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次の米アカデミー賞で、宮崎駿と新海誠のWノミネートの可能性もある? その他に日本映画は…

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(C)2023 Studio Ghibli

次のアカデミー賞に向けて、さまざまな映画賞の発表が始まり、今年度の傾向が見えてきているなか、先日、前哨戦のひとつ、ニューヨーク映画批評家協会賞で宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』がアニメーション賞を受賞。このカテゴリーでのトップグループに躍り出た。

今年度の長編アニメーション映画では、『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』が最強力とされていたので、このニューヨークでの受賞は快挙である。『君たちはどう生きるか』はアメリカの配給会社(GKids)も積極的に賞のキャンペーンを行っており、このまま行けば、アカデミー賞での長編アニメーション賞ノミネートは「固い」状況だ。英語タイトルは『The Boy and the Heron』。

現在(12/6時点)で、業界紙Varietyのアカデミー賞予測では、『君たちはどう生きるか』が長編アニメ部門で『スパイダーマン〜』に次いで2位につけている。3位はディズニー/ピクサーの『マイ・エレメント』、4位はNetflixの『ニモーナ』、5位がディズニーの『ウィッシュ』というランク。

6位以下にも『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』といった大ヒット作が続いているが、注目したいのが新海誠監督の『すずめの戸締まり』である。英語タイトルは『Suzume』。現在、Varietyの予想では12位。日本では2022年の作品だが、アメリカでは同作は2023年公開という扱い。こちらもアメリカの配給会社(Crunchyroll)が賞レースのキャンペーンを行っており、11月には新海監督がロサンゼルスでQ&Aイベントも行っている。12/4に行われたクリティックス・チョイス・アワードの「セレブレーション・オブ・シネマ&テレビジョン」では、新海誠監督がアニメ部門で表彰された。

他の作品を考えると『すずめの戸締まり』がアカデミー賞の長編アニメーション賞にノミネートされる確率は、あまり高くない。しかし今後の評価によっては「なくはない」という状況。宮崎駿、新海誠という日本が誇る2人の巨匠が同じ部門で最高賞を争うという夢のような構図が生まれるわけである。そこに「マリオ」が加わる可能性も。

また『THE FIRST SLAM DUNK』も今年度の賞の対象になっているが、こちらは現在の予想では16位。賞レースのキャンペーンもそこまで積極的ではないようなので、ノミネートの可能性は限りなく小さそう。

2023年4月、『Suzume』のアメリカプレミアでの新海誠監督
2023年4月、『Suzume』のアメリカプレミアでの新海誠監督写真:REX/アフロ

近年のアカデミー賞では、このように長編アニメーション賞、そして国際長編映画賞のカテゴリーで日本映画の動向が注目されているが、後者でも今年度は有力。日本代表の『PERFECT DAYS』が国際長編映画賞でノミネート圏内の5位の予想になっている。同作はカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞し、世界的な評価を高めた結果だが、その男優賞の役所広司は主演男優賞部門で17位の予想。基本的に英語圏以外の俳優のノミネートは難しいので(あの『パラサイト 半地下の家族』も演技賞ノミネートはゼロだった)、この予想は順当でもある。

同じくカンヌで受賞(脚本賞)した是枝裕和監督の『怪物』も、賞レースのキャンペーンを行っているものの、アカデミー賞では国際長編映画部門に入れないので(各国1本が代表)、アカデミー賞以外の前哨戦を狙うことになりそう。ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞に輝いた濱口竜介監督の『悪は存在しない』は北米での劇場公開時期から、2024年度以降の対象となる。

さらに、現在はアメリカ人だが、日本出身のカズ・ヒロが『マエストロ:その音楽と愛と』で、メイクアップ&ヘアスタイリング賞へのノミネートが確実視され、受賞も有力(現在、予想ランクでは1位)。ブラッドリー・クーパーを名指揮者、レナード・バーンスタインに変身させたカズ・ヒロは、受賞すれば『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』『スキャンダル』に続いて3つめのオスカーとなる。

また、先日亡くなった山田太一氏の「異人たちとの夏」を原作にした、アンドリュー・ヘイ監督の『異人たち』は、いくつかの部門でノミネートが期待されている。中でも脚色賞にノミネートされれば、日本の原作をイギリスにどのように移したか、そのプロセスが日本のメディアでも大きく取り上げられることだろう。

2年前の『ドライブ・マイ・カー』による作品賞など4部門ノミネート、国際長編映画賞受賞のような大快挙とまでは行かないにしても、日本映画としては“それなりに”楽しみが多い今年度のアカデミー賞である。

第96回アカデミー賞は、ノミネート発表が2024年1月23日、授賞式は3月10日(ともに現地時間)。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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