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「バービー」炎上騒動は、まさに「作品に罪はない」の典型。主演スターの来日中止も結果的に…

斉藤博昭映画ジャーナリスト
バービーが暮らす世界はピンク色にあふれている

日本では8/11公開の『バービー』。宣伝が盛り上がるこの時期に、主人公バービーのキャラと原爆のキノコ雲を合成させたファンアートを、米国の『バービー』公式アカウントが好意的に返信したことが、日本では大きな波紋を呼び、ナチスや日韓問題など、さまざまなセンシティヴな歴史問題にも絡めて「当事者の国と、そうでない国の受け止め方」の違いにまでSNS上で話が飛躍するなど、しばらく騒動は収まりそうにない。

バービーとキノコ雲の合成の話題だけを見聞きして、映画『バービー』が原爆を軽々しく描いているかのように勘違いしてしまう人もいるかもしれないが、そうではない。おもにアメリカの映画ファンが、同日公開の『オッペンハイマー』と絡めた宣伝戦略に乗って、両者をマッチングさせる遊びが流行っているだけで、当初は日本でもその動きが「まぁ遊びだから」と寛容的に受け止められつつ、映画会社の公式、つまり宣伝側も“乗って”しまったのが騒動の大きな要因だ。

映画『バービー』は、一瞬映る世界地図に中国寄りの表現があって、ベトナムで上映禁止になるなど波紋を呼んでいたが、今回の騒動で日本の観客にどんな影響を与えるのかーー。

本来なら8/1には、主演のマーゴット・ロビーらが来日し、ピンクのカーペットによる豪華なイベントが行われる予定だったが、全米映画俳優組合のストライキによって中止になった。直前の「ミッション:インポッシブル」最新作でのトム・クルーズと同じ流れだ。ただ、今回の騒動が起こっている中で、もし来日していたらイベントも炎上案件となる可能性もあったかも……などと考えてしまう。

監督のグレタ・ガーウィグは予定どおり来日を果たし、明日(8/2)には吹替版を担当した高畑充希らとプレミアに登壇する予定だが、メディアの報道も含め、その動向が気になるところ。

『バービー』は全米はじめ世界で大ヒットスタートを記録し、日本でもかなりの期待が高まっていた。ピンクを基調とした「かわいい」世界は、ビジュアル的に強くアピールして、ハリウッド映画が不振な日本でも、大ヒットのポテンシャルがあると思われた。

しかも、この『バービー』、単なる「かわいい世界」だけではなく、ストーリーやテーマも時代の先を行くもので、観た人には大絶賛で迎えられている。現時点で、映画会社とのルールによって日本のメディアではレビュー的な記事を出せないが(これは『バービー』に限らず、他の映画でもよくあること)、予想外の方向で心に刻まれる傑作になっている。ひょっとしたらアカデミー賞などに絡む可能性もある。

このタイミングでの今回の騒動は、日本の観客にとって残念でならない。おそらく予定どおり8/11に公開されるだろうが、逆に作品への注目が集まって、観た人の評判が広がり、ヒットにつながってほしいとは思う。「作品に罪はない」という感覚を、今回ほど強く感じたこともない。

『バービー』

8月11日(金)全国ロードショー

配給:ワーナー・ブラザース映画

(c) 2023 Warner Bros, Ent. All Rights Reserved.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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