することが難しかったのは、どこのチームも一緒です。まだまだ日本の7人制ラグビーはアジアを出ると世界と差があるのが現状で、次のパリオリンピックに向けては更なる改善と強化が必要になってくると思います。

私個人として大学生からのセブンズのキャリアの集大成となった今大会。全力を出し切り、このチームメイトと今日まで戦えたことを誇りに思います。そして所属するチーム、これまで支えてくれた家族に感謝したいと思います。引き続きこれからも7人制ラグビーの応援を宜しくお願いします」

副島 亀里ララボウラティアナラ

「まず最初に、初日からSevens Familyをサポートしてくれている皆さんに感謝したいと思います。特に、家族、チーム、友人、そしてファンの皆さんに。東京オリンピックに向けていろいろなことがありましたが、私たちが望んでいたような結果になっていればよかったのですが、残念ながらそうはなりませんでした。多くの方の期待に応えられなかったことは残念ですが、チームメイト達と彼らがフィールドで見せた努力を誇りに思っています。メディカル、S&C、アナリスト、マネージャー、コーチの皆さんのご尽力、機会を与えてくれたこと、私や他の選手達を信じてくれたことに感謝しています。私たちは自分たちの立場を理解しており、共通の目標に向かって協力し合いながら、さらに上を目指していきたいと思います。

お疲れ様でした。JAPAN SEVENS FAMILYに感謝します」

彦坂 匡克

「連日の応援ありがとうございました。思うような結果は残せませんでしたが、最高の仲間と最高のチャレンジができました!オリンピックは終わりましたが、これからワールドシリーズ、W杯、アジア大会とセブンズの試合は続いていきます。引き続きジャパンセブンズのサポートをよろしくお願いいたします 最後になりますが、無観客となったオリンピックでしたが、SNSや現地のボランティアスタッフの方々など、多くの方の応援に勇気をいただきました。本当にありがとうございました!!」

ヘンリー ブラッキン 

「困難な時期にオリンピックを開催してくれた東京の皆様、そして日本の皆様に感謝します。特別なイベントであるオリンピックに参加できたことを大変光栄に思います。日本代表としてオリンピックに参加する機会を与えてくれたコーチやスタッフに感謝しています」

本村 直樹

「まずこのコロナ禍でオリンピックを開催するにあたって尽力してくださった全ての人に、感謝しています。ありがとうございます。またオリンピックに賛否のある中でたくさんの方々から応援のメッセージをいただきました。その気持ちがすごく自分の支えになりました。ありがとうございます。さらに家族やチーム、職場など、自分の活動を理解し、1番近くで長い期間支えてくれ、ありがとうございました。その全てに結果で応えたかったです。それができなかったことが何より悔しいです。

『桜を咲かせる』というフィロソフィーのもと、動き出した僕たちでしたが、今回満足できる桜を咲かすことはできなかったかもしれません。でもフィロソフィーは変わらないですし、7人制ラグビー日本代表も終わりません。今後も満開の桜を咲かせるために日々努力していきます。応援よろしくお願いいたします。

最後になりましたが、このセブンズファミリーで同じ方向を向いて努力してこれたことを誇りに思います。みんなありがとう。そして(松井)千士ありがとう。お疲れ様!」

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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