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「早慶戦」で早稲田大が70勝目!SO吉村らが戦略的なハイパントキックで勝利に導いた

斉藤健仁スポーツライター
ハイパントキックを蹴る早稲田大SO吉村(撮影:斉藤健仁)

 11月23日(月・祝)、東京・秩父宮ラグビー場で、関東大学ラグビー対抗戦の「伝統の一戦」の一つ、「早慶戦」こと早稲田大(5勝0敗)と慶應義塾大(4勝1敗)の一戦が行われた。優勝も争っている両者の対戦ということで、コロナ禍で入場制限が行われている中でも、チケットは完売、9531人の観客が集った。

 結果は、相手のディフェンスに手を焼いたシーンもあったが3トライを挙げた早稲田大が22-11で勝利し、開幕から負け知らずの6連勝を達成。12月6日(日)の明治大との「早明戦」で引き分け以上で優勝が決まる。

 早稲田大のキャプテンのNo8丸尾崇真(4年)が勝因について聞かれて「仕掛けの部分を大事にし、自分たちでいくという気持ちを見せて戦ったところと、ディフェンスの部分で我慢し続けられたところが勝利につながった」と言えば、相良南海夫監督も「慶應の激しいディフェンスを想定した練習を日々やってきた。練習したことが今日の試合の中で我慢につながったし、圧に負けずにボールキープできた」と振り返った。

 監督がいう「慶應の激しいディフェンスを想定」とキャプテンが話した「仕掛け」は、早稲田大が自陣であまりボールをキープしないことと、自陣22m~自陣10mラインあたりからのハイパントキックにあった。

 5-3となった直後の前半24分、慶應義塾大のキックオフから早稲田大は自陣からキックを蹴らずに展開したが、自陣22mラインを越えたあたりで、慶應義塾大のFL山本凱(3年)にジャッカルされてピンチを迎えてしまった。

 トライこそ許さなかったが、このプレーの反省からか、前半25分以降、早稲田大学は自陣22mから自陣10mラインのアタックでは、この試合でMOM(マン・オブ・ザ・マッチ)に輝いたSO吉村紘(2年)、SH小西泰聖(2年)、後半30分過ぎから初出場したSO伊藤大祐(1年)も含めて、ハイパントキックを徹底して選択し続けた。

 もちろん相良監督が言うように「準備」していたプレーだった。

 まず、一般的に自陣22mを越えた置からハーフウェイラインや相手陣の10mラインあたりを狙うハイパントキックを選択する理由としては……

(キックを蹴った後、チェイスする選手がいる状況が前提であり、早稲田大はキャッチする相手に対して3人ほどがしっかりプレッシャーをかけていた)

1  再獲得できれば、相手のディフェンスがセットされていない状態(=アンストラクチャー)で、ハーフウェイラインから大きなチャンスとなる(20mほどの飛距離、3~4秒のキックが再獲得する可能性が高いとされている)

2  相手がキャッチした直後にタックルし、カウンターラックからターンオーバーを狙うことができる

3  もし相手にキャッチされても自陣のゴールラインまで50mあり、ディフェンス側としてはすぐにトライされる可能性は少ない。

といった利点が挙げられる。

 また早稲田大としては、慶應義塾大学が武器とするディフェンスの時間を少なくするといった狙いもあったことは明白だ。

 慶應義塾大の最大の得点パターンはHO原田衛(3年)が8トライを挙げているようにゴール前からのモールだ。早稲田大も相良監督が就任して以来、ディフェンスからチームを作っており、ゴールラインまで50mまであればなかなか得点は許さないという分析もあったはずだ。

 もうひとつ、WTB&FBのバックスリーの体格と経験値の点でも早稲田大の方が有利だった。

 早稲田大のFBを務めた身長183cm/体重90kgの河瀬諒介(3年)は1年から試合に出ており、WTB槇瑛人(2年)も身長176cm/体重86kgで、経験豊富なWTB古賀由教(4年)も身長175cm/体重83kgだ。

 一方の慶應義塾大のFBは身長174cm/体重74kgの山田響(1年)、WTBは身長177cm/体重85kgの佐々木隼(2年)と身長168cm/体重76kgの沖洸成(4年)の2人が先発だった。

 さらにアタッキングチームの早稲田大としては、敵陣でボールを継続すればトライを取り切る自信もあったはずだ。

 この早稲田大の戦略的なハイパントキックがすぐに功を奏する。

 前半33分、早稲田大SO吉村が自陣30mほどから3度目のハイパントキックを蹴る。慶應義塾大陣10mライン付近に上がったキックを慶應義塾大FB山田がワンバウンドしてからキャッチしてしまう。そこに早稲田大WTB古賀が鋭いタックルし、SO吉村、キャプテンNo8丸尾らも素早く集まってラックを越えて、ボール奪取に成功する。

 そこから早稲田大はボールを大きく左、右に展開して、最後はFB河瀬のパスを受けたWTB槇が右隅にトライ、SO吉村が難しい角度のゴールを決めて12-3とリードを広げることに成功した。

 後半も同様の戦いを続けた早稲田大は後半12分、10mラインアウトからモールを組んで、SH小西がボックスキックを蹴り、キャッチした相手にWTB古賀がプレッシャーをかけた。この直後、慶應義塾大SH上村龍舞(4年)もボックスキックを蹴り返すが、そのボールを早稲田大SO吉村がキャッチ。その吉村に慶應義塾大は空中でタックルしてしまい反則してしまう。

 早稲田大は相手陣奥に蹴りだし、その一連の攻撃から、16分、FB河瀬がトライを挙げて22-11とリードを広げ、そのままノーサイドを迎えた。

 自分たちの長所と武器、そして相手の長所、短所を分析した結果、戦略的に戦った早稲田大が「早慶戦」で記念すべき70勝目(20敗7分)を挙げて、2シーズンぶりの対抗戦優勝に大きく近づいた。

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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