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結局『オッペンハイマー』は日本公開されるのか? 現在も未定。34年前、同じ題材の映画もやはり…

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『オッペンハイマー』のUKプレミア。右から2人目が主演のキリアン・マーフィ(写真:REX/アフロ)

日本でも話題になった「バーベンハイマー」の騒ぎから、すでに2ヶ月が経とうとしている。原爆の父と呼ばれる科学者を描いた『オッペンハイマー(原題)』は、7月21日に北米など各国で公開され、ヒットを記録。特に北米では2023年の年間ボックスオフィスで5位(9/29現在)という高いランクにつけており、上映時間3時間という長尺、そのテーマ性を考えれば、異例の大成功の興行となった。

バーベンハイマー騒動の頃、『オッペンハイマー』の日本公開がいつになるのか……という話題も上がっていた。通常、メジャースタジオのこの規模の作品なら、北米と同時、または少し遅れての日本公開が常とされるが、さすがに広島・長崎への原爆投下の日、終戦記念日を控えた時期の日本公開が難しかったのはよくわかる。映画ファンやメディアの間でも「では秋くらいに」と期待の声もあった。しかし9月末の時点で、公開の情報は出ていない。筆者も関係先に探りを入れているものの、いまだに不明。いろいろ聞くと、日本の配給会社の意向というより、(世界配給を手がける)ユニバーサル本社の判断にかかっているようだ。10月末の東京国際映画祭あたりでお披露目というチャンスも、現時点ではなさそう。

ただ、水面下では公開に向けての動きが続いているかもしれず、突然、日本公開が発表される可能性もある。まったくわからないのが現状だ。

原爆という日本人にはセンシティヴな題材ながら、『オッペンハイマー』は興行だけでなく作品への評価が高く、これからアカデミー賞に向けてスタートする数々の映画賞に絡んでくるのは確実視される。作品賞や監督賞、オッペンハイマー役のキリアン・マーフィの主演男優賞など主要部門でアカデミー賞に入ってくるようなら、日本公開に向けての機運も高まるはず。そうなると年末、年明けあたりに公開されるのがベストかもしれないが、それも希望的予想でしかない。

難しいのは、『オッペンハイマー』がIMAXで観るべき作品という点。たとえば以前、その内容(日本兵と米兵捕虜の描き方など)が問題視され、公開も危ぶまれたアンジェリーナ・ジョリー監督作『不屈の男 アンブロークン』などは、結果的に大きな規模の公開にはならなかったので、いろいろ騒がれならも、悪い言い方をすれば「ひっそりと」公開することができた。完成した作品も、日本人の視点からそこまで問題視する描き方ではなかった。同作は『オッペンハイマー』と同じユニバーサルの作品。ユニバーサルの作品は日本では東宝東和で公開されるが、東宝東和が見送ったものは他社配給で公開されるケースも多く、『アンブロークン』も別会社で日本公開された。

『オッペンハイマー』はクリストファー・ノーラン監督がIMAXでの上映・鑑賞を想定して作ったもの。IMAXスクリーンはそれなりに大きなキャパ(座席数)なので、基本的に1回の上映で集客が見込める作品に向いている。日本における『オッペンハイマー』の集客力はどの程度なのか、そのあたりも未知数と考えられているのかもしれない。ただ、『アンブロークン』に倣うように小規模で公開されたら、作品にとっては不幸でもある。

しかし、何としても日本で、IMAXで公開してほしい。ある意味で最も『オッペンハイマー』を観るべきなのは日本の観客であろう。こうして声を上げ続けることで、その声が届けば良いのだが……。

今から30年以上前の1989年。やはりアメリカが日本に原子爆弾を落とすためのマンハッタン計画を描いた映画が作られていた。もちろんオッペンハイマーも主要人物として登場。原爆を作らせた軍人の論理、それに対する科学者の論理、彼らの家族や周囲の人々の思いも絡めたドラマが描かれた。ポール・ニューマン、ジョン・キューザックら一流キャストが集まり、監督は『キリング・フィールド』『ミッション』でアカデミー賞にノミネートされたローランド・ジョフィ。音楽はエンニオ・モリコーネ。製作と配給はメジャーのパラマウントと、キャスト、スタッフ、配給のレベルを考えれば、通常なら日本でも劇場公開されるスケールの作品だったが、やはり原爆をテーマにしていたからか日本では劇場未公開。ビデオスルーの扱いを受けた。タイトルは『シャドー・メーカーズ』。原題は『Fat Man and Little Boy』。日本では現在、TSUTAYA DISCASでレンタル視聴できる。

AmazonプライムHPより
AmazonプライムHPより

『Fat Man and Little Boy』はAmazonプライムに入っているが、残念ながら日本からは視聴できない。

もしこのまま『オッペンハイマー』が日本で劇場公開されずに終わったら、DVDや配信へのスルーになってしまうのか。現時点で公開が発表されていないので、その可能性もなくはない。

しかし、それだけは避けてほしい……というのが映画ファンの願いでもある。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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