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シモネタ、お下品なネタを、あっけらかんと女の子にやらせたかった。 自伝的映画でアピールする女性監督

斉藤博昭映画ジャーナリスト

12/16に公開される『Never Goin’ Back/ネバー・ゴーイン・バック』は、アメリカではA24が配給。『ミッドサマー』『LAMB/ラム』など、不思議な魅力に溢れた、ある意味、最先端をいくスタイルが人気のA24作品。映画ファンの間では近年、注目の的だ。

この『ネバー・ゴーイン・バック』も、A24ムービーらしく期待どおり呆気にとられる瞬間がある。いやむしろ期待を裏切る方向でハメをはずした一作とも言えそう。

主人公2人は、高校へ行かず、ワンルームで同居しながらウェイトレスのバイトで家賃を払う生活を送っていた。海へのバケーションを計画した2人が、自宅に強盗が押し入ったことで思わぬ運命に巻き込まれる。作品のジャンルとしては、女の子同士の青春友情ストーリー。しかしその描写はかなり赤裸々で、主人公2人がシモネタから、ちょっと下品なネタ、かなり危うい言動も繰り返したりして、そこで笑わせる作りになっている。ひと昔前のTVバラエティ番組を思い出すような、いい意味での“くだらなさ”が魅力になっていたりも。

ちょっとヒヤヒヤしてしまうのは、それら過激なネタを若い女優2人にやらせていること。ただ、この『ネバー・ゴーイン・バック』の監督、オーガスティン・フリッゼルは女性である。危険なシモネタを女性監督が若い女優に任せた……という前提で観れば安心感も生まれる。もしこれを男性監督が演出して撮っていると考えたら、どう感じるか。あるいは、そういう考え方自体、偏見かもしれない。

フリッゼル監督にそのあたりを聞くと、自身が素直にやりたい描写だったからだと次のように答える。

「単に私はそういう描写が好きなんです。『ジム・キャリーはMr.ダマー』に出てくるネタは、下品とわかっていながら大爆笑していましたから。今回の私の作品では生理現象が笑いを起こしますが、明らかに自分の嗜好でこのような描写を入れています。それが同じ女性の立場として、主人公2人の行動に変換されている感覚です。物語を追っていけば、その生理現象が起こることが理に叶っているし、何より、それらは人間の日常的行為。それで笑わせられるとなったら、映画に入れちゃいますよ。うまくハマったと自信があります(笑)」

とはいえ、この手の描写の多くは、これまで男性監督が男性の俳優にやらせるケースが多かったと、フリッゼル監督は続ける。

「『Mr.ダマー』はもちろん、『40男のバージンロード』とか、似たような危いネタは、たしかに男性監督の作品が目立ちます。もし私が男性で、10代の男の子に『ネバー・ゴーイン・バック』と同じことをやらせたら、まったく“普通のこと”と捉えられたかもしれません。ただ『面白いね』と評され、何の議論にもならないでしょう。今回の場合、女性監督が10代の設定の女の子にあのようなことまでやらせたので、単に珍しがられているだけ。でも、作品の評判を聞くにつけ、女の子たちのシモネタや危ういネタが、あっけらかんと映画で描かれることを、楽しく受け止めてくれる人が多い気もしますね」

『ネバー・ゴーイン・バック』は、フリッゼル監督が10代で経験したことを基にしたストーリー。つまり自伝的映画。実際に作品を観れば、過激な描写に驚くかもしれない。しかし、こんな“イタい”経験をしながらも、愛おしいほどポジティブなティーンエイジャーが、現在こうして立派な映画監督になったことで、なんだか幸せな気分にもなる。

「映画を作るうえで自己満足に陥ってはいけません。でも一方で、諦めることは何も結果を残しません。大切なのは、不快なことにも恐れを感じないこと。まずは私のように、それぞれの人生を物語にしてみるのもいいかも。あなたの人生を映画で観たい人は、意外に多いんじゃないかな」

次世代へのメッセージをそう語るフリッゼル監督。私生活のパートナーは、日本でも公開中の『グリーン・ナイト』のデヴィッド・ロウリー監督で、両者の作風はまったく違うが、おたがいの作品に協力し合っており、彼女は俳優として夫の監督作に出演したりしている。パートナーともども、気鋭の才能として今後も注目してほしい。

オーガスティン・フリッゼル監督
オーガスティン・フリッゼル監督

『Never Goin’ Back / ネバー・ゴーイン・バック』

12月16日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開

配給:REGENTS

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映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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