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歌舞伎町の新名所。「映画4500円」は高い? 2回分の価格と感じつつ、思わぬ空気感も

斉藤博昭映画ジャーナリスト
映画館とは思えないラグジュアリーなロビーラウンジ

映画を1本観る料金が、4500円。しかしそのサービスは上質ーー。

東京・新宿の歌舞伎町に4/14にオープンした、48階建ての「東急歌舞伎町タワー」。その9〜10階の「109シネマズプレミアム新宿」は、名称が示すとおり、プレミア感を売りにするシネコン。基本料金(クラスA)は1人4500円と、通常の映画館の倍以上の料金が話題を呼んでいる。しかも中央列のクラスSに至っては、なんと6500円! 「高すぎるのでは?」というニュースも出ているほど。

全席プレミアムシートとはいえ、たしかに高い。しかしここ数年、シネコンでの「特別料金」は一般的になり、たとえばTOHOシネマズのプレミアラグジュアリーシートは追加料金が3000円で、一般入場料と足すと4900円になる。そう考えれば、この「プレミアム新宿」、お値打ち価格と言えるかも。

しかも「プレミアム新宿」の場合、入場料金にポップコーンソフトドリンク1杯が付いてくる。前出のラグジュアリーシートで同等のものを購入すると考えれば、断然安い。

早速、オープンの週末に訪れたところ、話題性もあってなかなかの盛況だった。4/16(日)の上映作品では、すでに前日の段階で『戦場のメリークリスマス』や『BTS Yet to Come in Cinemas』(無発声応援上映)が完売していた。『THE FIRST SLAM DUNK』や『RRR』も当日に売り切れ。坂本龍一の『Ryuichi Sakamoto:Playing the Piano 2022+』は1日5回上映にもかかわらずクラスSは完売状態だった。そもそも全席プレミアムシートのため、全8つのスクリーンのキャパ(座席数)は63128と、通常のシネコンの半分以下という感覚。完売しやすいのもわかる。

では、実際に映画を観る環境はどうなのか。シネコンの通常シートの最大2.3倍という座席は当然のごとくリッチな気分にさせる。前後左右の人との間隔も、かなりあって快適。観たい姿勢に自動的に合わせてくれるリクライニング機能も心地よい。クラスSは、このリクライニング機能が電動だが、クラスAで十分かと。

そして強く感じたのは、全席プレミアムシートということで、何となく場内全体がゆったりとした空気になっていること。通常シネコンのように部分的なプレミアムシートだと、そこに座ったとしても、自分から前の座席が満員でぎっしりの光景という場合もあり、やや落ち着かない気もする(逆に優越感に浸れる?)が、みんな一緒にちょっぴり贅沢な時間を過ごす感覚は、実際に体験してみてその居心地の良さが理解できた。

そんな環境なので作品にもより没入しやすく、どんな姿勢でも疲れないので、たとえば3時間の『RRR』のような長尺作品なら、身体に優しいし、コスパも悪くないかも。

同時に思うのは、この環境を一度体験してしまうと「じゃあ次回は通常の映画館の通常のシートで」と考えづらくなってしまうのでは……ということ。経済的に余裕がある人は別にして、もし4500円で1本の作品を観るのなら、ほぼ同額で2本を選び、より多くの映画を体験してもらいたいとも。

もちろん特別な作品、特別なシチュエーションなら、この109シネマズプレミアム新宿は絶賛オススメだろう。そこに一歩足を踏み入れると、ラグジュアリーなラウンジが広がり、これから観る映画へのときめきが高まるし、なんなら観た後にゆったり時間を過ごしてもいい。有料ではあるがバーカウンターでアルコールを頼み、映画の感想を語り合うことも可能。6500円のクラスSには専用のラウンジも用意されている。ちなみにトイレも高級感が漂う。

とりあえずチャンスがあれば是非!とアピールしつつ、やはり冷静に判断すると、映画1本4500円は「高い」と、複雑な思いでもある。

ラウンジの奥には名作の世界を体感できる空間も
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『2001年宇宙の旅』を思い出す人もいるのでは?
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ウイスキー山崎、モエ・エ・シャンドンなどバーのメニューは本格的。フレンチフライ、ホットドッグといったフードもある
ウイスキー山崎、モエ・エ・シャンドンなどバーのメニューは本格的。フレンチフライ、ホットドッグといったフードもある

TOHOシネマズ新宿のゴジラを望むラウンジからの景色
TOHOシネマズ新宿のゴジラを望むラウンジからの景色

入場料に含まれるポップコーンとドリンク
入場料に含まれるポップコーンとドリンク

トイレにはマウスウォッシュや爪楊枝なども
トイレにはマウスウォッシュや爪楊枝なども

※クラスAの料金は、109シネマポイント会員やファーストデイ(毎月1日)、障がい者手帳で4000円という割引料金も設定されている。またシアター6のScreen Xには700円の追加料金が必要。

・画像はすべて筆者撮影

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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