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今年のアカデミー賞、感動の瞬間は? インディ・ジョーンズの美しき再会に映画ファンは涙する

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

今年のアカデミー賞は、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の作品賞など7部門受賞で、ある程度、予想どおりの結果。

昨年はウィル・スミス事件が過剰にフィーチャーされたが、今年はオーソドックスな流れで、その意味でやや盛り上がりは控えめ。司会のジミー・キンメルによる冒頭の15分におよぶトークは、会場をあっためる意図はあったにしろ、はっきり言って長すぎて(実際に長すぎてステージから下ろされるような演出は笑えたが)、そこで停滞してしまった印象も。

ただ、映画ファンにとっては感動の瞬間が意外に多かったのも事実で、今年は「復活」「涙」が象徴的だった。

今年の授賞式で最も感動的だったのは、やはりキー・ホイ・クァンの助演男優賞受賞のスピーチだろう。すでに何度も各賞を受賞し、スピーチは慣れていたはずの彼も、やはりオスカーは特別。そのあまりの素直な喜び方、そして世界の多くの人に夢を与えるような言葉をメモを見ないで繰り出す姿に、心が揺さぶられた人も多いだろう。

プレゼンターとして登壇した前年の助演女優賞の受賞者、アリアナ・デボースが、キー・ホイ・クァンの名前を読み上げる前に涙で言葉が詰まっていたが、その姿も感動を加速させていた。

1980年代、『グーニーズ』『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』で子役として世界的人気を博すものの、その後、華やかな活躍からは遠ざかり、40年の歳月を経てオスカー受賞という大復活をとげたキー・ホイ・クァン。まさにハリウッドが大好きな劇的な運命を体現したわけである。

そしてキー・ホイ・クァンの喜びが再び最高点に達したのは、クライマックスの作品賞だった。作品賞のプレゼンターは、ハリソン・フォード。『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』で共演したハリソンが壇上に現れた瞬間、キーの満面の笑顔が映し出され、およそ40年もの時間が一気に縮んだような感慨に包まれた。さらに会場には『インディ』のスティーヴン・スピルバーグ監督もいて、その姿もカメラで抜かれ、映画ファンとしては微笑まずにはいられなかった。

写真:REX/アフロ

そして「復活」という点で、感動を誘ったのは、『ザ・ホエール』のブレンダン・フレイザーの主演男優賞受賞。『ハムナプトラ』シリーズなどでトップスターになったフレイザーだが、その後、自身の精神的問題(ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人映画記者協会の主要メンバーからセクハラを受けていたとされる)などもあり、キャリアがやや低迷。それが今回、特殊メイクの助けがあったとはいえ、巨体に変貌しての熱演でオスカーに到達した。会場にいた『ザ・ホエール』の共演者で、助演女優賞にノミネートされていたホン・チャウも、フレイザーの受賞に涙が止まらない。こうした純粋な涙の光景が今年のアカデミー賞授賞式で忘れがたいシーンだった。

フレイザーはもちろん、前述のキー・ホイ・クァン、そしてアジア系初の主演女優賞に輝いたミシェル・ヨーも含め、全体に受賞のスピーチで「素直な喜び」が強調され、ストレートに気持ちが伝わってきて清々しかった。逆に政治的、社会的メッセージは、近年のアカデミー賞としては控え目。そこがもう少し聞きたかった気もするが、授賞式として本来の姿を取り戻したとも感じる。視聴率低迷を危惧する声も多く聞かれ、その打開策も求められるアカデミー賞だが、映画ファンにとっては、この正統的なスタイルも悪くはないのである。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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