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ラグビー「公立校の星」御所実業・竹田寛行監督 教員生活最後の花園で残した言葉

斉藤健仁スポーツライター
100回大会が教員としての最後の花園となった御所実業・竹田監督(撮影:斉藤健仁)

 1月9日(土)、桐蔭学園(神奈川)の見事な連覇で幕を閉じた「花園」こと全国高校ラグビー大会。100回目の記念大会ということで例年より12校多い63校が出場。ただコロナ禍の影響で、62試合行われることもあり、全試合無観客での開催となった。

◇竹田監督、教員生活最後の花園

 100回目の花園で、耳目を集めた名将がいた。公立校ながら花園準優勝4回の強豪・奈良県立御所実業(奈良)の竹田寛行監督(60歳)である。36年間の教師としての最後の花園だった。

 脇町高(徳島)でラグビーを始め、天理大、奈良クラブで活躍したLO、NO8だった。強豪・大淀高でサッカー部のコーチに就任し、サッカーに染まりそうになり「ラグビーが教えられるならどこでもいい」と異動を希望。念願叶って1989年に御所実業(当時は御所工業)に赴任、部員2人からのスタートだった。

 優勝6回を誇る県内のライバル・天理高の展開ラグビーに対抗するために「モール」を徹底的に磨き、1995年に花園初出場。今大会も25回連続の対戦となった天理高との決勝で0-14とリードされたが、19-14と逆転勝利し2大会連続13回目の花園出場を決めた。

◇コロナ禍でも強化を進めて花園の舞台へ

 前回大会の花園。決勝まで進んだ御所実業は0-14とリードしたが、そこから桐蔭学園に23-14と逆転されて、4度目の挑戦もシルバーメダルに終わった。「(昨年の)1月7日、桐蔭学園に負けて、それを忘れないうちにみんなでやろうとしたが、すぐに切り替えようとすることもできず、近畿大会も弱いチームだった」(竹田監督)

 指揮官の言葉通り、昨年3月の近畿大会では、初戦こそ勝利したが2回戦で大阪朝鮮高(大阪)に5-20、5位決定戦準決勝でも常翔学園(大阪)に0-26で敗れた。近畿大会後は、コロナ禍の影響で「まるまる3ヶ月、練習ができなかった」。と同時に「サニックスワールドユース」、ブロック大会、国体も行われることなく、それがチーム作りに響いたという。

 それでも練習再開後、御所実業は体作りを含めて、少しずつチーム力を上げていく。ゲームをコントロールするSH(スクラムハーフ)とSO(スタンドオフ)は「野球で言えばピッチャーとキャッチャー」が持論の竹田監督は、昨年度までWTBだった安田昴平(3年)をSOに上げて、SH登根大斗(3年)とハーフ団を形成する。予選決勝の天理との対戦も下馬評は御所実業の方がやや低かったかもしれないが、それでも勝ちきって花園への切符を手にした。

2回戦で、大きな声で指示を送る竹田監督(撮影:斉藤健仁)
2回戦で、大きな声で指示を送る竹田監督(撮影:斉藤健仁)

◇ベスト8で優勝した桐蔭学園に力負け

 過去9年間の成績により奈良県代表の御所実業はシード校に選出。竹田監督は「シード校の責任や、対戦させていただいたチームの強さをもらいながら、だんだん上がっていって、チーム力を上げていくこと」をテーマに、教師生活最後の花園に臨んだ。

 かねて「花園を考えて、1年間、プランニングしている」と話していた竹田監督にとって、コロナ禍で迎えた今大会は、今年度初めての全国大会だった。「初めての大会に照準を合わせてチームを作るとどうしてもチーム力が上がらない」という指揮官の言葉通り、調子はなかなか上がらなかった。

 1回戦は、いきなり府県予選2位チームが競ったオータムチャレンジを勝ち抜いた報徳学園(兵庫)と対戦、24-5で勝利した。2回戦では関東大会準優勝の國學院栃木(栃木)に苦戦するものの、伝統のモールを軸に戦い12-5で逆転勝利を飾った。続く3回戦も東海大相模(関東ブロック/神奈川)に手を焼いたが21-12で勝利し、なんとかベスト8に駒を進めた。

