Yahoo!ニュース

スターのボイコットなど諸問題で危惧されたゴールデン・グローブ賞。なんとか華やかに盛り上がって一安心?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
主演男優賞を受賞したコリン・ファレル。ブラピとともに授賞式会場で(写真:REX/アフロ)

映画ファンではなければ、そこまで話題になる賞でもないが、今年はゴールデン・グローブ賞がどうなるか、一部ではその行方に注目が集まっていた。

スキャンダルや組織の閉鎖的精神から、映画会社やスターたちからボイコットを受け、存続の危機さえ囁かれたゴールデン・グローブ賞。第80回を迎えた記念すべき今年、ちゃんと授賞式が開催されるの? スターたちは戻ってくるの? などなど憶測が飛び交い、授賞式までに批判的な記事も多く出たりしていたが、結局のところ、ほぼかつてのような華やかで盛大なムードで1/10(現地時間)の授賞式は滞りなく終了したようだ。

『グーニーズ』『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』の人気子役だったキー・ホイ・クァンが俳優として大復活をとげ、映画部門の助演男優賞を受賞。スピーチで恩師であるスティーヴン・スピルバーグに感動の謝辞を述べ、そのスピルバーグが監督賞・作品賞を受賞するという、なんだか出来過ぎの展開も素直に感動を与えた。

受賞を喜ぶキー・ホイ・クァン
受賞を喜ぶキー・ホイ・クァン写真:ロイター/アフロ

その他にも受賞者がステージで「らしい」風景を作り、主演女優賞(映画ドラマ部門)を受賞したケイト・ブランシェットこそ授賞式を欠席したものの、全体に受賞者はほぼ出席しており、ボイコットされた感は希薄。

とはいえ来なかった人も、もちろん多い。主演男優賞(映画ドラマ部門)ノミネートで受賞も有力候補の一人だったブレンダン・フレイザーは、かつてHFPAのメンバーからセクハラを受け、その問題が解決していないことから早々と授賞式の欠席を表明。一方で同部門のオースティン・バトラーは早くから出席を表明しており、その彼が受賞する……という、なんだか出来レースのような展開も。もちろんエルヴィス・プレスリー役のオースティンは素晴らしかったけれど。

その他、ダニエル・クレイグ、オルヴィア・コールマンら、ノミネートされたスターたちも授賞式欠席を表明していたが、注目されたのはトム・クルーズで、かつて受賞したゴールデン・グローブのトロフィーを返還した彼が、『トップガン マーヴェリック』が作品賞(映画ドラマ部門)にノミネートされても授賞式には来ないだろうと言われ、そのとおりになりつつ、一方でトムと肩を並べるスターパワーのブラッド・ピットは助演男優賞ノミネートでしっかり出席。ブラピが客席にいれば、そりゃまあ、華やかな絵になる。

これは予期せぬことだったが、ゴールデン・グローブ授賞式にも出て、父のエルヴィス役で受賞したオースティン・バトラーを祝福したリサ・マリー・プレスリーが、直後に急死するという事態が発生。期せずしてゴールデン・グローブの名前がニュースを駆け巡ることにもなった。

また日本でも、『犬王』が長編アニメーション部門にノミネートされ、根強い人気の『RRR』がインド映画として初の歌曲賞を受賞するなど、例年に比べ、ゴールデン・グローブの話題が多く出ていた気がする。

ギリギリまで発表されなかった司会、賞のプレゼンターもやや地味……など、不安要素も何とか跳ね返した印象。

ゴールデン・グローブ賞を主催するハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)のさまざまな問題で、業界から内部改革が求められ、もちろんまだ解決されていない部分も多々あるようだが、とりあえずは今回の授賞式で体面を保ったと言えそう。

諸々抱える問題から、NBCによる授賞式のTV中継、その契約は今回だけで、来年以降は仕切り直しとなっているが、今年の授賞式を見る限り、契約は延長されるのでは、とも感じる。さて来年はどうなるか。

驚異のシンクロダンスで話題になった「Naatu Naatu」で歌曲賞を受賞した『RRR』のM・M・キーラヴァーニ
驚異のシンクロダンスで話題になった「Naatu Naatu」で歌曲賞を受賞した『RRR』のM・M・キーラヴァーニ写真:REX/アフロ

HFPAは昨年、買収されて非営利団体から営利団体になった。買収したのは、サッカーのチェルシーや野球のドジャースなども有し、数々のメディアを牛耳るトッド・ボーリーの会社で、授賞式へのスターの出席には根回しもあったことだろう。何としてもこの80回目のゴールデン・グローブ賞を、それなりに盛り上げる必要があったからだ。来年以降の放映権、その放映料がHFPA存続の命綱でもあり、営利団体としては巨額が動くことが重要なのだ。

そんな営利団体が決める賞が、アカデミー賞への最大の前哨戦とされる是非や、買収したトッド・ボーリーの会社の投資先に、特定の映画スタジオ(A24)が入っていることなど、まだまだツッコミどころはある。多様性の欠如や閉鎖性から批判を受けたHFPAだが、今年からは海外在住のジャーナリストにも投票権を広げつつ、HFPAの会員は営利団体なので高額の収入を受け取り、非会員の投票者はボランティアというのも、どうなのか。ノミネートや受賞結果において、多様性による変化が起こっているかどうかは、一年では判然としない。

燻っている問題は山積みだが、今回、華やかな授賞式となったことで、ひとつのハードルは越えたとも思われる。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

斉藤博昭の最近の記事