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バービー、日本で「初登場8位」は残念か、予想外か、順当か?

斉藤博昭映画ジャーナリスト

北米のボックスオフィスでは4週連続1位を記録し、あの『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を抜いて年間トップになるのも時間の問題となった『バービー』。

日本ではその北米4週目に公開。週末の動員ランキングは8位となった。強力作品がひしめく夏休みであり、スクリーン数の確保という点で、この結果ではあるが、正直、他国のように初登場1位は無理でも、3〜4位くらいに入る気がしたので、やや残念な気もする。とはいえ、「満席でにぎわっていた」などという書き込みも散見されるので、今後の推移に期待したいところ。

同じアジアでは、中国が予想外のヒット韓国がイマひとつと、『バービー』の興行は極端に結果が分かれている。

ここ日本では「話題」という点で、『バービー』は近年のハリウッド作品として異例の様相を呈していた。「バーベンハイマー」のファンアート騒動は、SNSから火が点き、当初は一部の炎上で終わるかと思いきや、TVや新聞などメディアも大きく取り上げるようになった。この流れで「観たいと思っていたけど、行くのをやめた」などという主張も多く目にするようになった。一方で、炎上騒動によって『バービー』の知名度が異様なほどアップしたのも事実で、作品としては注目されるようになった。

そもそも、元ネタの「バービー人形」は日本ではポピュラーとは言えない。もちろん知識としてわかっている人は多いが、「スーパーマリオ」と違って、バービーで遊んでいた子供たちは、日本でそれほど多くなかったので、映画になったとしても、もともと日本で大ヒットのポテンシャルも少なかったはず。

また『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が他国に比べ、日本が特大ヒットに至らなかったことからわかるように、ここ数年のハリウッド作品の日本興行における難しさで、当初、『バービー』への期待もそれほど高くなかったことだろう。

しかし、アメリカなどすでに公開された多くの国で、一般観客の評判も高く、日本でも公開前に観たマスコミによる評価は上々。バーベンハイマー騒動でネガティヴな印象を与えられた『バービー』に対し、「今こそ観るべき映画」という記事も多く見受けられるようになった。ただ、その高評価が日本では足枷になることもある……と考えさせられる。

ピンクの世界に彩られ、観ているだけでテンションが上がる『バービー』だが、物語に込められたのはフェミニズム、ジェンダーの役割、さらに男性側の生きづらさ、といったテーマ。心ときめくビジュアル、エンタメ性に溢れたノリの良さに、そうしたトピックを絶妙に絡めたグレタ・ガーウィグ監督の手腕が絶賛されているが、テーマ性が強調されることで、日本では“引かれる”という傾向も感じる。

公開直後に劇場で観た、「GANTZ」などの人気漫画家、奥浩哉氏のSNS投稿が物議を醸したことも話題にはなりつつ、『バービー』の社会派的側面の強調につながったと言えそう。

昨年の『トップガン マーヴェリック』や、今年の『スーパーマリオ』のように、日本でも世界同様に大ヒットしたハリウッド作品は、社会的テーマが限りなく薄め。『アバター』続編は、やや濃いめ。その意味で『バービー』は微妙なラインであったと感じる。

『バービー』の週末3日間の動員は12万6916万人で、興行収入は1億9093万円。さまざまな物議は差し置いて、このタイプの洋画では想定どおりの数字とも見てとれる。

しかし繰り返すが、ここまでエンタメ性を追求しながら、監督が伝えたいメッセージを盛り込み、それを素直に受け止められる映画は少ない。その意味で少しでも日本で動員数を伸ばしてもらいたい、というのが正直なところだ。

『バービー』

全国ロードショー中

配給:ワーナー・ブラザース映画

(c) 2023 Warner Bros, Ent. All Rights Reserved.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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