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日本の「凋落」、その原因を示す映画が立て続けに公開。暗い未来に危機感を抱くうえで必見ではないか

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『Winny』より

政治の世界を見ても、経済に目を向けても、日本という国が下り坂を転げ落ちている……。そんな空気を感じずにはいられない、ここ数年。その原因は当然、さまざまな方向から追究されてもいるが、思いもよらぬ「事実」に気づかされ、愕然としてしまうことも。そんな映画が続けて公開される。

映画を観に行って、日本の暗い未来を突きつけられる。そのような体験を歓迎しない人も多いだろう。しかし「知る」ことで、もしかしたら未来を少しでもいい方向へ持っていけると、考える人もいるかもしれない。その意味で、これらの映画は「希望」を与えてくれるとも言える。

3/10から公開が始まった『Winny』は、2004年、ファイル共有ソフトWinnyを開発した東大大学院助手の金子勇さんが逮捕され、裁判で争う物語。このWinnyは映画やゲームソフトをネット利用者に自動送信できることから、著作権法違反の幇助とされたのだが、この映画は、もうひとつの事件、愛媛県警の裏金問題も扱い、Winny事件との繋がりが見えてきたとき、国家や警察の恐ろしい闇が浮き上がってくる。それも、さりげなく静かに……。

つまり金子さんの逮捕は、ある意味、不当であったわけだが(結果的に7年の裁判で無罪が確定する)、プログラム開発で最先端を走っていた金子さんは裁判中はほとんどその才能を生かすことができず、裁判終了の1年半後に42歳の若さでこの世を去ってしまう。もし7年間の空白がなければ、現在の世界における日本のIT業界の立ち位置も変わっていたかもしれない。「たら・れば」の話だが、『Winny』を観れば、権力を守るために余計なもの、新たな能力は潰され、その結果、未来の大きな損失を生んだことを痛感させられたりもする。

『妖怪の孫』より
『妖怪の孫』より

その翌週、3/17に公開される『妖怪の孫』も、やはり日本の現在や未来に暗澹とさせられる作品である。故・安倍晋三元首相のドキュメンタリーで(妖怪とは祖父の岸信介を指す)、総理大臣が歴代最長の在任となったこの人物を、さまざまな角度から検証。当然のことながら、これまで広く伝播されなかった負の側面、遺産も露わになっていく。たとえばアベノミクスに対して、当の元首相はどう考えていたのか。また安倍政権における政策が、いかに未来的志向でなかったか。とくに電力や自動車産業における旧態依然の政策、そのデータには慄然とさせられる。

これは、いわゆる“反安倍”の作品なのか? もちろんその側面もあるが、現在の日本の状況を照らし合わせれば、その検証のしっかりとした材料にはなる。このまま、こうした政治が続くことの危機感を誰もが抱くことだろう。

さらに4月に入って公開される、人気俳優、横浜流星主演の『ヴィレッジ』も、現代社会の「負の縮図」ともいえる要素を突き詰めてくる。山あいの小さな村を舞台に、切迫する地方財政、ゴミ処理施設の功罪、さらにコロナ禍も重ねたくなる同調圧力……。こんな風にテーマを紹介すると、引いてしまう人もいるかもしれないが、『ヴィレッジ』はこれらを直接的に訴えるというより、濃密なドラマの中に取り込んだ印象。エンタメとして受け止めながら、無意識レベルで日本の現在/未来への問題を投げかけられる。

こうした作品が次々と公開されるのは、たまたまのタイミングではあるが、作り手側の今の社会への危機感が顕著になっているのは明らか。もちろん政治や経済の問題は日本に限ったことではない。しかし危機意識の薄さは日本では明らかであり、そこに少しでも早く気づく人が増え、何かの行動につながれば、未来は変えられる……。そんな希望を、映画がもたらすことができると信じたい。

『Winny』

TOHO シネマズほか全国公開中

(c) 2023映画「Winny」製作委員会

『妖怪の孫』

3月17日(金)より東京・新宿ピカデリーほか全国公開

(c) 2023「妖怪の孫」製作委員会

『ヴィレッジ』

4月21日(金)より全国公開

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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