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いま改めて人生を丁寧に生きていきたい。死をも覚悟した状況を演じ、竹野内豊が強く思うこと

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(撮影/筆者)

かつてない災害を目の当たりにしながら、自分では何もできないもどかしさに苛まれる──。今から12年前の2011年、東日本大震災の時に、このような感覚を味わった人は多かっただろう。

竹野内豊も、そうだった。

「3.11の時、流れてくるニュースの映像を見ながら、自分の無力さを痛感しました。『何かできないのか』という、ひじょうに複雑な気持ちで……。もちろんそれは僕だけではないでしょうけど」

それから10年以上が経ち、竹野内には「できること」が巡ってきた。俳優として、あの日を伝えることだ。

福島第一原発をこの目で確かめたかった

6/1に配信がスタートするNetflixのシリーズ「THE DAYS」は、あの3.11で未曾有の危機に直面した福島第一原発を、現場にいた人々の目線で描いた作品。そのキャストの一人として、竹野内豊が名を連ねている。俳優人生の中で、おそらく本作のもつ意味も大きいと察せられる。

「自分の俳優人生における意味とかではなく、あの事故を知らない世代にも伝え続けていくという意義で、本作に参加できたことに感謝しています。あっという間に10年以上が経ち、僕自身、あの事故を改めて深く考えるきっかけにもなりました。あのとき僕と同じように無力感に包まれた人に、何かを感じてほしい。たった一人の心にでも届けられたら……という気持ちです」

撮影の前に、竹野内がどうしてもやっておきたかったことがあった。それは福島第一原発をこの目で確かめること。

「もちろんニュースやメディアの情報で『立入禁止区域』というのは頭では理解していました。でもその立入禁止区域から原発に向かう風景をロケバスの窓から眺めたとき、本当に時間が止まっていることを実感できたのです。あの感覚は衝撃的でした。『THE DAYS』にも立入禁止区域の風景が出てきますので、世界中の人が何かを感じてくれると信じたいです」

最悪の事態を阻止するべく、さまざまな場所での攻防が同時進行する「THE DAYS」だが、竹野内がいるのは“最前線”。福島第一原発の中央制御室だ。全電力喪失という状況下で、制御不能となった原子炉に対し、格納容器の破裂を防ぐために人力でガス放出作業を行うなど、まさに死と隣り合わせの現場。

竹野内が演じる中央制御室のリーダーは、危険な任務を部下に託すうえで究極の選択にも迫られる。
竹野内が演じる中央制御室のリーダーは、危険な任務を部下に託すうえで究極の選択にも迫られる。

その人の「瞳」から真実の欠片を感じようとした

その中央制御室でリーダーシップをとるのが、竹野内が演じる当直長である。あの極限状況を、演技でどう再現すればいいのか。そんな俳優陣の助けになったのが、事故当時、作業員だった遠藤英由氏だったという。

「あの事故は(放射能という)目に見えない恐怖もありますし、どのように真実味を表現できるのか、台本を読んだだけでは手がかりがつかめない部分もあったので、遠藤さんの言葉が頼りになりました。遠藤さんの口から直接『死』という単語は出てきませんでしたが、何かを覚悟したとき、人間は恐怖を超越し、意外なまでに粛々と、淡々とことを進めるものだと聞かされ、作業員たちが死を覚悟した心情を僕は勝手に受け止めた気がします。僕の役は当直長ですから、理性を保ち、変に感情的になってはいけないと心に決めました。

 そして僕は、冷静に当時を振り返る遠藤さんの瞳の奥を見ていました。実際の現場を見ることができなかった僕は、遠藤さんの瞳から真実の欠片(かけら)を感じ取ろうとしたのです。それを少しでも自分が表現できたら……という思いでしたね」

電源が失われる状況なので、基本的に中央制御室のシーンはダークで閉塞感が漂い、作業員たちの決死の思いが充満する。演じる側も、息が詰まるような緊張感を味わっていたに違いない。

「電子掲示板に至るまで、とにかくリアルな中央制御室のセットを目にして、本作に関わった人の責任や使命感が伝わってきました。ですから僕らも演技に集中できましたし、実際に防護服やガスマスクを着けての演技では、肉体的な過酷さもあって、死と隣り合わせで作業していた方々の姿を自然と思い浮かべられたのです。最終手段としてベント(格納容器のバルブを開ける作業)の指示を出したり、大切な職員を二度と戻って来られない任務に送り出したりしますが、それらの判断が正解かどうかもわからない。演技とはいっても、非常に沈痛な瞬間が何度もあったのは事実です」

恐怖と緊張の時間が続く中央制御室のシーンはリアル感満点だ。
恐怖と緊張の時間が続く中央制御室のシーンはリアル感満点だ。

この「THE DAYS」を観る人は、「あれからもう12年か」、あるいは「まだ12年か」など、それぞれ過ごした時間を重ね合わせてしまうはずだが、では竹野内豊にとって、この12年はどんな時間だったのだろう。

「12年って長いようで本当に短くて、振り返れば自分は仕事ばかりの人生だったような気がします。そうした日々で、いつの間にか本来の自分を見つめ直す時間は、あまり取れていませんでした。あの震災で何より命の尊さを感じたことを思い出し、いま改めて、仕事だけではなく日々の人生、つまり自分の人生を丁寧に生きていく必要性を実感しています。自分自身の自由な時間、何かに縛りつけられない部分を大切にしてあげることで、大きな物として返ってくるんじゃないでしょうか」

俳優生活も間もなく30年。その喜びについて「独特の仕事。毎回もがき苦しみながら演じつつ、作品を観た人に少しでも何かを感じてもらえること」と語る竹野内。「THE DAYS」にどのような反響があるのか。それは今後の俳優人生の大きな糧になることだろう。

たけのうち・ゆたか 1971年生まれ、東京都出身。94年俳優デビューし、以降、TVドラマ、映画で活躍。近年の出演作では、ドラマ「さまよう刃」(22/wowow-TV)、映画には 『シン・ゴジラ』(16)、『シン・ウルトラマン』(22)、『イチケイのカラス』(23)、『シン・仮面ライダー』(23)など。22年、京都国際映画祭で三船敏郎賞を受賞。23年、待機作には映画『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』、『唄う六人の女』が公開予定。

HAIR&MAKE/須田理恵

スタイリスト/下田梨来

『THE DAYS』は6月1日(木)よりNetflixにて世界独占配信

Netflix作品ページ:https://www.netflix.com/title/81233755

ワーナー・ブラザース公式サイト:https://warnerbros.co.jp/tv/thedays/

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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