 ただ、コロナ禍で時間がなく、思うようなラグビーができていないチームに対し、例年より竹田監督が指示する声が大きく聞こえていたような気がした。そして抽選の結果、準々決勝で昨年度の決勝の相手だった桐蔭学園と激突する。しかし、結果的に連覇した相手にリベンジどころか、8トライを奪われ7-50と力負けしてしまった。

桐蔭学園に力負け。今大会はベスト8で終わった御所実業(撮影:斉藤健仁)
桐蔭学園に力負け。今大会はベスト8で終わった御所実業(撮影:斉藤健仁)

◇「逃げないで最後までやり切ったね」と褒めたい

 落胆の色を隠せなかった竹田監督は「(3回戦までの疲労は)仕方がない。(メンバーの交代も)うちは公立学校なので選手層はそんなに厚くないので(できなかった)。やりたいこともやらせてもらえなかった。本当に力の差を感じました。ボールを動かすこともできなかった」と唇を噛んだ。

 教師生活最後の花園での試合が終わり、竹田監督は「選手たちは第1グラウンドに帰ってきて、最後までピッチに立って、本当に頑張って一生懸命、最後までやり通してくれた。教師として最後(の試合)だったのですが、選手たちはこれからの人生の方が長いので『よく頑張ったね。逃げないで最後までやり切ったね』と褒めて、送り出してあげようと思います」と前を向いた。

 悲願の初優勝を狙った御所実業、そして竹田監督にとって13回目の花園はベスト8で大会を終えた。御所実業を率いた竹田監督の花園での通算成績は29勝13敗1分、準優勝4回、ベスト4が2回、ベスト8が2回となった。

◇花園は「自身を成長させ、子どもたちも気づける」場所

 あらためて、竹田監督にとって花園とはどういう舞台だったかとたずねると「目標を持ってやることができ、僕自身も成長させてくれる時間です。いろんな人が支えてくれること、そして教師がなんぼ口で言うよりも(子どもたちにとっても)多くのことに気づける時間だと思います」と話した。

 ただ竹田監督の挑戦は今大会で終わりではない。「教師はもう終わりですが監督は私がやります」と話すように、指揮官は継続する意向だ。

「2年生は多く起用しましたが、今年は1年生を起用することが難しかったことは(来期以降に)響いてくると思います。反省しないといけないことがたくさんあります。まずは体づくりからやらないといけないかな」(竹田監督)

 常々、「ラグビーは人間性が出るスポーツ」と話す竹田監督と「公立校の星」御所実業。部歌(※)に「跳ね返されては 立ち上がる いつかつかむぞ 栄光の旗」とあるように、今後も花園30勝目、そして初優勝を目指す挑戦は続いていく。

※1995年度、初の花園出場時、当時の数学の先生が作詞して作られたのが御所実業(当時は御所工業)ラグビー部の部歌の「御高節」だ。

御高節

一 道標なくした 俺達が

  やっと見つけた この道で

  ラグビーバカが なぜ悪い

  うさぎとカメの 競争と

  夢砕かれたこともある

  いつかつかむぞ 栄光の旗

  御所高ラグビー 魂こがす

  そんな俺達 御高節

  そんな俺達 御高節

二 泥にまみれる 辛苦の日

  やめたい気持ち 亡き友と

  空を見上げて 語り合う

  高くそびえる 白い壁

  跳ね返されては 立ち上がる

  いつかつかむぞ 栄光の旗

  御所高ラグビー 魂こがす

  そんな俺達 挑戦者

  そんな俺達 挑戦者

三 花園の風 心地よく

  幾多の激闘 胸の内

  夢見たこの地に 我立てり

  友を信じて パスを出す

  心と心を つなぎゆく

  いつかつかむぞ 栄光の旗

  御所高ラグビー 魂こがす

  そんな俺達 日本一

  そんな俺達 日本一

竹田監督は言葉を大事にしており、部室脇には四字熟語などが並ぶ(撮影:斉藤健仁)
竹田監督は言葉を大事にしており、部室脇には四字熟語などが並ぶ(撮影:斉藤健仁)

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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