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ネタバレなしの究極…どんな映画が観られるかわからない「謎試写」企画が好反応。スラダンの成功も後押し?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(写真:イメージマート)

観たい映画を選ぶ場合、誰もが「どんなジャンルで、どんなストーリーで、誰が出演し、誰が監督で…」という前情報を得て、いくつもの候補から決める。それが常識。

しかし、前情報を受け取りすぎるあまり、その映画の見所や面白さがすでに知識としてインプットされてしまい、想定内の鑑賞体験になってしまうことも多い。そして、そんな安心感のある体験を求める人も増えている。「大好きな俳優が、期待どおりの演技を見せてくれた」「あの監督らしい映像スタイルに満足できた」などなど。

一方で、できるだけ予備知識を少なくして作品に向き合えば、思わぬサプライズ、喜び、感動を味わうこともできる。いわゆる「ネタバレ」はできるだけ回避してまっさらな気持ちで作品を受け止めたい人も多数いるはずだが、この情報社会、そんな状況はどんどん難しくなっている。

しかしたまには、どんなものを観せられるか、まったく知らずに映画の世界に入ってみたい……。そんな欲望をくすぐるのが、スニークプレビュー。何が上映されるか一切告知せずに人を集める企画は、これまでも何度かあったが、2/10にソニー・ピクチャーズがツイッターで発表した、「#ソニピク謎試写」が、なかなかの好反応で広まっている。

3/2(木)の19時スタートという日程と、都内某所という場所だけが告知され、上映される作品に関しては一切、謎。

このツイートに対し

自分の見ないジャンルにも出会えるから大好き

久しぶりに感じるワクワク

●●●(具体的な作品名)だったら、ほんと泣くかもしれん

面白い企画。闇鍋っぽい

と、企画に好意的なリツイートが多数出ている。今の時代、いかに映画に、ネタバレなし、まっさらな気持ちで出会いたいという衝動が多いかという証明でもある。

この企画、もちろんわれわれマスコミにも何の作品か知らされていない。どうしても気になる人は、ソニー・ピクチャーズの今年のラインナップを調べるかもしれないが、こうしたスニークプレビューの場合、予想を裏切った作品というケースも多々ある。

ソニー・ピクチャーズは基本的にハリウッドのスタジオではあるが、日本支社として邦画の製作にも関わっているので、候補作はかなり広がったりも……。

一方で、無条件で観客を集めるわけだから、ある程度、不特定多数の人が満足できる作品という可能性も高い。上映後に「がっかり」という声が大きければ、会社としてのマイナスイメージにもつながるからだ。

とはいえ、今後の劇場公開予定作なのは間違いなさそうなので、相応のクオリティは保証されており、個人的にハズレだったとしても貴重な体験にはなるだろう。

思えば『THE FIRST SLAM DUNK』が大ヒットした要因のひとつが、基本ストーリーも含め、一切の前情報を公開前に出さなかったことだった。今回の謎試写の場合は、作品自体もわからないので単純に比較はできないが、「どんなものが観られるかわからない」ドキドキ感は、ここへきて需要が増しているのかもしれない。

今回のケースでは、少なくとも、場内が暗くなり、最初のシーンがスクリーンに広がった瞬間のテンションは、大げさに言えば、映画を初めて観た時くらいのハイレベルへと上昇するのではないか。こういう企画は、映画を愛する人には大歓迎である。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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